第242話 疲れたから休憩


 放送が終わり、TV局へと映像が戻る。スタジオ内の混乱は未だ治ってはいなかった。慌ただしくするマスコミの連中を観て、これ以上の視聴は無駄だと悟った神宮寺は、魔晶端末ポータル画面の映像をそのまま切る。


 場には、静寂だけが残されていた。



「……この時間帯に、奴等が電波ジャックをするという状況は"視えて"いたが……まさか、こんな下らない話を聞かされるなんてね……?」


「神宮寺、お前、どうする気なんだ……?」



 僕の問いに、全員の注目が神宮寺へと移る。


 何をするにしても、キーパーソンとなるのはコイツだ。神宮寺の判断によって、今後の動きが変わってくる。注目されるのも当然だ。



「勿論、人質を救出に行くよ? 同時に、魔種混交の殲滅もしなきゃいけないしね」


「――ど、どうやって!?」


「ウチらには船が無い……アカデミーに戻る手段が無いんや。物理的に不可能やろ……!」


「……船は無くとも、手段はある」


『え!?』


「石動蒼魔……君なら気付いているよな?」



 神宮寺が、試す様に僕を見る。


 気付いて――ないけど……此処で正直に言うのは、負けた感じがして気に食わない。



「……ABYSS……かな……?」



 僕は顎に手を遣りながら、キメ顔でそう言った。つーか、消去法でソコしか無いと思う。



「その通り。連中はABYSSを経由して、アカデミー側へと転移してると見て良いだろう」


「施設から施設への転移!? でも、そんな事、どうやって――!?」


「魔種混交なら可能だと言う事だ。連中は人と魔物のハーフ。ABYSS内でも転移システムで適用されるルールは、僕達とは違うんだ」


「……魔種混交のルールなら、ウチらにはどうにも出来へんやろう……終いや」


「いいや、それがそうでも無い……」



 言って、神宮寺は気絶している東雲へと視線を向けた。……まさか、コイツ――



「……もしかして」


「あぁ、そうだ。東雲歌音……彼女も魔種混交だ。アカデミーに送られた自存派の一人。その正体を把握し、泳がせていたのだが、まさかこんな所で役に立つなんてね?」


「ちょ――ちょっと待って下さい!!」


「ん?」



 神宮寺の言葉に、意を唱える相葉。



「歌音が奴等の仲間だなんて、そんな……ッ」


「……総司」


「混乱するのは無理もない。が――事実は事実として受け止めなくてはならない。まずは彼女を起こし、奴等を追跡する事を始めるんだ」


「しかし、彼女は怪我人ですよ……?」



 気が引けると言わんばかりに、御子神輝夜は眉を顰める。優しい人なのだろう。だが――



「だからどうした? 甘ったるい事を言っているな! 女子供であろうとも、使える物は使う。プロであるならば、余計な感情を差し挟むな!」


「――ッ!」



 ……そりゃあ、神宮寺には効かないよな?


 しかし、東雲は僕にとっても友人だ。

 協力はして貰うにしても。

 神宮寺の好きにはさせたくない。


 ――さて、どうしたものか……?


 考えを巡らせていると、突然、奴の魔晶端末ポータルから着信音が鳴り響いた。画面をタップし、耳元へと魔晶端末ポータルを当てる神宮寺。



「此方、神宮寺――……は! ……は? ……ッ!? ……了解、しました……ッ」



 ……会話の内容は分からないが、何か不測の事態が起こっているのは確かだろう。電話を切った神宮寺は、深々とした溜息を吐きながら、僕達へと向き合った。



「……米国が動いた」


『――なッ!?』



 驚愕する皆。アメリカ? つまり、米軍が助けに来てくれたって事か? 僕の考えとは別に、皆の反応はソレよりも深刻であった。



「米国が……! まさかこの機に乗じて!?」


「日本政府が混乱している今、攻め入るなら今の内やと考えたんやな……!?」


「Shit!! 不味いぜ……コレは……ッ!」



 何だ何だ……? 相葉や幽蘭亭、通天閣の口振りは、まるでアメリカが仮想敵国の様じゃないか? 日本とアメリカは同盟関係にある訳だから、攻撃をしてくるなんて、そんな事は――


 ……いや、違う!!


