第237話 VS.ネクロ=アイズ②


 ――SIDE:ネクロ=アイズ――



「――我輩の魔眼……【千里眼】には、島全体を見通す力がある。今現在、何処で誰が戦っているのか? どの様な戦況なのか? 正確に把握する事が出来るのだよ。更に、この能力は他人に貸与出来る。視覚の共有と言う奴だ。此れがある限り、我等は逐一連絡を取らずとも互いの近況を知る事が出来る。我輩が指揮官を任せられているのも、この能力に寄るものが大きい」



 言って、我輩は"眼"を使って戦場を俯瞰した。



「思いの他、生き残りが多い……アカデミーの学生が良い働きをしているな? 先人である君達も、負けてはいられないのではないかな?」



 顎に手をやりながら、我輩はトップクランの探索者達へと振り返った。



「……聞こえてないか――」



 地面に転がる探索者達。


 この程度の連中が日本三大クランと呼ばれているというのだから、お笑いだ。



「……君達には必死さが足りない。現状に満足し、自己を高める事を止めていたのだろう? 守りに入った探索者程、矛盾した存在はいない。明日生きられるかも分からぬ我輩達と、日々を惰性のまま消費してきた君達。どちらが勝つのかは、明白だったという事である」


「――」


「――虫の息、か。返事も出来ぬと見える」



 シド=真斗を含むマイティーズの面々は半死半生である。放っておいても何れ死ぬであろう。


 人質の輸送は、八割方が完了している。

 後は、"神奈毘の巫女"を手に入れるだけ――



「ふむ。アンめ。遊んでいるな……? キンキと対峙している青年も、実に気になるが――」



 そろそろ、撤収を考えねばならぬだろう。現在の状況は、地中に居るアントリオンが神宮寺秋斗を引き付けているからこそ出来たものだ。



「上手く推移している内に、逃げた方が良いだろう。アントリオンは1時間は保たせると言っていたが、それも確実ではない……」



 作戦開始から、既に三十分が経過している。

 これ以上はリスクが大きい。


 我輩が、そう考えた時である。

 地中から、一条の"光の矢"が飛んで来た。



「――ぬォォォォォォッ!?」



 砂浜を貫通し、彗星の如く夜天に消えていった矢は、我輩の左腕を文字通り消失させた。余りの激痛。余りの衝撃に、知らず我輩は雄叫びを上げる。……こんな事が出来るのは、一人しかいない!! 絶対的な死の恐怖!! その予感に、我輩は自身の背後を振り返った!!



「……ッ!!」



 最初に飛び込んで来た情報は、皺枯れた老人の生首……アントリオンの死であった。


 硬直は一瞬。


 六枚翅を広げた我輩は、脱兎の如く逃走を試みる。アントリオンの首を捨てた神宮寺は、我輩を追う為にその場から跳躍。翼を持たぬ人間が、何の真似かと思った瞬間――奴は空中を蹴りながら空を駆けてみせた。……スキルによる技であろうか? 引き攣る顔をそのままに、我輩は全速力で神宮寺から距離を取る。その間にも発射される弓矢の光は、我輩の心胆を寒からしめるに足る威力を誇っていた。


【呪縛眼】【衰弱眼】【幻魔眼】【猛毒眼】【熱射眼】【氷結眼】【石化眼】【麻痺眼】



「あぁぁぁぁぁぁぁぁ――ッ!?」



 逃げながら、ありとあらゆる魔眼を試した。


 だが効かないッ!!


 背後の死神には何一つ効果が無かった!!


 こんな事が、あって良いのかッ!?



「――空間転移」



 声は風の音に掻き消された。辛うじて聞こえた言葉に疑問符を浮かべた我輩だが――背後に居た筈の神宮寺が、突然前方に現れた事によりその思考は完全に止まってしまう。



「な、な、何故に……ッ!?」



 口から飛び出したのは、そんな言葉だ。

 命乞いにすらなっていない。


 対する神宮寺は、冷徹だった。空中に静止しながら、冷酷に我輩を見下ろしている。



「――滅殺だ」


「!」



 持っていた白弓を握りの部分から分割する神宮寺。張られた弦は消失し、代わりに大出力のエネルギーが弓の上下部に宿っていた。彼奴の身体がブレた瞬間。神宮寺は、まるで落葉の様な歩法で、我輩へと距離を詰める。


 恐らくは、目の錯覚を利用している!! 正確な間合いが計れず、近付いているのか遠退いているのかも、理解が出来ぬッ!?


 交差する我等。


 ――故に、この結果は必然だった。



「ハイパー・秋斗斬り……ってね?」


「――」



 もいだ首を片手に持ちながら、白き死神は胡乱な瞳で意味の分からぬ事を呟いた。切り離された肉体はそのまま墜落し、空中から数百の肉片へと分離しながら落ちて行く。……なんという早業。切り刻まれた事にも気付けなかった。


 もはや、恐怖はない。

 ただただ、圧巻。


 憎むべき男である筈が、我輩の最後を看取ったのがこの男で良かったとさえ思えてしまう。


 十分。いや、数分だったかも知れない。


 僅かだが……時は稼いだ。



「作戦の、成功を祈る……」


「……」



 同胞達へと言葉を残し。

 我輩の意識は暗転する。


 ――あぁ、理解した。


 魔種に生まれ、魔種に生きた我が人生。


 しかし。


 その死は平等である――


 誰も……差別を……したり……ない……。

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