第213話 翔真と蒼魔


 ――海って、何したら良いんだろう?


 取り留めの無い疑問を抱きつつ、僕は砂浜に寝そべりながら、青空を眺めていた。神崎に誘われたから相葉PTに付いて来たけれど、やってる事はソロプレイまんまだ。相葉達は海に泳ぎに行ってしまった。僕はただの荷物番。自分から買って出たのだから後悔は無いけれど……誰が一人くらいは残ってくれても良かったんじゃないのかな? ……まぁ、居られても面倒か。話す事なんて何も無いし。気不味くなるくらいなら、一人の方がマシかも知れない。



「暑いな……」



 ジリジリとした日差しが、僕の皮膚を焼いていく。そう言えば、石瑠翔真って日に焼けても大丈夫なのかな? 一般的に色白の人間はメラニン色素が弱くて、日焼けをすると赤くなるという特徴があるのだが、コイツの場合、どうなるのかが分からない。今からでも日焼け止めを塗っておいた方が良いのだろうか? あぁでも、動くのが億劫だ……指一本も動かせない……太陽が……気持ち良過ぎるのが悪いんだぁ……。



「……」



 ……女子の水着姿は、眼福だったなぁ。原作の石瑠翔真はこの時期には退学していたから、女子の水着姿は見られなかったんだよなぁ?


 僕に感謝しろよ、石瑠翔真――? 紅羽の谷間を拝めたのは、この僕のおかげだからな? 今頃は感謝感涙で咽び泣いているかも知れない。そう思うと、ちょぴっとだけ気分が良いな……?


 神崎はラッシュガードと短パンか。相変わらず胸の事がトラウマらしい……可哀想に。


 東雲は全体的に可愛らしい水着だったなぁ? 淫魔族なんだから、もっと際どいのを着て来るもんだと……思った、ぞ……。


 相葉は……ムニャムニャ……普通……。


 他にも……女子の水着……見たか……った。





「――おい、何してくれてんだ、お前……?」


「……は?」



 ぼんやりとした意識のまま、僕は宇宙空間に漂う石瑠翔真と対面していた。


 ……つか、何これ?


 何か、前にも似た様な事があった様な……?


 

「何で元の姿で戦ってるんだよ……!? お前、目立ったら不味いんじゃなかったのかよ!?」


「は? え? は――?」



 言ってる意味は理解出来るのだが――

 言ってる意味が理解出来ない。


 ――何だこれ?


 どゆこと?



「アイツに……神宮寺秋斗に、お前の存在がバレたんだぞ……!? もう死んだフリ作戦は通用しない!! どうすんだ!? お前、一度僕の目の前でぶっ殺されてただろう!? 次襲われたら、勝ち目なんて無いぞ!?」


「ま、待て待て。えーっと……僕が神宮寺秋斗に殺されたって? それって何? 何時の事? つか、僕は生きてるし。じゃなきゃ、こうして話も出来ないよねぇ? 君は石瑠翔真だろう? 此処は何処? 何だって僕は、此処に居るの?」


「……そ、そこからかよ……」



 思わず、項垂れる石瑠翔真。


 何をそんなにガッカリする必要があるのだろう? 僕にはとんと分からなかった。



「……此処はまぁ、精神世界みたいなもんだよ。お前の意識が無くなった時に、たまにこうやって現れる事が出来るんだ……」


「じゃあ、君は正真正銘の石瑠翔真?」


「逆に何だと思ってたんだよ!? お前って本当に察しの悪い鈍感野郎だよなぁ!?」


「ぐぬ……」


「偉そうに、記憶の混濁を逆手に取るとか言ってたけどさぁ、全然じゃないかッ!! むしろ無茶苦茶ピンチだよッ!? このままじゃあ本当に神宮寺の奴に殺されちゃうぞっ!?」


「……その、殺されるっていうのは、一体何なんだ? 僕って神宮寺秋斗に恨まれてる?」


「いやいや、恨んでるのはお前の方だろ!?」


「はぁ」


「アイツに何をされたのか……お前、自分でこの僕に向かって語ってたんだぞ!? 僕もそれで肉体を貸す気になったって言うのに……ッ!」


「――肉体を、貸す? ……君、もしかして、僕がこの姿になった理由を知っているのか!?」


「知ってるも何も――」


「教えてくれ!! 何で僕はこの世界に居るんだ!? 何で石瑠翔真キミの姿をしているんだ!?」


「……そりゃあ、向こうの世界からやって来たからだろう?」


「どうやって!?」


「し、知らないよ! 僕はアンタが塔からやって来た事しか知らない! 教えて貰わなかった!」


「――塔?」


「……ABYSSの事だよ。何か知んないけど、神宮寺秋斗を追い掛けて来たんだろう? 後の事は良く分からん」


「神宮寺を追い掛けた……?」



 って事は、やっぱりアイツも元は向こうの世界の出身なのか? でもなぁ……あんな奴、僕の知り合いにはいないし、会った事も無かったと思うんだけど……?



「……もう時間が無い。兎に角お前は、ABYSS攻略を急げよ。そのレベルのままじゃあアイツを倒す事なんて不可能だぞ?」


「倒す倒さないとか、良く分からないけど……神宮寺の奴は、そんなに強いのか?」


呪いの指輪カースリングって言ったっけ? お前がやってるレベル縛り。神宮寺秋斗もソレをやっていたらしい」


「え――?」


「お前が自分で言ってたんだよ!! じゃなきゃあ、あれだけの強さは説明出来ないって! 奴はLV.1から縛り始めて、今は上限のLV.99まで上げている! だから、お前も同じ事をしなきゃ太刀打ち出来ないんだって……!」


「……LV.1から?」



 僕以外にも呪いの指輪カースリングの拾得方法に気付いたプレイヤーが存在したのか?


 何か違和感があるが――まぁ、良いか。



「えーっと、纏めると……僕は神宮寺秋斗を追い掛けて、この世界にやって来た。神宮寺と戦うも返り討ちに遭い、石瑠翔真と交渉して肉体を貸して貰う事になった……ってコト?」


「あぁ、合ってるよ」


「何でそんな事が出来たんだっていう、大事な部分が欠けてるんだけど……?」


「そりゃ、お前が化物だからだろう?」


「……はい?」


「……もしかして、まだ気付いてないのか?」



 言われ、僕は己の身体を見下ろした。



「なん……だ……これ……?」



 そこには――異形が存在した。


 蒼炎を纏った異形の肉体。

 焔に反射し、自身の顔が映し出される。


 石瑠翔真でも。

 石動蒼魔でもない。


 そこにいたのは――髑髏顔の鬼であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る