第234話 VS.キンキ=ドウジ②


 ――SIDE:キンキ=ドウジ――



 神奈毘の巫女――及び、アカデミーの生徒を攫い、トップクランに所属する探索者共を足止めする事が、我らの役目であった。


 当然、戦闘は避けられない。

 矢面に立つのは我の仕事だ。


 神宮寺秋斗を筆頭とした、プロ探索者との激闘を予期していた我だが、まさか、斯様な小童と争う事になるとは思わなんだ。


 しかも此奴――中々やる。



「くそがッ!!」


「は、ははは……フハハハハハハ――ッ!!」



 面白い。面白い。面白い!!



「面白いぞ、小童――!!」


「あぁ!?」



 全身に細かな傷を負いつつも、童の心には僅かな怯みも見えなかった。


 ――我が怖く無いのか?


 この身、この姿を見た人間ノーマルは、その悉くが我を畏怖してきた。我が身は全身凶器の異形である。その姿・在り方を見て恐れぬ者なぞ存在しない。我自身がそう思っていたのだ。


 だが……此奴は違う。


 仲間を助ける為に、我が前へと飛び出した。

 その勇気は天晴れである。


 そして、今も尚、希望を捨てずに我と戦闘を続けている。たかが学生が――だぞ?


 殺すのは惜しい……。

 自然と、我はそう思ってしまった。


 故に、油断した。



「オォォォォ――ッ!! 紫電掌ォォッ!」


「ぬっ!?」



 ――新手かッ!?


 飛び込んで来た影は、我の背後から脇腹を掌打してきた。打撃によるダメージは皆無。しかし、この痺れる感覚は――電気ッ!?



「今だ! 槐!!」


「いっくよぉー!! アシッド・バブル!!」


「!!」



 後方から放たれた緑色の泡を、我は右手で受け止める。瞬間、燃える様な熱い痛みが腕全体に広がった。……強酸、か。雷と言い、酸と言い、我の弱点を的確に突いてくる。



「……流石に、戦い慣れしている様だな?」



 我が言うと、雷使いの女は「フン」と鼻で笑いながら、不機嫌そうに顔を歪める。



「この惨状じゃ、褒められても嬉しく無いね」


「学生さん達を何処にやったんですかー!?」


「それに、教師や職員達もだ。テメェ等が隠したのは分かってる。言え! 連中を何処にやった!? 殺したなんつったら、ぶっ殺すぞ!?」


「……カッカッカ」


「……テメェ、何を笑って――ッ!?」


「――馬鹿!! 離れろッ!!」


「身体が――光って――!?」


「判断が遅いぞッ!! 探索者――!!」



 体内のエネルギーを膨張させ、爆発させる。

 吹き飛ぶ石片は、我が装甲よ。


 ――油断したな? ルミナスよ。直前に戦った学生の方が、まだ観察眼に優れていたぞッ!!



「ちぃ……! 自爆、だと……っ!」


「無事、藍良ちゃん!?」



 噴煙が広がる中。強酸使いの術師が、雷使いへと近寄った。その行動は――余りに迂闊。


 ――故に、刈り取る!!



「キシャァァァァァァァァッ!!」


「!!」



 上空に飛び出したるは我が肉体。余分なパーツを脱ぎ捨て【フォームチェンジ】を果たした我は、一本の大剣となりて夜空を飛翔する!!


 亜空速・斬!!


 ハンドルを持つと性格が変わる人間が居る様に、我はこの形態を取ると途端に気分がハイになる!! 加速、加速、加速、加速ゥッ!! 噴射するエネルギーは我の命が尽きるまで止まらない!! 突き刺し穿ち血を啜る!! 此れが我よ!


 劔の化身・金鬼刀身。

 我が意のままに、敵を屠ろう!!



「クカカカカッ!! 取ったりィィ――ッ!!」


「――ごぷッ」


「――!? 槐ッ!? 槐ェェッ!?」



 急転直下で術師の腹を抉ってやった! 心臓を狙ったのだが、外れたなぁ……!? 苦し紛れの足掻きである。脇腹から背骨の近くまでを斬ったので、彼奴の命は長くは持たん!!



「クソがァッ! 死滅雷雨デス・ライブ!」


「飛翔剣!!」



 降り注ぐ雷の中を、我は縦横無尽に飛び交った。通り過ぎる者を貫いて。すれ違う者を切り裂いた。この身は人に非ず。ただ一本の剣である。生まれ落ちてより、ずうっと。


 その真理だけは、普遍である。


 故に斬る。

 故あって斬る。


 斬る斬る斬る斬る、キルキルキルキル……!



「キルキルキンキン、キンキンキ――!!」


『――』



 光速を超えた我に、対象の分別は付かぬ。


 雷使いの女を斬った。

 同胞の様な女を斬った。

 男の様な女を斬った。


 全ては、斬った感触による判断だ。

 未だ辛うじて、連中は生きている。


 奴等の運が良いのか――?

 それとも、我の運が悪いのか――?


 斬った、斬った、斬った、斬った。



「――え?」



 聞こえたのは、小娘の声……。

 恐らくはあの、未熟な弓使いであろう。


 ――直後。


 我の突進が、何者かによって止められる。



「………………がはッ!!」



 身に掛かる吐血。刺し貫いた感触を得て、我は何故自身が止まったのかを理解した。


 我が貫いたのは――あの小童だ。



「…………嘘。……嘘、嘘、嘘、嘘ッ!!」


「――」



 女を庇ったか……。


 この感触……心臓を貫いたな?


 間違いない。


 ――即死である。



「勿体ない事をしたな……」



 我は【フォームチェンジ】を解除し、心臓に突き刺さった両腕を、蹴りで引き抜いた。


 ――死屍累々、か。


 振り返ると、我が斬り裂いた敵達が血を流して倒れていた。全員が軽くは無い負傷だ。人質にするなら好都合であろう。



「よくも……よくも翔真を……ッ!!」


「む?」


「許さない――ッ!!」



 涙を流しながらも、我に弓を向ける少女。


 戦意喪失とは、いかぬか――



「……面倒だ。童の元へと逝かせてやろう」


「――ッ!」



 我が小娘に近付いた――その時である。



「――おい、なに泣かしてんだよ……?」


「!!」



 言葉と同時に。感じた事のない衝撃が、我の顔面に炸裂した。――悲鳴も、出ない。


 唯々、困惑。


 拳による打撃を受けたのは明白――だが、有り得ない。何だこの痛みはッ!? 金属製の我よりも硬い拳ッ!? 錐揉みして吹き飛びながら、我は疑問と共に殴った張本人へと振り返る。



「こ、小童――?」



 ――いいや、違う!!


 湯気と共に、姿形が変化していく!!


 此奴……まさか、我等と同じ――



「魔種……混交……!!」


「石動、蒼魔――?」



 呆然とした小娘の声が、場に響く。

 現れた優男は、困った様に頬を掻くと――



「……バレちゃった?」



 そんな事を、呟いた――

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