第233話 VS.キンキ=ドウジ①


 神宮寺と別れて相葉を追い掛けて行った僕だけれど……何というか、普通に見失ったよね?


 ……つか、どっち行ったのアイツ?


 土地勘が無いんだから、変にウロウロしないで欲しい。祭は終わったのか、花火の打ち上げも無くなってしまった。従って、森の中は光源が無くて薄暗いのだ。御子神千夜を探しに行ったって事は、やっぱ砂浜の方に居るんじゃないか? アッチは神宮寺が担当するとか言ってたけど、砂浜と一口に言っても、かなりの広さがある。一度戻ってみるのもアリかも知れない。


 踵を返し、丘の斜面を下った所だ。



「……ん?」



 遠くから見た海辺で、何やらピカピカとしたものが高速で動いている所を目撃する。


 ……何アレ? UMA?


 目を凝らしてジッと見ていると……相対しているのは神崎じゃないか!? それに、東雲や紅羽も戦っている。見た感じ押されている様だ!


 相葉も気になるが――

 今はコッチが優先だろう!!



「うぉぉぉぉぉっ!!」



 斜面を転がる様に駆けて行く僕。ステータスの恩恵もあって、その速度は下手な自動車よりもよっぽど速い。カーブに差し掛かった所で、減速せずにそのまま跳躍。胃が迫り上がる感覚を覚えながら、僕はそのまま数百メートル程落下をし――見事、砂浜へと着地をする。



「――翔真!?」


「ピンチそうだねぇ〜神崎? 何だか大変そうだったから、空から僕が飛んで来たよ〜?」


「――! 無茶をする……!」


「翔真君、後ろッ!!」


「おっとぉ!?」



 喋ってる最中に、背後から金ピカ男が僕に向かって殴り掛かって来た。"殴り"と言っても、その鋭利な拳でだ。どちらかと言ったら、斬り掛かって来たと言った方が正解だろう。


 寸での所で、身を捩って躱す僕。


 ついでに魔晶端末ポータルの次元収納から【看破のモノクル】を取り出してやる。バックステップで距離を取りつつ、モノクル越しに男を覗き、奴のステータスを参照する。


 出て来た数値なのだが――


 これがまた、とんでもない。



「……LV.88? 滅茶苦茶強いじゃん……」


「ほぉ? 我の実力を見知ったか。――して、どうする小童よ。恐れ慄き降参するか?」


「……降参したら、退いてくれるのか?」


「それは出来ぬ相談だな」


「なら、戦うしか無いじゃない。決まりきっている事を態々質問するなよ」



 言って、僕は自身の魔晶端末ポータルから鋼鉄製の槌・バトルハンマーを取り出した。珍しいだろう? 僕が鈍器を使うなんてさ。キンキ=ドウジ――奴の持つパッシブ・スキル【ソードブレイカー】は刀剣類による攻撃を受けた際に、敵の武器を破壊するらしい。


 しかも、物理・魔法に耐性があり、ダメージを半減にするというオマケ付きだ。


 故に、装備はコレが最適解。


 ……慌てて駆け付けて、良かったよ。レベルもそうだけど、刀をメイン武器にする神崎じゃあ、奴には絶対に敵わなかっただろう。


 

「気を付けろ翔真。……今は何処かに潜伏しているが、敵はもう一人存在する……」


「もう一人?」


「緑の河童みたいな奴よ! 名前はカッパー=グリーンって言うみたい!!」


「……何言ってるんだ、お前?」



 ふざけてるのか?


 僕は言外にそう言った。そしたら紅羽は「本当なの!」と言いながらプリプリ怒る。


 河童……河童ねぇ……?

 確かに、そんなキャラも居た様な……?



「――無駄口は終わりだ。貴様も戦士なら堂々と戦って死ぬが良い!!」


「別に戦士じゃないんだけど――ねっ!!」



 キンキの手刀と、振るったハンマーがぶつかり合う。火花を散らしながらの競り合いになるが、先に根負けしたのは僕だった。僕はハンマーを斜め下方向へと振るい、手刀を逸らした。装備込みでいけると思ってたんだけどなー? やはりLV.88には勝てないみたい。正面からのぶつかり合いは避けた方が懸命だろう。



「火神・両断――」


「止めておけ、神崎ッ!!」


「!」


「刀を無駄にするだけだッ!!」



 敵の猛攻を捌きつつ、僕は神崎に『待った』を掛ける。しかし、手数の問題は如何ともし難い。ハンマーで素手の攻撃を捌くのには限界がある。徐々に追い詰められて行く僕を見て、神崎の奴は悔しそうに顔を歪めていた。



「なら……ダーク・ジャベリン!!」


「私も援護するわッ!!」



 東雲と紅羽が、揃って援護射撃を行ってくれる。――が、キンキの奴は意に介してはいなかった。紅羽の放った矢は奴の金属製のボディに弾かれてしまっているし、東雲が投擲した闇の焔も、効果がある様には思えない。


 強いんだよなぁ、コイツ――!?


 今思い出したのだが、キンキ=ドウジと言えば、原作にも登場していた敵キャラじゃないか! それも終盤。メインストーリーのラスト。天樹院率いる自存派のクーデター事件に登場した、敵の戦闘員の一人である。


 正直、こんなタイミングで登場して良い相手では無いと思う。……まだ7月だぞ!? イベント発生は12月だった筈!!


 何だってコイツが来てるんだよッ!?



「つぅ――ッ!」



 攻撃を躱し切れず、頬を浅く切られてしまう。

 このままでは不味い。

 何とかして、敵の注意を逸さないと――



「――魔種混交が! この島に何の用だ!?」


「……ほぉ? 我等の存在を知っていたか?」


「――!」



 乗って来た!!


 ――のは良いんだけど、意味深に東雲へと振り向くのは止めてやれ。折角、上手く隠してたのにさぁ、正体がバレちゃうだろう!?



『……』



 案の定、紅羽と神崎は微妙な表情を浮かべていた。ていうか、この反応ってもしかして……もう既に東雲の正体って、バレてたりする?


 だったら少し、気不味いなぁー!?


 僕は他人事の様に、そう思った。

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