第231話 VS.ネクロ=アイズ①
――SIDE:ネクロ=アイズ――
――岩戸島基地。
ABYSS転移を可能とした特機管理施設。その建物の最上部。突き立ったアンテナを足場として、我輩は島全体を俯瞰していた。
この度の作戦に投入された魔種混交は六人。
アン=ブレラ……Lv.91。北海道支部から派遣された要人誘拐に特化した少女。範囲内の相手を変質させるスキル【メタモル】を持つ。精神に異常を持つキメラだが、本作戦には彼女の様な特化型の戦闘員が必要不可欠である。
カッパー=グリーン……LV.50。九州支部から派遣された若者だ。固有スキルの【潜水】は、字面とは別に潜る場所を選ばない。水場であろうと砂場であろうと、場合によっては、壁の中でも彼は潜る事が出来るのだ。隠密行動に秀でた若者。本人の性格がやや心配だが、人質を取るという今回の作戦には向いている人材だ。
キンキ=ドウジ……LV.88。近畿支部から派遣された武人。戦闘が不可避であるからには、彼の様な存在は必要だ。高い物理耐性・魔法耐性を誇り、近接戦闘では無類の強さを発揮する。彼ならば、トップクランの代表と相対したとしても、決して引けは取らないだろう。
アントリオン=シザー……LV.70。近畿支部から派遣された御老体である。砂中に陣地を構築するスキル【
ナザリィ=クラーケン……LV.85。四国支部から派遣された女傑。キンキと同じ戦闘員だが、此方は海を主戦場としている。港に泊まった船舶の撃沈は彼女の仕事であるが、既に事は終わっている。仕事の出来る女人である。
以上のメンバーに、指揮官である我輩――ネクロ=アイズを含めた六人が、本作戦に投入された自存派の戦力である。
皆、いつか来るこの日を夢見て、虎視眈々と己の力を磨いてきた者達だ。その練度は日本三大クランの代表達にも引けを取らぬ!!
「計画は順調――……しかし」
思った以上に、気付くのが早い。
やはり神宮寺秋斗――彼奴だけは別格か。
「他の凡夫はまだしも。彼奴だけは我輩が相手をせねばなるまいな……ッ!」
夜天に広げるは漆黒の六枚翅。両腕に巻いた封魔布を解き、百個の魔眼を解放する。げに醜きは我が肉体。魔種混交を外科的に繋ぎ合わせた"キメラ"という新種。此れなるを生み出す人間の欲は、ABYSSという歪な物から溢れている。
だからこそ、壊さねば――
アレは何れ、世界を崩壊させてしまう。これ以上、我等と同じ存在を産み出さぬ様、血を流そうとも進まねばならぬのだ……ッ!!
故に――
夜天を飛びながら、我輩は逃げ惑う地上の若人達へと視線を向ける。
「――学徒よ、死ね。探索者などという穢れた欲に支配された若人よ。貴様等は悪くないが、貴様等の教育は悪かった。この島を墓標として、世界の為に散ってくれ……」
我輩が、呟いた時だ。
「何ボヤいてやがんだ、テメェェ――ッ!!」
「!」
野卑な男の声が、真下から響く。続いて我輩の腕に絡まったのは太い銀鎖である。
「どっせぃッ!!」
「――む」
力任せに引っ張られる。我輩を地上に落とそうと言うのだろう。見れば銀髪半裸の筋肉質な男が其処には居た。確か……マイティーズの代表・シド=真斗と言ったかな?
「……貴様、何故我輩の邪魔をする?」
「あぁん? 黙れよ蝙蝠野郎。小舟から花火の光で、テメェが基地の屋上に居たのは見えてたんだよッ! テメェ、島の人間じゃねぇな? つか、本当に人間か……? 暴れられても困るし、此処は一つ、ふん縛らせて貰うぜェ!!」
「――つまり、状況を理解せずに、貴様は我輩に手を出したと?」
「状況? 何の事だ? ……まぁいいや。お前等、この蝙蝠男を落としたら、すぐに手足を拘束しろ! よく分かんねぇけど、油断はすんなよ!」
『――はい、シドさん!!』
「……」
会話にもならんか。
ひぃー、ふぅー、みぃー、よー……。
敵の人数は六人。
何れも鍛えられた探索者である。
我輩の"眼"で観察した所――
平均レベルは50程度。
代表のシド=真斗は、LV.60とまずまずだが。
――LV.90の、我輩の敵では無い。
「……地上に、降りれば良いのだな……?」
「あぁ? ――うぉっ、とッ!?」
瞬間、急降下する我輩。鎖が弛み、つんのめるシドだが、すぐに此方の動きに警戒する。
行動自体は悪く無いが――些か様子を見過ぎであろう。……どれ。其方が来ぬというのならば、此方から一撃をお見舞いしてやろう。
「開眼せよ……ガン・ブラスタ――ッ!!」
『うぁぁぁぁぁぁ――ッ!?』
両腕にびっしりと生えた百の眼から、熱光線を放射する。――見敵必殺とは、この事よ。航空旅客機を数秒で飴細工にする火力である。人の身で喰らえば、骨すら残らぬぞ!!
「散れ! 散れェェッ!!」
「フハハハハ!! 甘い! 甘いぞ! 探索者!! 貴様等の力はその程度かッ!? その程度の恩恵に縋り付き、我等を迫害していたのかッ!?」
シド=真斗が突進する。肉弾戦に持ち込み、熱線を止めようと言うのだろう。両手には火炎耐性を付与されたラージシールドを構えている。
舐められたものだ……。
防御を固めたつもりだろうが、アレでは却って良い的であろう。散眼していた眼を一点に集中。一瞬にして焼き切ってやろう……!!
我輩が盾に注視をした、その時である。
「今だ!! 投擲ィィィ―ッ!!」
「む? ――これはッ!!」
生き残った探索者が、シド=真斗の号令と共に手榴弾の様な物を投擲した。――瞬間、辺りに広がる閃光。眼を焼く様な眩しさに、我輩の視界は真っ白となり、前後不覚に陥ってしまう。
「目の良さが命取りなんだよぉ!!」
「く――ッ!」
「喰らェェッ! これが俺のぉぉ!! サザンクロス・トルネードだぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
「むごほッ――!!」
蹴り、突き、殴りを混ぜた、シド=真斗の豪快なコンビネーションが炸裂した。一撃一撃が風を纏い、やがて真空へと成長する。名をサザンクロス・トルネードか。……成程。トドメの右ストレートと同時に発生する竜巻の奔流を身に受けながら、我輩は実に感心していた。
流石はトップクランの代表。
むしろ――
これくらいは、して貰わねば――とね。
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