第226話 真相究明③


 ――SIDE:神宮寺秋斗――



「……質問の意図が見えないんだが?」


「惚けるなよ……だって、おかしいじゃないか。お前は余りにも知り過ぎている。その知識は何処で得た物だ? 前回が有ったのなら、前々回が有ったとしてもおかしくはない……」


「……」


「察するにお前は、何度も何度も似た様な事を繰り返して来たんだろう? お前の周りに誰もいないのが、その証拠だ」


「誰もいないとは、心外だね? トップクランの代表たる僕の周りに、誰もいない……? 君の目にはそう言う風に映っているのかな?」


「事実、そうだ。八尾比丘尼の仮面を付けたメンバーが、お前の言う"超越者"だとは思えない。従者か、部下か、……下手をしたら捨て駒か? 顔を隠させている所と言い、大事に扱っているとは思えないんだよ。――特に、仲間思いのアンタにしてはなっ!」


「……っ」



 ――妙な所で、勘の鋭い男だな?


 ……確かに、八尾比丘尼のメンバーは僕が調達して来た信者の一人だ。僕を崇拝し、僕の為なら自死すら厭わない便利な連中……僕自身、奴等を"仲間"だと思った事は一度として無い。【絶対支配ドミネーション】の下位スキル【感情増幅】により僕への忠誠心を限界まで上げた操り人形。ただ便利だから使ってやってるだけ。それ以上の感情は抱いていない。



「何回失敗した……? 言えよ! お前は――何回世界を滅ぼしたんだッ!?」


「……知らない」



 僕は正直に答えた。

 だが、その答えに彼は満足はしない。



「知らないだと!? ふざけるな! お前、自分が仕出かして来た事の意味が分かって――」


「――実際に知らないんだ。覚えていない。だから、仕方がないだろう?」


「な、何……?」


「……君の世界に辿り着いた時も、僕は記憶障害によって廃人同然だったんだ。カウンセラーの……蓮陵寺れんりょうじに会わなければ、僕は自我を取り戻せてはいなかった」


「蓮陵寺……? まさか、蓮陵寺十和子!? レガシオン・センスのゲームクリエイター!?」



 ……あぁ、成程。

 

 彼はソッチの肩書きに反応するのか――



「蓮陵寺十和子は、有名なカウンセラーだ。戸籍も無く、行き倒れていた僕を診たのも彼女。君の言う通り、蓮陵寺にはもう一つの肩書きがあった。それは――ゲームクリエイター。彼女は……何というか、奇抜なゲームを作る事で有名でね。精神病の患者からインスピレーションを得て、それを作品に昇華しているとか何とか……そうして、今回お鉢が回って来たのが僕だった。蓮陵寺は僕から得た断片的な並行世界の知識を、興味深く聞いていたよ。その内容を気に入ったのだろう。僕に戸籍を与え、彼女の親戚である御剣の名を僕に与えた。全部偽造だったんだけど……まぁ、上手くやったみたい」


「まさか、レガシオン・センスって――」


「僕の知識を元に彼女が作ったゲーム。つまり僕は、開発側だったって事かな?」


「――いや! でも、おかしい!! なら何でお前がこの世界の知識を持ってるんだよッ!?」


「そんなの、知るか。考えられる点として言えばABYSSぐらいだろう。記憶は曖昧だけど……覚えている。あの中は混沌としていた。世界は元より、時間や時空が混ざり合っている……もしかしたら、僕は以前この世界に来ていたのかも知れないね? ――いや、この世界に近しい異世界かな? 兎に角、ソレに関しては答えは出ないよ。考えても無駄な事さ」


「――ッ!」


「……分からないんだよ。本当に。僕は僕自身が何者なのか分からない。過去から来たのか、未来から来たのか、異世界から来たのか、分からない……永遠に並行世界を漂っていた――だから、無駄に知識だけはある」


「……それも、結局は断片的なんだろう?」


「そうさ。だから失敗する。だから間違う」


「――僕は、お前を信用しない……」


「出来ない、では無いんだね?」


「あぁ、しない。……敢えてしない。僕とお前では価値観が違う。人に対する損切りの早さ。自己の利益だけを追求する姿勢が気に食わない。見てて不快で、苛々するんだよッ!!」


「それはそれは――お互い様さ」



 交渉は決裂、かな?

 まぁいいさ。


 最低限の情報は与えられた。


 望む望むまいと、彼はABYSSを攻略するだろう。僕への警戒心が解けない以上、対抗する手段を欲する筈だ。我が身可愛さで先に100階層に到達するかも知れないね? まぁ、そうなったらそうなったで構わない。彼が手にしたレガシオンを奪い取り、鳳紅羽に移植すれば良い。


 そうすれば、僕の計画は完成だ。



「……どうやら、もう時間の様だね? 生徒達が待っているかも知れない。そろそろ戻ろうか」


「戻ろうかって――まさかお前、本気で僕に訓練教導を施すつもりじゃないよな?」


「一度言った手前というものがある。面倒なのは此方も一緒だ。我慢して着いて来い」


「チッ」



 嫌そうな顔で、舌打ちをする蒼魔。


 改めて、実感した。

 僕等は本当にそっくりみたいだ。


 趣味嗜好考え方。

 そして、好きになった異性さえも――


 ……嫌になるよ……心底ね。

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