第222話 大人達からの質問攻め


 閑散としていた基地内も、生徒達が起床するに連れ、徐々に活気が戻って来ていた。朝食を食べ終えた僕は、食堂を離れ、通路で朝の挨拶をする生徒達を尻目に、魔晶端末ポータルにアップロードされたスケジュール表に目をやりながら、集合場所である訓練施設へと向かっていた。


 神崎と通天閣は、食堂に置いて来た。

 何でも、仲間が来るのを待つそうだ。


 時刻は――午前8時か。

 スケジュールによると、集合は9時らしい。


 流石に早過ぎたかな……?


 施設前には人っ子一人存在しない。


 否――訂正。


 一人は居た。



「よぉ学生! 朝が早ぇーな!」


「えーっと……」



 何か知らんが、パリピっぽいムキムキな男性に話し掛けられた。ていうか、この人……前に海の家で働いてなかったっけ? 銀髪オールバックにサングラス。腕には厳ついタトゥーも入れてるし、正直近付きたくない人種である。



「お前、石瑠翔真だろう? 一年生最強とか言われてる生徒。跳ねっ返りたい気持ちは分かるけどよ、合宿初日に神宮寺に喧嘩売んのは利口とは言えねぇぜ?」


「は? 神宮寺? 喧嘩?」



 一体何の事だと首を傾げて見せると、男は大仰に「おいおい」と言って、肩を竦めた。



「記憶が飛んじまったのか……? アイツ、どんな勢いで学生をブン殴りやがったんだ……?」


「……良く分かんないけど、アンタ、別に僕に用があるって訳じゃないんだよな?」



 だったら立ち去ろう。


 知らないオッサンと会話する位なら、その辺の石に語り掛けた方がまだマシだった。



「あー! ちょっ、ちょっと待てよ!! お前に聞きたい事があるんだって!?」


「いや、知らないし……」


「昨日助けてやっただろう!? 俺がお前を医務室に連れて行ってやったんだぞ!?」


「えぇ……?」



 何だ、面倒臭いな? 悪質なキャッチに引っ掛かってしまった様な気分だ。


 無視無視。


 とにかく、無視をしよう。



「俺は! マイティーズの代表シド・真斗だ! 聞き分けが悪いと評価点にマイナスすっぞ!?」


「――はぁ?」



 そこまで言われて、僕は漸く立ち止まる。


 シド・真斗……? コイツが?


 つか、評価点を人質とか酷くないか?


 学校に訴えてやりたいけど――アカデミーの教員て、役に立たないんだよな? 他のクランに言い付けた方が、まだ効果的かも知れない。



「……何でシド・真斗が海の家の店員なんてやってたんだよ?」


「お? 覚えてたのか? 簡単に言やぁ、ありゃあお茶目だね。実際には店内は自動化されてたから、奥に行きゃあ自販機で色々購入出来たんだよ。つっても、それじゃあ味気ねぇだろ? だもんで、俺考案でマイティーズのメンバーと店員ごっこをしてたって訳っ!」


「……暇なのか?」


「ははー! 辛辣ー!!」



 豪快に笑っているが、本当にこんなのが三大クランの代表なのだろうか?


 ――ABYSS攻略、大丈夫か?


 思わず、日本の未来を悲観してしまう。



「……ウザがられてるみてーだから、スッパリと用件を言うぜ? 謎の探索者・石動蒼魔とお前の関係は――何?」


「……知り合い」



 僕は「またか」と思いながら、今までもそうした様に、一言で答えてやる。



「知り合い!? それっつーのは、どんな知り合いだ!? 連絡は取れんのか? 奴の素性を何処まで知っている!?」


「……」



 うぜぇ……またこの繰り返しだよ。我道との決闘を、蒼魔の姿で挑んだ事に後悔はない。けれど、一々根掘り葉掘り聞かれるのは思った以上にストレスだった。


 早く集合時間にならないかなぁ……?


 僕が思った、その時だ。



「抜け駆けですが、シド様……?」


「げ! 輝夜さん……」


「情報を得ようとするのは分かりますが、私達を差し置いてというのは頂けませんね?」


「フン、言われちまったなー、シド・真斗?」


「ズルです、ズルー」



 察するに、現れたのはルミナスの代表・御子神輝夜だ。彼女に追随した不良系のパンクな姉ちゃんが通天閣藍良つうてんかくあいらだろう。弟と違って、少しテンションが低い。所謂ダウナー系という奴かも知れない。ぽややんとしているのは――誰だ? ちょっと良く分からない。色白で何処となくインドア系の匂いがする女性。身体付きは豊満の一言。大きい胸に大きい尻。はち切れんばかりのタイトスカートは、男なら一度は顔に座って欲しいと思う筈。それくらい、だらしのない男好きな肉体をしていた。



「初めまして、石瑠翔真様」


「え、あぁ……」


「御身体の方は、もう宜しいのでしょうか?」


「は? まぁ……」


「礼を言っとけよ、少年? お前を治療してやったのは、そこにいる輝夜だ」


「え?」


「養命光を使って〜、献身的に治してたよ〜」



 身体をくねらせながら、ぽややんとした女性が笑顔で僕に説明する。そんな事実よりも、ユサユサと揺れる豊満な巨乳に目がいってしまうのは、男の性なのだろうか?



「恩に着せるつもりは有りません。けれど、可能であれば一つお聞きしたい事があるのです」


「また、石動蒼魔の事か……?」


「分かってんじゃねぇか……だったら、さっさと吐けよ……」


「吐けー♪ 吐けー♪」


「……二人とも、お止しなさい!」



 仲間の言葉を静止しながらも、御子神輝夜は僕の答えを待っている様だ。しかし、此方から言える事に変わりはない。問題は、ソレをどう伝えたら諦めてくれるかだ。


 コミュ症の僕には難問である。


 と――そんな時だ。



「……雁首揃えて、何をやっているんだい?」



 金髪の爽やかイケメン。

 日ノ本最強の男。


 神宮寺秋斗が、やって来た――



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