第208話 翔真LV.30


 魔神ギルタブリルを下した僕は、同階層の転移石から31階層へと飛んでいた。此処から先は"雪原エリア"だ。灼熱の大地とは真逆で、今度は極寒の地を進む事となる。


 ……今の装備では、進行は無理だな。


 僕は自身の魔晶端末ポータルを操作して、己のステータスを表示させた。


――――――――――

[石瑠翔真いしるしょうま] LV.30

[道化師/★★☆]

総合【915】

――――――――――

腕力【160】

体力【183】

技量【200】

敏捷【200】

知力【93】

運命【79】

――――――――――

[パーソナル・スキル]

○不眠症★★★

○あがりぐせ★★★

○鈍感★★★


[パッシブ・スキル]

単独行動ソロプレイ★★★

○経験値効率★★★

○タフネス★★★


[コマンド・スキル]

○マッピング+[07]★★★

○索敵[09]★★★

○マキシマイザー[∞]★★☆

○ジャグリング[∞]★★☆

○玉乗り[∞]★★☆

――――――――――



 LV.30か……総合値900超えという事は、一般の探索者と比較すれば、LV.50と同等という事になる。アカデミーでは、天樹院と我道以外はこの数値を超す奴はいないだろう。プロの探索者のトップ層と互角になったという訳だ。


 職業ジョブ欄を見てみると、[道化師]の★レベルも上がっていた。もう少しでクラスチェンジも出来るだろう。


 しかし……喜びも半分くらいかな……?


 それくらい、僕の中では鼎夕の死がこびり付いていた。――いいや、彼だけじゃない。僕は他にも二人を殺している。


 アトラナータ……野原花糸けいと

 イーフリートは、赤城駿か?



「……ッ」



 三人とも、僕の知るプロゲーマーだ。テレビにも出ていた有名人。レガシオンをプレイしていて、プロゲーマー集団・黄泉比良坂よもつひらさかの名を知らない者は存在しない。


 個人的にも……繋がりがあった連中だ。


 どうして、こんな事になってしまったんだろうか? 異世界転移。いや、憑依だったか……? 現実が忙し過ぎて、僕はこの事象から目を逸らしていたのかも知れない。


 鼎夕は、言ったよな?



『僕は……僕達は、皆でABYSSを攻略しただけなんだ……100階層。レガシオンの……完全クリア……なのに、あんな事が起こるなんて……』



 ――あんな事?


 あんな事とは、一体何だ?


 ABYSSなんて、レガシオンのゲーム中に存在する唯の迷宮だろう? そんな物を攻略した位で、何が起きるって言うんだ?



「……分からない。分からない、けど……」



 今は進むしか無いだろう。


 ABYSSを。


 次の階層主に会って、


 また、話を聞いて行くしかない――


 例えその行動が間違っていたとしても。



「僕には、それしか出来ないのだから……」





 暗い気持ちで、転送区へと帰還する僕。そこで待ち受けていたのは――D組の連中だった。



「……? 君達、どうして――」



 言葉は最後まで紡げなかった。


 顔を見合わせた彼等は、僕に向かって盛大にクラッカーを鳴らし始める。


 思わず、呆気に取られる僕。



『せー、のっ! 30階層攻略、おめでとう!!』


「――」


「やると思ってたけど、本当にやるとはな?」


「……翔真よ。階層主に挑む時くらいは、皆に連絡をしても良いのでは無いか?」


「君の事だ。心配はしてなかったが、もしもの事だってあるだろう?」


「歌音から聞かされなかったら、誰も知らなかった訳だしね。アンタ、もうちょっと集団行動しなさいよ? 仮にもD組の級長でしょう?」



 上から順に、相葉、神崎、卜部、紅羽が僕に向かって話し掛けて来る。どうやら、この騒ぎの発端は東雲らしい。視線を向けてやると、わざとらしく目を逸らしていた。


 言わなきゃ良かったと、後悔したのも束の間だ。すぐに僕は、クラスメイトから揉みくちゃにされてしまった。



「この野郎! しっかり階層主を倒して来やがって! 流石だぜ! うり! うりうり〜!」


「や、止めなさい鈴木!! 翔真にそんなに触れて……ふ、不謹慎ですわよっ!?」


「……折角の祝い事だ。アレ位は構うまい」


「なら、私も触っちゃおっとっ!」


「さ、早希さん!?」


「……御利益あるかも」


「た、高遠さんまで!? え、えーい! 待ちなさい!! 私の方が先ですわー!!」



 鈴木、宇津巳、高遠に釣られて、僕へと突進して来る武者小路。彼女達はソレが分かっていたのか、一斉に武者小路へと道を譲る。



「――あっ!」


「……え?」



 必然的に、僕と武者小路は抱き合う形となってしまう。赤面して何も出来なくなる彼女と、囃し立てる周囲。……武者小路には悪いが、こういう空気は苦手なんだよなぁ……?


 思った時だ。

 空気を読まずに、近寄って来る影があった。


 ズバリ、磯野達である。



「帰って来ると思ってたぜ……? テメェは何れ俺が倒す。それまでにおっ死ぬんじゃねぇぞ」


「あ? あぁ……」


「磯野君は素直じゃねーべ! 石瑠の事、滅茶苦茶リスペクトしてるっつーのによぉ」


「はぁ!? だ、誰が――!」


「態度でモロバレっしょ? 石瑠が30階層に向かってから、ずーっと魔晶端末ポータルと睨めっこしてたもんね? 会話も上の空だったし、まるで恋する乙女みたい!」



 ウケるー! と言って、磯野を小馬鹿にする新発田。……こんなヤンキーにモテても嬉しく無いんだがな? 僕は心の底からそう思った。



「師匠! 私、信じてました!!」


「僕も!」


「わ、私もですっ!」



 菊田、森谷、安井の三人が、僕を囲んでは尊敬の眼差しを送ってくる。……そうか、彼等もまた、僕を心配していたのか――



「……手傷を負ったみたいね? 貴方でも30階層は苦戦したのかしら?」


「まぁ、そこそこね」


「大変! 今、治療を施しますね?」



 挑戦的な目で此方を見詰める榊原と、慌てて僕を回復してくれる癒し系の芳川。


 他にも――まぁ、色々だ。


 僕はに出迎えられた。


 この世界で出会った、仲間にだ。



「……どうした翔真? 何やら、浮かない顔をしているが?」


「神崎――」



 僕の事を心配する神崎。その顔が、何故だか知らないが鼎夕とダブってしまった。


 衝動的に、僕は神崎を抱き締める。



『な――ッ!?』


「しょ、翔真――!?」


「……」



 驚いただろうな? 僕も自分の行動に驚いている。こんな事をしても、何も変わらないというのに。それでも僕は、彼に言わなければいけなかった。言わずにはいられなかったのだ。



「――スマン」


「……翔真?」



 口に付いたのは謝罪の言葉であった。小刻みに震える肩に、神崎は自身の手を重ねる。



「……疲れたんだな? 久しぶりに、家に来るか? 手料理を馳走してやるぞ?」


「……」



 僕は、何も言わずに頷いた。


 周囲も何かを察したのか、これ以上、僕達を囃し立てる事はしなかった。


 30階層を攻略――


 しかし、まだまだ先は長い――……。

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