 そうだ! 原作レガシオンでの日本は、未だ第二次世界大戦を経験していない!! つまり、アメリカとも同盟国では無いんだッ!!


 むしろ――敵!!


 植民地政策を進める欧米諸国。それに対抗する東アジアは現在でも冷戦状態を維持してるって設定だった! 米国が動いた? それってつまり、最悪は戦争になるって事なんじゃ――?



「電話は国防庁長官からだ。アメリカの艦隊が太平洋を渡って日本の領海付近に集結しているという……艦船隻数は90隻。内、空母は4隻存在する。内容から言って、ただの威力偵察では無いだろう。電文からは一言『日本を悪魔の手から解放する』そう言ってきたらしい……」


「何よそれ……無茶苦茶じゃない……」


「ABYSS攻略で、世界一から陥落したアメリカが、日本に対して何らかの工作を仕掛けてくるのは分かっていたんだ……それがまさか、こんな強硬策だとは思いもしなかったけどね……」


「――戦争になるのか?」



 僕は、神宮寺へと問い掛ける。



「――なるよ。アメリカだけじゃない。呼応してロシア・中国も艦隊を出して来ている。当然アメリカのバックには西洋諸国が付いているし、状況によっては参戦して来るだろうね? 連中は完全に日本という国を切り崩しに来ている。外交下手な為に、同盟国が作れなかった弊害が此処に来て響いて来ちゃってるね……?」


『……』



 嘘だろう……?


 ……何だよコレ。こんなのもう、レガシオンじゃない。いきなり戦略シミュレーションが始まるなんて、聞いていないぞ……?


 世界が終わるよりも先に。

 日本という国が、終わってしまう――?



「――だから、そうさせない為に僕が行く」



『……え?』



 神宮寺の言葉に、全員が唖然とした。



「――三日で、世界を滅ぼしてくる」


「……………………は?」



 コイツは……何を言ってるんだ……?



「僕なら、やれる」


『――』



 いやいや、そうじゃなくて……。


 ――え?


 ドウユウコト?



「――という訳だ。残念ながら僕はアカデミーへは向かえない。代わりに蒼魔。君が生徒達を救出するんだ」


「……あ、あぁ……」


「タイムリミットは三日だ。……早目に終わったら合流する。それまでは、任せたからな?」


「――」



 僕の返事を聞く前に、神宮寺の奴は天高く飛んで、この場から去って行ってしまう。


 アイツ――空も飛べたのか……?

 本当に……何でもアリだなぁ……?


 思わず、呆けてしまう僕。



「あ、あのう……石動蒼魔さん……?」


「え」


「俺達は、これからどうしたら……」



 所在無さげに訊ねる相葉。


 そうだなぁ――うーん。


 どうしようか……。



「――兎に角、休憩しようか?」


「へ?」


「頭使い過ぎて、疲れちゃった……」



 タイムリミットは三日――なら、少し休むくらいの時間はある筈だろう。国同士の戦いは神宮寺に任せる。そこまで行っちゃったら、僕には何も出来ないし、正直タッチもしたくない。


 今は、仲間を助ける事だけを考えよう。


 その為の、小休止である――



―――――――――――――――――――――


 第06章、完結となりました!!


 お読み頂きありがとうございます! 6章の雑感は、近況ノートにて綴らせて頂きますね。


 日頃の応援や感想コメント、感謝しております。正直これが無かったら毎日更新は続いておりません。マジでギリギリ……なんとかって感じです。限界まで足掻くつもりではありますが、毎日更新が途切れた際は「あ…(察し」と思って下さい。失踪及びエタはしませんので、そこら辺は安心してね₍ᐢ⑅•ᴗ•⑅ᐢ₎♡


 ★の評価や、♡の応援も気軽にどうぞ。


 お次は第7章ですねー。


 物語もほぼ終盤。此処まで付き合って頂いた方には感謝しかありません。是非、最後まで翔真(蒼魔)君の活躍を見守って頂けたら幸いです。


 ではでは、また次回(ง ˙˘˙ )ว!

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