第196話 祭りの終わり


 ――SIDE:我道竜子――



 気付いたら私は、控室の天井を仰いでいた。少しでも身体を動かそうもんなら、瞬時に激痛が走りやがる。身体中が酷い肉離れをしたみてぇだった。重たい目蓋を懸命に開き、眼球だけで周囲の状況を把握しようと努めてみる。忙しなく動く連中は、大会運営の救護班だ。天樹院から借りた連中……つまりはアカデミーの職員なんだが、コイツが意外と良く働いてくれた。


 連中に救護されてるって事は、つまり――


 負けちまったって……事なんだよな?



「……」



 ほぅ。と、息を吐く私。

 

 痛ってぇ……肺まで引き攣りやがる。久々に全力を出してみたが、本気を出すと体がキチィぜ。知らずに鈍ってたのかも知れねぇなぁ?



「我道さん」


「! ……天樹院」



 気が付かなかった。私のすぐ近くには、天樹院の野郎が佇んでやがった。相変わらず、何考えてんだか分からなねぇ表情をしてやがる。



「見舞いにでも来てくれたのかよ?」


「いいや? 僕は翔真君の代わりに、景品を受け取りに来ただけさ」


「……あぁ?」


「持ってるんでしょう? 家紋章。出しなよ」


「――チッ、わーったよ……」



 こっちの心配は一切してねぇってか。まぁ、天樹院に心配なんざ、されたくもねぇけどな。



「ほらよ」



 私は次元収納内から取り出した、石瑠家の家紋章を天樹院に渡してやる。チッ、魔晶端末ポータルを操作するのでさえ、ギリギリだ。一連の行動をやり終えた私は、深くベンチに身体を預けた。



「それじゃ、僕は行くから」


「待てよ……」


「?」


「最後に聞かせろ……アイツは、何だ?」


「――何だ、とは?」


「とぼけんなっ!! 何者なんだって聞いてんだよ!? 突然出て来て、私を圧倒して――」


「……」


「名前は聞いたが、それっきりだ……! 石動蒼魔ぁ? そんな探索者、知らねぇよ……! どこのクランに所属してやがる!? 国内最大手と言やぁ"マイティーズ"だよな!? まさか"ルミナス"って事はねぇと思うし、"八尾比丘尼"だったら、流石の私も知ってる筈だ!! ――答えろよ、天樹院! アイツは、石動蒼魔は何者なんだッ!?」


「……それを知って、君はどうするの?」



 どうするって――



「………求婚……する……かなぁ……?」


「球根?」



 天樹院は首を捻った。

 んだよ、聞こえなかったのか?



「結婚を申し込むっつったんだ――!」


「け、決闘ですか――!?」



 名も知らねぇ救護班の女が、突然横から口を出しやがる。見れば、周りにいる全員が、私を見て呆けた面を晒していた。



「――結婚ッ!!」



 私は力強く訂正した。

 もう二度と聞き間違いは許さねぇ!!



「何で……?」



 天樹院は伏し目がちになって、私に問う。



「私と真っ向から打ち合った男だぞ!? 婿入りさせなきゃ勿体無ぇだろう!!」


「そ、そんな理由で!?」



 んだよ、外野のモブが茶々入れやがる……!



「大事だろうがッ! 少なくとも私は、私よりも弱い奴と子作りなんかしたくねーからな!?」


「……という事は、副会長は処女……?」


「るせー!! 処女が悪いかテメェェェー!?」


「ひ、ひぃ!? 何もッ!!」



 私の一喝にビビる男共。身体が本調子なら、半殺しにしてた所だぜ――





 ――SIDE:狂流川冥――



「――あーあー、疲れた疲れた。もうやんなっちゃう。翔真君は現れないし、竜子ちゃんは負けちゃうし、挙げ句の果てには神宮寺秋斗は職場放棄? プロ意識とかどうなってるのぉ? 後の面倒事はぜ〜んぶ私。本当、こんなくだらない仕事、引き受けなきゃ良かったなぁ〜?」



 車の後部座席に座りながら、私は鬱憤晴らしで愚痴を溢す。折角色々とセッティングしたのに、一個も思い通りにならなかった。石動蒼魔? 誰ソレ。オジサンとか趣味じゃないし、翔真君じゃなきゃつまんないっ!!



