第210話 臨海合宿② 紅羽
――SIDE:鳳紅羽――
「遅いわねー……」
一足先に浜辺へとやって来た私は、仲間達の着替えを待ち、ドリンクを片手に額の汗を拭っていた。私自身が早着替えなのは自覚しているけれど、男の総司達まで遅いのは一体どういう事なのかしら? 目の前には青い海が広がっており、はしゃぐ生徒達を見ていると、今すぐ私も海に入りたいという欲求が湧いて来る。
「先に場所取りでもしておこうかしらー? パラソルでも立ててね……?」
自嘲気味に呟いた、その時だ。
「あら? 鳳さん? どうかしたの?」
「よ、芳川さん……」
待ち惚けを喰らっていた私に、芳川さんが優しく声を掛けて来た。
ていうか、すっご……!
「それ、パレオですか? 大人っぽーい……」
「おかしくないかしら?」
「いえ、全然! むしろ凄く似合ってますよ!」
「ふふふ、ありがとう」
芳川さんの着ている水着は、花柄のビキニタイプだったわ。腰には同じ柄のパレオを巻いており、切れ目から見える生脚が凄いセクシーで大人っぽかった。着ている芳川さん自体もグラマラスな体型をしているから、色気が増している様に感じてしまう。事実、そこかしこから感じる男子からの視線は、芳川さんに集中している様に思えたわ。
「鳳さんの水着も可愛いわね〜? 髪の色と合わせたのでしょう?」
「えぇ、赤いビキニ……ちょっとローレグ過ぎたかなって、心配してるんですけど……」
「それくらいなら問題ないと思うけれど……? それに、鳳さんは攻めた水着の方が似合う感じがするのよね〜?」
「そ、そうですか?」
うんうん、と。糸目で頷く芳川さん。
彼女が言うなら平気よね……?
「それじゃあ私、皆の所に行ってくるから」
「あ、はい」
「鳳さんも、ゆっくりと羽を伸ばしてね?」
芳川さん……行っちゃったわね?
卜部君達と合流するのかしら?
「これじゃあ完全に遊びじゃない……こんな事していて、良いのかしら……?」
私は思わず、溜息を吐く。
「フン……バッチリ水着に着替えてる癖に、今更何を言ってるのかしら?」
「な!? 冬子ッ!?」
背後から現れたのは、水色のビキニを着用した榊原冬子だったわ。挑戦的な視線で此方を見下ろす冬子。……ふーん? 中々似合ってるじゃない? まぁ、胸の方は私の方があるけれど。
「相変わらず考えが足りないわね……? 貴女は、コレをただの遊びだと思っているの?」
「ど、どういう意味よっ!?」
「……既に顔合わせは始まってるって事よ」
言って、冬子はビーチで寛ぐ一般客へと視線を向けたわ。
「――間違いなく、プロの探索者ね。調べてみたけれど、岩戸島は一般開放はされていないわ。此処に居る時点で基地関係者なのは明白。生徒達を探る視線と良い、恐らくは三つのクランの何れかに所属するプロ探索者だと思うわ」
「……プロ!?」
言われて、私はビーチにいる客をまじまじと見たわ。……確かに、体も引き締まっている。今までは何とも思わなかったけれど、歴戦のオーラを身に纏っている様にも感じるわ。
「……だとしたら、目的は何よ? 私達を観察して、あの人達に何のメリットがあるの?」
「さぁ? そこまでは知らないわ。ただ――今回の臨海合宿は、クラス対抗戦とセットなんでしょう? 気を張っておいて損は無いわ」
「……ふーん? つまりは忠告ってわけ? アンタにしては優しいじゃない?」
「対抗戦は団体評価……足手纏いに、足を引っ張って貰いたくないだけよ」
「なっ!? 本当、可愛くないわね……っ!」
「貴女にだけは言われたくないのだけれど? まぁいいわ。それじゃあね、短足さん」
「た、短ッ!?」
冬子の奴は余計な一言を付け加えながら、海の方へと歩いて行ったわ。
「……ったく、誰が短足よ。相変わらずムカつく奴。胸は私の方が勝ってるっつーの!」
むしゃくしゃしながら、地面の砂を蹴っていると、漸く総司達がやって来たわ。歌音も先に合流してたみたい。ていうか――
「翔真? 何でアンタも一緒にいるのよ?」
「……居ちゃ悪いのか?」
「悪いって訳じゃ無いけれど……」
何か、意外……コイツって、集団行動とか苦手だと思ったから、てっきり一人で泳ぎにでも行くのかと思ったわ。
「……俺が翔真を誘ったんだ」
「歩が?」
「あぁ……」
歩はそれっきり何も語らない。どうでも良いけど、歩って翔真の事、結構好きよね? 何となくだけど、気を許してる様な空気を感じるわ。
「まぁ、良いんじゃない? 私も翔真君と一緒に遊びたいと思ってたし!」
「そうだな。こんな機会も中々無いしな」
歌音と総司も異論は無いみたい。ていうか、この二人は大賛成って感じね? いつの間にか私達のPTは全員が翔真の事を好きになっちゃったみたい。コイツに、こんな人徳があったなんて……数ヶ月前までは思いもしなかったわね?
「甘いわね、二人とも。この臨海合宿を唯の遊びだと思っているなら、大怪我をするわよ?」
「……何か言い出したぞ、コイツ?」
胡散臭そうな目で翔真が茶々を入れてくる。
フフーン?
こんな反応をするという事は、コイツはまだ周囲の探索者に気が付いていないという事ね?
「――既に顔合わせは始まってるって訳よ!」
私は指を立てて、皆へと説明しようとした。
その時――!
「貴女……何をやってるの?」
呆れた様な顔を浮かべた冬子が、何故か私の背後に立っていたわ。……あれ? 冬子って、海に向かって行ったんじゃ――
「日焼け止めを取りに戻ってみたら――まさか、私が言った事を自分の手柄の様に話し出すなんてね? 浅ましいと言うか……そんなにも婚約者の前で良い顔を見せたかったのかしら?」
「そ、それは――」
「どうぞ? 私の事は気にせず、仲間達に披露してあげなさいな。恥知らずの紅羽さん?」
「う、うぅ……」
な、なんて嫌味な奴……!
少しぐらい格好付けたって良いじゃない!?
そりゃあ、語ろうとした内容は冬子のパクリだったけど……ッ!!
「――何か文句でも?」
「な、何でも無いです……」
私は素直に降参した。
この状況では、冬子には勝てない……。
その後――私達は一向に冬子を加え、海辺での遊びを満喫する事になったわ。その間、冬子に今回の件をチクチクと突かれまくったのは、言うまでもない……。
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