第230話 VS.カッパー=グリーン①
――SIDE:鳳紅羽――
「はぁ〜、楽しかった……」
花火も終わっちゃったし、BBQ大会もそろそろお開きね? 砂浜で歩達と談笑していた私は、うーんと伸びをしながら、息を吐き出したわ。
「……総司は戻って来なかったな? 翔真を連れて来ると言っていたのだが……?」
「失敗したんじゃない? アイツって人の多い所が嫌いみたいだし、BBQなんて尚更でしょ?」
歩の疑問に、即答する私。
昔はそんなんじゃ無かったんだけどね?
今のアイツは、良く分からないわ。
「案外、二人で楽しんでるのかもよ?」
「総司と翔真が? まさか……」
「断られたんだったら、戻って来るのが普通でしょう? 総司君、帰って来てないもん」
「確かにな……」
歌音の言葉を、信用する歩。
「……少し、様子でも見て来るか?」
「行こ行こー! 皆で行こう!」
「ちょっ、ちょっと待ちなさいよ!?」
「?」
「……どうした、鳳?」
「どうしたも何も……本気で野次馬に行くの? 別にそんな事までしなくても――」
「紅羽ちゃんは残るの?」
「……え?」
「まぁ、無理強いはしないが――」
――ふ、二人とも……見に行くっていう選択肢は絶対に変えないのね?
「……良いわ、分かったわよ。それじゃあ、さっさと翔真の所に行きましょう……」
額を抑えながら、呆れる私。本当、何だってアイツはこんなに好かれてるのかしら?
「……?」
……あれ? 二人からの返答が無い……?
「……歩? 歌音?」
私が顔を上げた、その時だ。
二人の顔には、緊張と恐怖が浮かんでいた。
――え?
疑問に思う私。どうしたの? と、口に出す前に、歌音が見たものを説明した。
「生徒が……消えた?」
「え!?」
「今、其処にいた学生が、一瞬の間に姿を消したの!! 三人……ううん、四人一辺に!!」
「な、何を言ってるの……歌音……?」
「……俺も見た。それと、もう一つ疑問なんだがな、鳳……」
「な、何よ……?」
嫌な予感がする。
私は固唾を飲みながら、歩の言葉を待った。
「砂浜に居た生徒なんだが……こんなにも少なかっただろうか……?」
「――ッ!」
「寮舎区画に戻ったとか……?」
「戻る姿を、目撃したか?」
「……」
「俺の覚えている限り、付近にいたのは数十名だ。A〜D組が混在していた」
「――私、覚えてる! 近くに三本松さん達も居た筈だよっ!!」
「彼女達も何処にも居ない? そんな、神隠しみたいに消えちゃうなんて……そんなこと!?」
「――あるんだなぁ〜〜〜、コレがぁッ!」
『!!』
――突然、背後の砂浜が隆起する!!
私の腕を引っ張る歌音。
化物――ええ。ソイツは、そうとしか言えない格好をしていた。頭にはシャンプーハットの様な被り物を付け、目にはゴーグル。口にはシュノーケルの様な管を咥えていたわ。体の表面は鱗に覆われ、指には水掻きが生えている。衣服と呼べる物は、薄汚れたジーンズぐらい? むしろ、穿いている事が驚きよッ!!
「カッパカパ〜〜ンッ!! ――良く気づいたねぇ? 嬉しくなっちゃって、ボク、ついつい砂の中から出て来ちゃったよぉッ!!」
「な、何なのよ、アンタ……?」
話が通じる……?
なら、こう見えてコイツは人なのかしら?
恐怖の魚人人間?
B級映画にありそうなタイトルね……?
「何だと思う? くふふ。何だと思う?」
「何だと……言われても……」
何、コイツ。……笑ってる?
「貴方……もしかして河童の……?」
「カッパパカ〜ン!! 大正解ッ!! え!? お姉ちゃん何? 業界通……!?」
苦虫を潰した様な目で、河童の化物を睨む歌音。……ていうか、河童って。あの河童!?
「……生徒達を何処へやった?」
「ありゃりゃ? もしかして怒ってる? 嫌だなぁ〜。ボクだって、頼まれたからやってるだけなんだよ?」
「頼まれた? 誰に――?」
歌音が問うと、目の前の河童は呆れるくらい簡単に口を割る。
「誰にって……そりゃあ"レイヴン"だよ。ボクだけじゃないよ? 今ねぇ、全国の自存派が集結して、国を驚かそうとしてるんだって!」
「国を、驚かす――?」
「そうそう! でね、ボクらが此処に来たのはトップクランの足止めが理由なんだけど……勿論、それだけじゃなくてねっ!?」
「――カッパー。そこまでにしておけ」
『!!』
斜め後方から男の声が上がったわ。声を聞いた瞬間、カッパーと呼ばれた河童の化物は、竦み上がって怯えだす。まるで悪戯がバレた子供みたい……見た目の異形さとは乖離した様なその姿に、私は気味の悪さを感じてしまう。
「新手か……」
現れた男は、これまた人とは形容し難い外見をしていたわ。全身が金属で出来た、ピカピカな男。肩、膝、頭部。所々は尖っていて、まるで全身が刃物みたい。男は私達を一瞥すると、そのまま無警戒なままにカッパーと呼ばれた化物へと近寄って行く。
「キ、キンキ……」
「事前に『遊ぶな』と言っていただろう。残りの生徒はどうした? まさか逃した訳では――」
「ちちち、違うよぉ! アントリオンに渡したって! ちゃんと仕事はやってたよぉ!」
「……なら、コイツらは何だ?」
「――!」
キンキと呼ばれた金属人間が、私達を睨み付ける。その圧は半端じゃない……!
「それはそのぉ、ちょっとお話を……」
「この作戦が、俺達にとってどれほど重要なものか……貴様は分かっていない様だな?」
「ふぇぇぇ!?」
怒るキンキと、怯えるカッパー。
何が何だか分からないけれど、このまま同士討ちしてくれるなら、しめたものよね……?
棚ボタを期待した、その時だ。
「――待って。作戦って何……? 私達はそんなの聞かされていない!! 貴方達は、一体何をやっているの!?」
「か、歌音……?」
歌音が声を荒げた。
驚いて、彼女の顔を見る私達。
「ん? 貴様……まさか潜入班……?」
「え! お姉ちゃん、お仲間だったの!?」
「……っ、いいから、質問に答えて!!」
仲間? 仲間って、何の話だろう?
歌音がコイツらの――仲間?
そんな馬鹿な話が――
「……歌音?」
「……」
私の声に、歌音は反応しなかった。
……分からない。
……もう、分からない!!
――もう!! 何なのよ、この状況ッ!?
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