第236話 VS.アン=ブレラ②
――SIDE:鶯卍丸――
相対して5分。護衛としては情け無い事この上無いでござるが、早い段階で、拙者は目の前の童女に"勝てない"と悟ったでござる。
奇妙奇天烈。
摩訶不思議。
此奴の戦い方は、今まで相対して来たどんな敵とも違ったでござる。暖簾に腕押し。力で対抗しようにも、触れた瞬間にふわりと消える。速さで対抗しようとも、気が付けば感覚がズラされる。奴の術中にある限り、奴は限り無く無敵に近い。故に拙者は次なる策を打っていた。
「お二人共! 耳を御塞ぎ下され――ッ!!」
「!!」
次元収納から取り出したのは、忍者秘伝の発破でござる。アン=ブレラと名乗った童女に投げ付けると、ソレは大きく爆発して、基地施設の一角を崩落させたでござる。
「なーにこれ? 面白〜い!!」
当然、奴めは無傷――拙者も、コレで倒せるとは思ってないでござる。
しかし、爆発音は響いた筈!!
「……楽しそうでござるな? しかし、これ程派手に戦っていれば、怪訝に思った探索者が、駆け付けて来るのも時間の問題……」
拙者は此奴を倒せない。しかし、この島には此奴よりも強い探索者が存在する!! 他力本願ではござるが……致し方ない。千夜様と、相葉殿を確実に守護るのが先決でござる!!
「ふーん? それで? 誰がこっちに来るのー?」
「え? それは――」
「神宮寺秋斗〜? シド真斗〜?」
それとも――?
アン=ブレラが言った瞬間――木陰から一つの影が飛び出したでござる!!
速いッ!!
影は白刃を煌めかせながら、アン=ブレラの首を斬り落とさんと、襲撃する!!
しかし――
「――御子神輝夜……かなぁ?」
『!?』
「あは! 当たっちゃった! 当たっちゃった!」
「なん、という……」
飛び込んで来たのは、千夜様の姉君。御子神輝夜様でござった。しかし、それよりも注目したのは彼女が振るった刀の刀身でござろう。
アン=ブレラの首筋に当たる瞬間。刃先が飴細工の様にくにゃりと曲がったのだ。当然、アン=ブレラにはダメージは無い。
「驚いたー? 私のスキル【メタモル】はね! 範囲内の対象を変化させる能力なのっ! 分かり易く言うとね! 私の周りにあるものは、ぜーったいに、私を傷付けられない! 物でも、生き物でもぜーったい!! だから私は最強なんだっ♪」
『……』
思わず、唖然としてしまう拙者達。
そんなの……反則では?
「これが証拠! えいっ!」
「うわッ!?」
魔法のステッキの様に童女が手に持った傘を振るうと、相葉殿の身体は"小人"から"ぬいぐるみ"へと変化してしまう。
それだけでは無い。
拙者の持ったクナイはキャンディに。
輝夜殿の刀は生きた蛇へと変わってしまう。
慌てて蛇を振り払う輝夜殿。それを見て、童女は悪戯が成功したとばかりに笑っていた。
「ッ、――何なのですか、貴女は!?」
「アン=ブレラだよー? 魔種混交って、お姉ちゃんは知らないのー?」
「魔種、混交……?」
「知らないなら教えてあげる! 私達の凄さ! そうして後で、お友達になろうねー!?」
「く……ッ」
アン=ブレラの底知れぬ狂気に、輝夜様は押されているでござる! ――当然、拙者も……!
「輝夜姉様……ッ!!」
「……ッ、下がっていなさい、千夜!!」
姉妹愛でござろうか?
お二人が複雑な関係なのは熟知しているでござるが、輝夜様は千夜様の声により気持ちを持ち直した様に見えたでござる。
「そこの忍び――協力をッ!!」
「御意にござる!!」
装備を持ち替え、拙者達は再びアン=ブレラへと向き合うでござる。
……正直、この状況は既に詰んでいる。彼奴のスキルが言葉通りのトンデモ性能だと言うのなら、その範囲に入ってしまった拙者達は、生殺を握られているも同然でござる。
――しかし!!
だからと言って、諦め切れぬッ!! 拙者が諦めてしまえば、千夜様はどうなる!? 相葉殿は!? 姉君である輝夜様も死んでしまう!!
考えねば――
絶望的な状況であろうとも、活路を見出す。
それが、拙者の忍道でござる!!
「――ッ!」
来たでござる……天啓がッ!!
無茶苦茶な策でござるが、敵の意表を突き、千夜様達を逃す為には此れしかござらん!!
「輝夜様……」
「?」
「拙者が奴の隙を作るでござる。輝夜様は転進して、千夜様達と逃げて欲しいでござる」
「……しかし、それでは貴方が?」
「……」
拙者は、無言で答えるでござる。
「アン=ブレラ……強力無比。恐らく……彼奴を倒すには、意識外からの攻撃が必要でござる」
「遠距離からの狙撃、ですね……?」
「拙者の知る中で、彼奴を一撃で屠れるのは一人しかおりませぬ……」
「……神宮寺、秋斗……ッ」
悔しそうに呻く輝夜様。
トップクランのライバル同士、思う所があるのでござろう。しかし、そんなチンケなプライドは、この際捨てて貰うでござる。
千夜様の、御命が懸かっている。
「この場を離れたら、急ぎ神宮寺殿に救援を。彼奴を倒せるのは、あの方だけでござる」
「……分かりました」
輝夜様も、弁えているでござる。
此れで――後顧の憂いは全て消えた。
「相葉殿ォッ! 千夜様を頼むでござるッ!!」
「――ッ!」
叫ぶと同時に、拙者はスキル【疾風迅雷】を発動。自身の敏捷値を限界まで引き上げる!!
アン=ブレラへと突貫する拙者。
輝夜殿も同時に転進。
千夜殿の手を取り、離脱を開始――
驚愕する敵の眼が大きく見開いた時、拙者はスキル【影分身】を行使する。六体への分身。コンマ数秒で二体が"人形"に置き換わる。残り四体の内、一体がアイテム【煙玉】を使用。アン=ブレラへの牽制であったが、効果は無し。やはり目ではなく、スキル範囲で敵を視認しているでござるな? 数瞬後に分身二体が"蛙"へと変化された。――残り、二体。
手足の腱を痛めながら、全速力を出したとしても、目の前の童女には通じない。
なんと、恐ろしき女なのか。
アン=ブレラの笑みが濃くなる。その目はしっかりと拙者を視認しており、瞬く間に無力化されてしまうだろう。そうなった場合、次は輝夜様か? 千夜様か?
そうは絶対にさせぬでござる!!
「え――?」
童女から笑みが消えた。驚き呆気に取られる彼女。それもそうでござろう。目の前に迫った忍びが、分身体に背中から斬られたのでござるからなァッ!?
「クッ!!」
焼け付く様な、背中の痛み!!
だが、意表は付けた!!
その一瞬が、欲しかったのでござるッ!!
「なに? 何をして――?」
「童女よ、花火を見せてやるでござるッ!!」
「花火!!」
背後から童女を抱き締める!! パッと見、事案でござるが――ええい、ままよ!!
「天地人! 見よ! これが人の輝き! 忍道に咲く大輪!【人間爆破】でござる――ッ!!」
「――」
「卍丸――ッ!! いや、いやぁぁぁッ!!」
閃光と共に、拙者の意識は消えていく――
千夜様の絶叫を耳に。
拙者は、満足したまま目を閉じた――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます