第211話 大人達の会合① シド


 ――SIDE:シド・真斗――



 海の家『きっとある光の都』店内――。



「しっかし、学生ってのは無邪気だね〜? なんつーか、見てると童心に戻るっつーか。俺も学生の頃はあんな感じだったのかなーって、つい考えちまう。今じゃあ見る影もないオッサンだからなぁ……本っ当、時の流れは残酷だぜ?」



 店内の一角。テーブル席へと座った女性の一団へと話し掛けながら、俺は注文されたドリンクを置いて行く。一団の一人、絹の様な艶やかな黒髪をした大和撫子が、口元に手を当てながら、くすくすと笑った。



「ふふふ……そう自虐をなされなくとも、シド様はまだお若く見えますよ?」


「え? 本当?」



 お世辞だと分かってても嬉しいね。


 今この場には、見目麗しい三人の女性と俺しか存在しねぇ。両手に花とはこの事か。学生共は丁度良く海の方へと泳ぎに行っちまった。この俺――シド・真斗が海の家の店員をやるっつードッキリは、誰にも気付かれずに不発に終わっちまった訳だけど、こういった御褒美があるのなら不満はねぇ。むしろ万々歳って所だぜ!



「――改めて、久しぶりだな……輝夜さん」


「シド様も。お元気そうで何よりです」



 この、大和撫子を絵に書いた様な黒髪美人がルミナスのリーダー・御子神輝夜だ。普段は真っ白い着物を着ているんだが、今日は海だからな……白は白だが、白いクロスビキニを身に付けている。豊満な胸元が水着に締め付けられてて、これでもかと自己主張をしてやがるぜ。



「今日は幹部も一緒か」


「えぇ、折角の海ですからね。皆さんと行った方が楽しいかと思いまして」


「……ウッス」


「こんにちは」


「ははは、どうも」



 俺に向かって挨拶をする二人。やはりルミナス。レベルが高けぇ……! 金と紫のメッシュの髪色をした無愛想な女が通天閣藍良だ。水着は黒か……彼女の場合は、ジロジロ見ていたら怒られそうなんで、この辺にしておこう。


 ボーっとした天然系なのが英槐はなぶさえんじゅ。長い紫髪を下の方で纏めた髪型をしている。着ている水着は何処となくアジアンテイストな感じだな? 体型はムチムチとしていて素晴らしい。



「――しかし、今年の一年生は豊作ですね? 去年は突出した二人の生徒が目立っていましたが、今年は本当に粒揃い……」


「去年? あぁ……我道竜子とかね? まさか、ウチの若い連中が倒されちまうとは思わなかったよ。流石に、あんなヤンチャな生徒は毎年現れたりはしねぇと思うけど――」


「――やはり、御目当ては彼ですか?」


「……そういうアンタも?」



 御子神輝夜は、こくりと頷く。



「正確には、彼の情報が――ですが」


「石動蒼魔か……衝撃的だったよなー……」


「えぇ……」



 俺は天武祭の試合を思い出す。リアルタイムで観ていたが、その内容は凄まじかった……。



「奴の対戦相手だった、我道竜子……正直言うぜ? アイツはマジで化物だった。プロに通用するとか、そういうレベルじゃねぇ。学生でありながら俺達を圧倒する力を持っていやがった」


「パッシブ・スキル【極】――」


「それに【四身影法】だ。あのコンボをやられたら、真っ向からは絶対に勝てねぇ。あの時の我道の総合力は【999】極みの効果で三倍増しで約【3000】四人分身で【12000】……もうね? 馬鹿かと。幾らなんでもやり過ぎだろう?」


「天は一人に二物も三物も与えた……つまりは、そういう事なのかも知れません」


「探索者のレベル上限は99だ! 仮に上限まで上げ切ったとしても【12000】なんて数値は普通の人間には出せねぇ! その時点で、我道は霊長類最強を名乗って良かったんだ!!」


「……けれど、彼女は敗北した」


「石動蒼魔。名も知らねぇ在野の探索者が、完膚無きまでにぶっ倒した……!!」



 気にならねぇ筈がねぇ。


 トップクランを治めるリーダーなら、奴の事は喉から手が出る程に欲しい筈だ……!!



「だから、貴方もアカデミーからの要請に参加したのでしょう?」


「……ただの学生交流なら、リーダー自身が出向く必要はねぇからな?」



 互いに牽制し合う俺達。

 考えてる事は、一緒って訳だ。



「――随分と、楽しそうにしているね?」


「!?」


「おま――神宮寺秋斗ッ!?」



 その場に現れたのは[八尾比丘尼]のリーダー・神宮寺秋斗だった。女受けしそうなイケメン金髪優男……見た目だけだと、強い感じはしねぇんだけどな? 実際に戦ったら、俺なんかは手も足も出せずに瞬殺されちまうと思う。


 それくらい、奴と俺達とでは壁があった。


 しかし、それでもだ。



「神宮寺……っ」



 奴には一言、言いたい事があった。



「お前、なんで階層を上げやがった!? これ見よがしにアメリカを超しやがって……総理にだって止められていただろう!? 下手すりゃあ外交問題に発展するぞ!?」


「……」


「聞いてんのかよ、おい!?」



 奴は俺を無視しながら、ルミナスの方へと近寄って行く。警戒するルミナスのメンバー。輝夜が彼女等を静止させる中、神宮寺は、輝夜の座る椅子の背凭れに手を置いた。


 ――続いて、大きな溜息。



「……探索者が、政治を気にするのか?」


「――ッ」



 それは、心底落胆した様な一言だった。


 純粋ではない。


 そう、言外に言われた様な気がした。


 ……しかし、俺にも言い分はある!!



「探索者ってのは、国の英雄だ。そいつが指導者の言う事を聞かずに暴走したんじゃあ、国は機能しなくなっちまうだろうがッ!?」


「指導者? 君は今の内閣に日本の指導者が存在していると、本気で思っているのかい?」


「……実際に運営しているのは総理だろう!」


「だが、力を持っているのは"朝廷"だ。総理大臣というのは朝廷からの雇われだろう? 欧州の御機嫌取りをする為に、この国は形だけの民主主義をやっているだけさ。根本は昔ながらの君主政治と変わらない……だからこそ、僕は朝廷の意を汲み、ABYSS攻略を遂行したって訳さ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る