第216話 マイティーズ① 磯野


 ――SIDE:磯野浩介――



 さ、最高過ぎる……!!


 マイティーズの演説を聞きながら、俺は思わず興奮していた。やはり金……金なんだよなぁ? 探索者の義務だ誉れだとか格好付けても、俺自身が飢えちまったら意味がねぇ。


 俺は、貧乏な家庭で生まれ育った。


 幼少の頃から親父から虐待を受けて育ってきた。怒鳴られ、殴られる度に「何で俺がこんな目に?」って、ずっと思ってた!!


 この日の為なんじゃねぇか……?


 人生を逆転する。アカデミーに入れたのは奇跡なんかじゃねぇ。必然だ。あんだけ不幸な目に遭ってきた俺だ。揺り戻しが起こっても不思議じゃねぇだろう!?


 マイティーズ……マイティーズだ!!


 俺は此処に入る!!


 階層更新? 己を究める?


 勝手にやってろよ、バーーカ。


 んなもん考えんのは、生活に余裕がある奴だけだ。神宮寺も御子神も、どうせ金持ちの生まれなんだろう? ――シド・真斗は違う! アイツは俺と同じ貧困家庭! 同じ凡人枠!! 雑誌掲載されたインタビューを見たんだ! シドが出来たなら俺にも出来る!! 絶対に俺はビッグになってやる!! 俺の事を見下していた連中……全員に、頭を垂れさせてやるんだッ!! 金・権力・力!! それが俺の生きる目標ォッ!!



「挨拶が終わりましたね? それでは、各自クランは生徒を連れて訓練教導を開始して下さい」



 センコーの影山が、仕切る様にそう言った。1学年の中ではD組の成績はトップだからな? 担任の発言力も上がってんのかも知れねぇ。


 それもこれも石瑠のおかげか?


 ……ま、今じゃ少しは感謝してるぜ。


 D組が此処まで成長出来たのは、間違いなく奴のおかげだ。相葉、芳川、武者小路……他の級長候補じゃこうはいかなかっただろう。俺も充分、甘い汁を吸えている。以前は目の上のタンコブだと思っていたが、……中々どうして、やるじゃねぇか? 俺の感じ方も変わっていた。



「つー訳で、まずは移動するか。訓練って言っても、こんな場所じゃ何も出来ねぇからな?」



 言って、シド・真斗は移動を開始する。他のマイティーズの探索者も一緒だった。大人の探索者は、全部で10人。クラン全員が岩戸島に出張するなんて事は有り得ねぇだろうし、訓練教導に参加するのは、この人数だけなんだろう。


 しかし――


 俺はチラリと、マイティーズの探索者に視線を向ける。……全員、スゲェマッチョなんだよなぁ……? リーダーのシドもガタイは良い。やっぱ、トップクランともなると自然と体付きが変わってくるんだろうか?



「一体、何処行くんだべなー?」


「さぁな」



 能天気な葛西に適当な返事をしながら、俺は訓練に参加する他のメンバーに注目する。



「……林、テメェもこっちか?」


「な、何だよ磯野……話し掛けるなよ。私語で減点になったらどうしてくれるんだ!」


「あぁ? 減点だぁ?」


「マイティーズに入団する為に、僕は可能な限り心象を良くしておかなきゃいけないんだ!! お、お前みたいなヤンキーに、付き合ってる暇は無いんだよ……ッ!」


「……お前、入れる気でいるのか……?」



 俺は思わず唖然としてしまう。マイティーズっつったら、日本のクランのトップ層だぞ? 林みてぇな雑魚が入れる訳ねぇだろう……?



「難関だってのは聞いてるけどさ、僕等D組は既に30階層を攻略してるんだぜ? 1年生凄い! D組凄い! 僕凄い! ……みたいな感じで、もしかしたら採ってくれるかも知れないだろう!?」


「い、意味分かんないんだけど……林ぃ、アンタ、頭大丈夫? 大体、30階層突破したのは石瑠だけだし……評価されるのは石瑠でしょ?」



 新発田の奴が、不快気に顔を歪ませて林に言う。気色悪いけど、口に出さずにはいられなかった。そんな所じゃねぇかなぁ?



「だから、おこぼれだって言ってるだろう!? もう良いから放っといてくれよっ!!」


『……』



 思わず、顔を見合わせる俺達。



「……なぁ杉山ぁ。お前って全然マシな奴だったんだな? 今まで虐めてて悪かったよ……」


「ブ、ブヒィ?」


「下には下がいるべ……」


「てか、豚ちゃんは最近頑張ってんじゃん! そういう言い方すんなしっ!」


「し、新発田殿〜〜っ!」



 泣いて喜ぶ杉山。新発田の奴はそんなアイツの頭を撫でてやっていた。以前はあんなに毛嫌いしてたのにな。何か「よく見たらキモ可愛い」とか言って、最近では甘えさせてやってるみてぇだ。……本当、女ってのは分からねぇ。


 林の奴は論外だが――奴等のPT。三本松達はメキメキと力を付けているからな?


 油断は出来ねぇ。


 訓練教導とはいえ、マイティーズの心象が懸かっているなら、D組だろうと敵は敵だ。


 特に森谷忍。石瑠から特訓を受けていたアイツには、注意が必要だろう。


 それと――



「なんや、バス使わんのかい……」


「ノンノン! 歩くは健康的デース」


「地獄斎は、もう少し運動した方が良い」


「ABYSS探索でやっとるやろがい……しょーもない移動で、汗掻いてどないすんねん……」


「まぁまぁ。折角だし、のんびり行こうよ」


「風太郎はいつもソレやなぁ? 田中ー? 足疲れたわー。負ぶってー!」


「ノンノン! 頑張るデス! 地獄斎!」


「婆かよ……」


「聞こえたでー!? 鈴!! アンタ、後で覚えときー! お尻ペンペンしたるからなー!?」


「うっざ……」



 プロの探索者が近くにいようとも、そのノリは変わらねぇ。――幽蘭亭地獄斎。B組の級長がこっちに来やがったか……。

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