第227話 BBQと結果発表


 神宮寺との会話を終えた後、僕は他の生徒と合流し、八尾比丘尼の訓練教導を受ける事になった。一緒の教導という事で、相葉達は僕の事を歓迎してくれていたが、正直上の空だった。


 齎された情報が、余りにも衝撃的過ぎた。


 世界崩壊? ABYSSが原因?

 レガシオン・センスは仮想シミュレーター?


 現実離れし過ぎていて、頭がふわふわする。


 此れ以上の情報処理は不可能だと判断した僕は、一旦考えるのを止め、臨海合宿に集中する事にした。幸い、教導自体はマトモな内容だったから、上手く現実逃避に利用出来たと思う。


 他のクランがどんな教導を行って来たのかは分からない。ただ、この四日間は実に平和で、学生らしい青春を謳歌出来たのは確かだろう。



「海でBBQとか……初めてかも知れないね?」



 人気の無い外の階段に座りながら、肉の刺さった鉄串を持つ僕。一口齧り付くと、香ばしいソースの甘みが口内へと広がっていく。


 ――うん、美味い。


 モソモソと咀嚼しながら、視線を上げてみると、遠く離れた砂浜ではグループを作った生徒達が和気藹々とはしゃいでいた。


 臨海合宿最終日の夜。


 海辺で行われたBBQ大会は、1年生の全生徒が参加していた。夜空にはマイティーズが用意した打ち上げ花火が輝いている。此処までの四日間。頑張って来た生徒達へのご褒美として、シド・真斗が用意したらしい。振る舞われている食材も彼等の持ち込みだというのだから、凄いよな? 何というか……コミュ強による圧倒的な企画力を感じさせられたね。他のクランには真似出来ない芸当だと思う。



「楽しんでるか、翔真?」



 黙々と一人で食事をしていると、料理の載った皿を片手に相葉の奴が話し掛けて来た。


 多分……気を遣われたのだろう。


 口内に有った肉をモグモグと咀嚼してから、僕はやって来た相葉と向き合った。



「……傍目からは分からないと思うけど、これでも普通に楽しんでるよ。肉も美味しいしね」



 だからまぁ、気にしないでくれ。

 アッチで紅羽達と遊んで来い。


 僕は言外にそう含ませたのだが、相葉の奴は何を思ったのか、僕の隣に腰を下ろす。


 ……むさ苦しいなぁ。


 夜空に輝く花火の下で、男二人が肩を並べて座っている状況って……一体何なんだ?


 そこは流石に女子が良かったぞ。

 まぁ、仕方がない。


 紅羽よりはマシ――って、思っておくか。



「シドさんが用意してくれた肉って、関東の有名ブランド牛を使ってるらしいぞ?」


「へぇ? アメリカ産じゃないんだ……?」


「まさか、生徒全員分の食材を用意してくれるとは思わなかったよな? やっぱり、ABYSS攻略の最先端を走る人達は、凄いと思う」


「肉で見直すのか……?」


「いや、訓練を受けてそう思ったんだよ!?」



 ジト目で見詰める僕に、相葉の奴は焦って言い訳を始める。まぁどっちでも良いんだけど。



「八尾比丘尼の神宮寺秋斗。日本最強と言われるだけあるよ。知識も経験も技量も、まるで段違いだった。ABYSSの到達階層数で言えば、今は日本が世界のトップなんだろう? なら、日本最強は世界最強って事になる。……正直、凄過ぎて俺には何が何だか分からない」



 でも――と、相葉は言葉を続けた。



「神宮寺さんから受けた教導は、翔真の助言と似ていたんだ。内容自体は全然違うんだけど、教え方とか、強くなる為の考え方が根本的に一緒だったと思う」


「……」



 そりゃあ、そうなるだろうね?

 同じプレイヤーだし。

 同じランカーだ。


 知識面だって、変わりは無いだろう。



「……俺はさ、神宮寺さんは凄い人だと思うけれど。でも、同じくらい……翔真もあの人に負けてないと思う」


「……」


「初めて会った時から、何となく思っていたけど――やっぱりお前は、天才だよ」



 臆面も無く、恥ずかしい事を言う奴だ。

 褒められて悪い気はしないけれど。


 この空気――どうする気だよ?


 全く……。



「……その天才も、臨海合宿では大した成績は残せなかったけれどね?」


「あぁ――ポイントの事?」



 僕は黙って頷いた。


 クラス対抗戦の個人ポイントなんだが、僕の方は残念ながら振るわなかった。神宮寺の採点が初日以降厳しかった所為である。八尾比丘尼を選んだ生徒の平均点は3点だった。僕の方は善戦したが、あの野郎……遂に10点より上は取れなかったな。教導内容は多肢に渡り、不当に成績を操作された疑惑は無かった。ただ単に厳し過ぎたのだ。アイツをギャフンと言わせられなかった事が、僕の中の心残りだろう。


 合計点数は30点。


 個人順位の最下位は脱したが、それでも全体では下位の部類だ。やはり初日を寝て過ごしたのが痛かったかな? 級長としては最低点数だ。


 学年でのランキングは以下の通り。


 [教室順位]

 1.1-B…1052点

 2.1-C…1049点

 3.1-A…1046点

 4.1-D…1033点


 [個人順位]

 1.幽蘭亭地獄斎…62点

 2.田中セレスティナ…58点

 3.通天閣歳三…49点



 まさかまさかのB組が一位という結果になってしまった。八尾比丘尼の採点が厳しくなった所で、マイティーズの基準が元々甘かったのが勝因だろう。B組は主力がマイティーズに偏ってたからな? 逆にD組は相葉や卜部といった点数が取れる生徒が八尾比丘尼を志望してしまったから負けたのだ。とは言え、全体的に点数差はそれほど無い。思ったよりもバランスの良い競技だったのだろう。結果自体に不服は無いね。


 地獄斎が1位なのは……まぁ、納得。


 採点担当のマイティーズにしてみれば、彼女の式神能力は労働力を確保出来る滅茶苦茶優秀なスキルだと思うしな。点数を上げてしまうのも無理はないだろう。


 2位の田中セレスティナは、その腕力を買われたのかな? アタッカー最強の攻撃力。そして何より筋肉だ。マイティーズは筋肉至上主義だから、アッチの男達には、さぞモテモテだっただろう。2位になる理由も分かるというもの。


 3位の通天閣は……頑張ったんだろうなぁ? 決して甘い姉では無かった筈。身内票なんて有り得ない。この結果は、奴が努力して勝ち得た物だ。此処は素直に負けを認めよう。

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