第240話 狂流川の暴露


「魔種って……え……?」


「ウチらを襲って来た連中の事かッ!?」


「でも、それを何で、狂流川先輩が……?」


「……」



 混乱する皆。しかし、日本の国民はもっと困惑しているだろう。魔種混交――政府がひた隠しにしていたABYSSによる人体被害。その恥部が、狂流川によって暴かれようとしている。



『知らない人は多いよねー? じゃあ、実際に見せよっか? AD君、持ってきて」


『……』



 狂流川がそう言うと、奥から胡乱な目をした教員が台車を押して画面中央へとやって来る。



「なん……だ、これ……?」



 相葉の呟きは、皆の心を代弁していた。


 台車に載せられてやって来たのは、全長3m程の丸い肉塊の様な生物だった。身体が上下している事から、辛うじて呼吸をしているのが読み取れる。察するにコレは元は人間だったのだと思う。左右非対称に膨張し、縮小した両手。申し訳程度に付いた退化した両足はピクピクと痙攣した様に揺れている。頭部は無く、変わりに肉塊の上部に眼球と口が付いていた。焼け溶けた皮膚が再び癒着した様な、そんな顔だ。吐き気を催す様なグロテスクな生物……ソレを、狂流川の奴は嬉々として日本全国へと中継する。



『うわぁ! キモ〜いっ☆ 今回お越し頂いたのは〜、何と、日本の帝様で〜すっ♪ 皆は見た事無かったよね? 帝様って、こんなキモい外見をしてたんだよっ♪ そりゃあこんなの見せられないよね〜? 国民に隠すのも当然って感じぃ?』


「――ッ」



 画面の端。拘束された天樹院が、奥歯を噛み締めた様に見えた。前髪で隠れて、その表情は窺えないが、複雑な心境なのは確かだろう。



「帝って――あの……帝様……?」


「……馬鹿な。あの様なものが……?」



 画面の情報に混乱する周囲。そんな中、神宮寺の奴は「失礼」と言って魔晶端末ポータルを操作し、放送を流しつつ何処かへと電話を掛け始めた。数十回のコールを経て、相手方から何の反応も無いと見るや、神宮寺の奴は諦めてコールを止める。



「おい、今の電話は……?」


「……右大臣・那須野様へと連絡を取ろうとしたんだが――失敗したな」


「失敗――」


「殺されたか拉致されたか――何方かだろう」


「!」


「間違いない。コレは本気のクーデターだ。狂流川冥率いる魔種混交・自存派の仕業だろう」


「狂流川が、首謀者だって言うのか……?」



 魔種混交の自存派が、狂流川を利用しているだけなのでは? 僕は神宮寺にそう呟く。



「自存派の連中は一枚岩では無い。多数を占めていたのは穏健派だ。それが、今ではどうだ? 手の平を返した様に過激な行動を取っている。失敗すれば同胞達の命は無いんだぞ? 賭けるにしても性急すぎるだろう……何か、外的要因があったとしか思えない」


「それが、狂流川冥――……」



 神宮寺は頷きながら画面に集中する。

 僕も倣って、放送を見た。



『帝様のこの姿はね? 大量の魔素を吸った事によって、人体が変化しちゃったんだって! じゃあ、その"魔素"ってな〜にっ? って、話なんだけど、コレはABYSSから漏れてる有害な粒子の事を言うの! 魔素は、皆が吸ってる空気にも含まれてるんだよ!? 知らない内に有害な毒を吸ってたなんて……怖いよね〜☆』



 ステージの上で、戯ける狂流川。



『――で。その健康被害をひた隠しにしてたのが、今の日本政府って訳。放っといたら皆、この帝様みたいな化物になっちゃうんだよ? それなのに政府は知らんぷり。何でだと思う?』


「ABYSSによる繁栄、か……?」



 画面を観ながら、相葉が呟く。



『ピンポーン! 正解っ☆ 皆もう分かったよね? 政府はABYSSから得られる利権を捨てられなかったの。例え健康被害が出てたとしても、見ないフリ。私は知りませ〜んって顔で、被害者を黙認……場合によっては迫害し、人体実験に使ってたんだよー♪』


「じ、人体実験……」


「……そりゃあ……アカンわな……」



 衝撃的な内容に、通天閣と幽蘭亭が言葉を失う。しかし、話はまだ終わってはいなかった。



『――その証拠が、此方でーすっ☆』



 狂流川が手を翳すと、ステージの奥からゾロゾロと前に出て来る者達が居た。


 人外の特徴を持つ人間達……魔種混交。



『彼等はね? 政府から"魔種混交"って呼ばれて迫害されてる人間だよ☆ 産まれた時から政府の人間に引き取られ、研究材料として消費されて来た哀れな人達……政府は自分達の立場を守る為に、彼等を無かった事にしたの。当然怒りは蓄積するし、現状を何とかしようと立ち上がったのが、Me'yも協力している、魔種混交の"自存派"と呼ばれる集団なのっ☆』



 自存派……此処でその名を明かして来たか。



『私達の目的はABYSSの放棄!! 身体に有害なABYSSなんて、頼ってちゃ駄目なんだよ! 彼等みたいな存在を増やす事は、後の世に悲しみしか生まれないのっ!! だから私は――私達は、此処でクーデターを起こしました!!何故って……? だって、この方法しか声を上げる手段が無かったから! 力で解決するのは悪い事だって言うのは分かっている。けれど……日本の皆には、考えて貰いたいの……誰が"悪"で、誰が"正義"なのかって事を――』

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