第235話 VS.ナザリィ=クラーケン②


 ――SIDE:幽蘭亭地獄斎――



「――式符!!」



 崩壊する埠頭から駆け出しながら、ウチは胸元かろ【招来式符】を取り出し、戦闘用の式神を召喚する。……これでもう六体目や! 良い加減泣きたくなって来たわ!?



「行けや!! 光火鼠ぴかそッ!!」



 召喚したんは鼠の式神・光火鼠。相手が人魚なら、雷系の技は効果バツグンの筈や……!!



「いてこましたれ!! 10万ボル――」


「はい、終了〜」


「ああああああぁぁぁぁぁぁ!?」



 光火鼠は波に潰された!!

 またや!!

 またこのパターンやッ!?



「――どうなっとんのや、その海水!?」



 海の中の敵やから陸地にまでは来ぃひんと思っとたんやけど、ナザリィとかいう姉ちゃん、普通に海水に乗って追い掛けて来よる!?


 増水とかビッグウェーブとか、そんなんとはちゃうわ! 明らかに奴は"海を操作"しとる! スキルか何かか……? 兎も角、アレをやられ続けたんじゃあ、ウチは手も足も出んわ!?



「――チィッ!!」



 腰まで浸かった海水から、流れてきた流木に飛び乗ってみる。……敵は何処や? 海に潜られたんじゃあ探すのも困難。全神経を尖らせて、ウチは水の波打つ音に耳を傾けた。



「……そこやッ!!」



 言って、鍼を投擲する。抵抗の少ないコイツなら、海中であろうとも突き進むやろ!



「……」



 訪れたのは、沈黙や。……外したかな? ウチが思ったその時、海水の波が一気に膨れる!!



「海にゴミを投げちゃ駄目よー?」


「――」



 遥かに高い、波の天辺。女は正論を言うて、手に持ったトライデントをウチに向けた。



「お仕置き――タイダル・ウェーブ」


「なんじゃそらぁぁぁぁぁ!?」



 波が一気にウチの方へと崩れて来た。



「招来招来ッ!! 一反木綿!!」



 慌てて繰り出した木綿に掴まり、ウチは空へと逃げ出した。ずぶ濡れやし、何なら海水も飲んどるけど、ギリギリ何とか助かったわ……。



「!」



 空から地上を見て、驚く。

 海水の侵食が酷いわ。


 本来なら陸地であった部分が、かなりの範囲で沈没しとる。……ウチの勘は当たったわ。こんな奴を野放しにしといたら、島に居る人間は、あっちゅう間に全滅するやろう。


 何とかして――


 何とかして、ウチが倒さな――


 思った、その時や。



「……help! help me!!」


「ん?」



 この、聞き覚えのあるエセ英語は……?



「hurry up‼︎ 波が!! 波が襲って来た!!」


「……ッ!! (ギターを掻き鳴らす音)」


「it's a Sharknado‼︎ ――Sharknado⁉︎」


「……何を騒いどるんや、アイツ……?」



 何や、シャークネードって……?


 まぁええわ。



「招来!! もっ匹、一反木綿!!」


「OH……Saint cloak?」


「!! (激しくギターを鳴らす音)」


「ド阿保ッ! ええからさっさと掴まりッ!!」


「thanks‼︎」



 馬鹿が二匹、ウチの一反木綿に掴まったわ。明らかに重量過多なんやけど……まぁええわ。落ちたら落ちたや。そこまで面倒見切れんわ。


 連中に合わせ、ウチも高度を落としたる。



「通天閣!! アンタ何しにこんな所に来たんや!? 連れて来た御仲間はソイツ一人か!?」


「Yes! 六朗は俺に着いて来ただけだ! 合宿最終日、Lonelinessな気分に浸りたかった俺は、船着場で歌でも歌おうと思っていたのだが……」


「波が来て――流された……と?」



 うんうん。と、頷く馬鹿二人。


 ――なんでや!? もう少し、マシな奴を寄越してくれてもええやないかいッ!?


 ウチは思わず頭を抱える!!



「あら? お友達が増えたのね?」


「げ!?」


「WAO! Ariel⁉︎」



 ――じゃかあしいわボケ!!

 ――少し黙っとれや!!



「いいわ。歓迎してあげる――」


「あっ!?」



 言って、人魚女は再び海面に潜りおった。


 チッ……またや!!


 こう、ずぶ濡れ状態やと、自分から雷を出すのも自殺行為や! かと言って他の手段はパッとせぇへん! 海中を自由に動き回る人魚女を捉えるのは至難の業や!! ……どうすれば良い? 一体、どないすればええんやッ!?


 ウチが頭を抱えた、その時や。――けたたましいギター音が、その場から鳴り響きおった。



「な、なんやいきなり……?」


「let's session‼︎ 迷ったなら役割分担だ。俺が【タンク】を。Phantom girlが【アタッカー】を。六朗が【サポート】をしてくれれば良い」


「は? 何を勝手に……!?」


「Don't think, feel‼︎ 何も分からねぇ俺だが……あのmermaidを何とかしなきゃ、不味いって言うのだけは分かったぜ!! 躊躇った分だけ相手が有利になる……行くなら、今だ!!」


「――」



 なんや、腹立つが……面白いやん?

 伊達に級長は張ってないって事か。



「ええで……そんなら、死んでこいや!! 骨の一つくらいは拾うたるで、通天閣ッ!!」


「OK!! let's diving!! ギターを鳴らせ! 六朗!」


「……!!(了解した音)」



 荒れる海中へと身を投げる通天閣。

 

 ……ギターはいらんやろ。


 思ったウチやけど、やる気無くされても困るからな。BGMみたいなもんやと割り切るわ。


 ――さて。


 こっから始めるのは、人魚釣りや。



「餌は通天閣歳三……上手い具合に食い付いた所を、ウチの最強技で屠ったるわ……!!」

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