第225話 真相究明②
――そうか、そういう事だったのか。僕は神宮寺の語る言葉を全て信じた訳ではない。だが、記憶として思い出せる事はある。断片的に浮かぶ光景。割れたアスファルト。明滅する信号。遠くで上がる火災。壊れた――世界。
きっと、僕の世界は終わってしまったのだろう。天空から降り注ぐ紫色の輝きが、人々を化物に変えていく。姉も、妹も、両親も。皆々、人として終わってしまった。溶け合い混ざり合い分解され、やがて大気へと気化していく。僕が原型を留めていられた理由は分からない。意識を保てた理由も分からない。けれど――
天空に聳える塔を見据え――
僕は、あそこに行かなければいけないのだと、強く決心したのだけは覚えていた。
「……黄泉の、100階層攻略、生配信……」
「あぁ、君も見ていたの?」
「あの瞬間、世界が崩壊したんだ……おかしいだろう? タイミング的に出来過ぎている……お前が、何かをやったとしか思えない……ッ」
「……言ったろう? "塔"は世界の修復機能だって。ABYSS攻略とは人間がその"塔"を破壊する事に等しいんだよ」
「……え?」
「各階に設置された階層主は、異物を押し出す白血球の様な役割をしている。僕等はそれを倒して、脳髄へと侵入しているんだよ? 当然、塔だって壊れるだろう? 100階層に到達し、塔を完全に破壊した時、世界は崩壊を始めるんだ」
「ぜ――」
衝撃で、呼吸が乱れる。
膨張する怒気が、肺を圧迫しているのだ。
「全部、お前の所為じゃないか……ッ!!」
「……」
「偉っそうにしやがって……! 全部分かってたって事じゃないか……ッ!? 世界が崩壊する事も! 人類が死滅する事も全部全部分かった上で、お前は引き金を引いたんだな……ッ!?」
「……そうする以外に、生き残る術が無かったもんでね」
「――ッ」
「早いか遅いかの違いさ。何れ崩壊が始まるのなら少数でも助けられる道を選ぶべきだろ?」
「少数って……皆お前の身内じゃないか!?」
「……身内で何が悪い? 世界崩壊の時に身も知らずの他人を助けてどうする? 全てを救えない以上、助けられる人間を選別するのは当然だ。誰だって友人の命は惜しいだろう? 全ては自己責任。君に僕を責める資格は無いんだよ?」
「そうして死んでいったのが僕の家族か!? お前が見捨てた人類かッ!? ふざけるなよ……都合の良い事ばかり言いやがって!!」
「ハッ、都合か……だが――誤算はあった」
「!」
「黄泉比良坂の皆は、超越者には成れなかったんだ。体内にレガシオンを取り込んだと言うのに……誰一人、人の枠から抜け出せなかった。この世界のルールに縛られ、"塔"の守護者としての役割を与えられてしまったのさ」
「塔の守護者……? 階層主じゃなくて……?」
「恐らくは僕等へのカウンターだ。彼等は人間外の存在に反応して、守護者となった黄泉のプレイヤーを防衛に当たらせているのさ」
当然、コストは大きいと――神宮寺の奴は付け足した。塔の主な役目が世界の修復だと言うのなら、探索者の迎撃なんてものは余計な手間なのだろう。普段は魔物や階層主に当たらせて、人間外の存在……つまりは、僕や神宮寺の様な魔素を多く複合した人間には、守護者を当てているという事になる。元が黄泉の連中だから、守護者は階層主の様に
以前、僕が階層主と再戦出来たのは、菊田や他のPT面子の存在に紛れていたからかも知れない。元々が取って付けた機構だからか、存在判定もガバガバなのかもな?
「黄泉の連中は、助からないのか……?」
「魂まで取り込まれてしまっている。もう無理だ。君の様に、早い段階で同一存在の肉体を奪う事が出来たなら話は別だったと思うけどね」
「……何故だ」
「は?」
「何故僕に、この事を話した……? 神宮寺秋斗……お前の意図が、どうにも見えない。お前は……一体、何を考えているんだ……?」
「僕の、意図――か」
視線を逸らし、考える素振りをしながら、神宮寺の奴は僕から距離を取る。
「……まぁ、今なら冷静に話が出来ると思っただけだよ」
「あぁ?」
「並行世界を移動する度に、僕等は記憶を失っていく。君のその記憶も知識としては残っているのかも知れないけれど、その時感じた激情や怒りというものは確実に薄れてしまっている」
「……」
「僕は君に恨まれる様な事をした。それは間違いない。だけど、以前の君は此処まで僕の事情を知っちゃいなかった。全ての情報を整理した時、石動蒼魔は僕への復讐を優先するのか、改めて知りたかっただけかも知れないね?」
――復讐? 復讐……。
向こうの世界が滅んだのは、ABYSSが原因。直接の要因を作ったのは奴だったが、それも時間の問題であり、情状酌量の余地は……確かに、ある。黄泉比良坂のメンバーが、世界に取り込まれたのも、奴は誤算と言っていた。
……嘘を言ってる様には思えない……。
神宮寺秋斗と敵対する理由は……。
……何も、無い?
「――僕等は、協力出来ると思うんだ」
「……協力?」
「僕の目的は"塔"の頂上にあるレガシオンさ。アレを使って僕と同じ"超越者"を増やすんだよ。その為には、僕以外の探索者に塔を攻略して貰う必要がある。君に打って付けな役目だろう?」
「何故、自分でやらないんだ……?」
「レガシオンとレガシオンは反発し合うんだ。前回、僕が失敗したのは、僕の中に合ったレガシオンが新たに顕現した方を劣化させたからだと思っている。……今度こそ失敗しない為に、僕以外の他人の手によって、レガシオンを顕現させる必要があるって訳さ」
前回? 今度こそ?
……何故だろう。
コイツの言葉は、いちいち引っ掛かる。
まるで他人事。
僕の世界を、失敗と断じ。
後悔も、振り返りもしていない――
「……話の途中で、すまない」
「え? あぁ――何だい?」
この、爽やかな作り笑いが嫌いだ。
この、余裕ぶった態度が憎くて仕方がない。
「一つ気になってた事があってな――」
だから、僕はその疑問をぶつけてやる。
到底看過出来ない違和感。
――疑念。
「……お前、何回失敗してるんだ?」
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