「ねぇ、貴方もそう思うでしょ? ねぇ! 聞・い・て・る・の〜〜?」



 座席の頭を靴で蹴り、運転している男を詰ってやる。スキル【絶対支配ドミネーション】で適当に拾ってきた男だけど、コイツの顔を見るのも、段々と飽きて来たのよね〜?



「……そう言えば〜? 貴方がMe'yの奴隷になってから、どれくらいが経つのかなぁ?☆」


「はい、221日18時25分30秒が経過しました」


「へぇ〜? お給料も出ないのに頑張ったね? 奥さんとかは大丈夫? 子供の学費とか、払わなきゃいけなかったんじゃないの?」


「家内は息子を連れて出て行きました。家には私一人しか住んでいません」


「あは!☆ 出て行っちゃたんだ!? 可哀想〜! まぁ、そうだよね? 朝から晩まで良い歳した大人が女子高生に顎で使われちゃってるんだもの。夫がそんな感じになっちゃったなら、普通の奥さんだったら嫌気が差すよね?☆」


「……」


「ねぇ? 嬉しい? 自分で自分の人生破壊して、Me'yちゃんに仕えられて嬉しいの!?」


「……はい、嬉しいです」


「――プ、クククッ! アハハハハハ!!☆」



 はぁ、面白い……! やっぱり、ストレス解消にはコレが一番かなぁ? 他人の人生を破壊するのは気持ちが良いっ!☆ このオジサンにはもう、何も残ってない。築き上げた社会的地位も、愛した家族も何もかもが消えてしまった。私に尽くす事だけが、オジサンの生き甲斐なの☆ そう感じる様に、私が操作してあげた……なけなしの財産は全部没収〜♪ Me'yちゃんは良い子だから、恵まれない子供達にでも寄付してあげようかな〜?☆ そうして全部を奪ったなら、搾りカスになったオジサンは、その辺の河川敷にでもポイっと捨てちゃおう!☆ 愛しのMe'yちゃんと、少しの間だけでも同じ空気が吸えたんだから、ホームレスになっても本望だよね?


 以前はも〜〜〜〜っと、派手にやってたのになぁ? 天樹院君に邪魔されてからは、この程度の遊びしか出来なくなってしまった。


 リューコちゃんは勝手に満足しちゃったみたいだし、天樹院君も、翔真君に感化されてからは丸くなってる気がするよ。



「……つまんない。つまんない、つまんない、つまんなーーいっ!!」



 退屈してるのは私だけ? 私の愉しみを奪っておきながら、二人は満足してるって酷くない?



「何か他に、面白い事無いかなー?」



 呟いた、その時だ。


 信号待ちで停車している時に、私は車の窓から、誰かの視線を感じ取る。敏感かも知れないけれど、こういった"遊び"を常習としている私は、人一倍他人の視線を気にしていた。ファンか野次馬か、私の事をMe'yだと知って、何者かが視線を投げて来たのかも知れない。



「……」



 窓から周囲を見渡すと、視線の主と思しき人影は、すぐに見付かった。確認出来たのは後ろ姿。黒いスーツを着た上背の高い男性だ。視線の主は、私が気付いたと見るや、すぐさま裏路地の方へと走り去ってしまう。



「……ふーん?」



 ゴシップ記者かな? 何にせよ、退屈凌ぎには丁度良いかも!☆ 思った私は、車から降りて、逃げた男性を追って行く。人気の無い裏路地を進み、暫く歩いた時だった――



「え――?」



 そこで見たものは、意外なもので――


 この日を境に、私こと狂流川冥は、アカデミーから失踪する事になるのであった――



―――――――――――――――――――――


 此れにて、第05章完です!


 次章の予告と5章を書き終えての雑感は、いつも通り近況ノートにて綴らせて頂きます。


 読者様方には、日頃の応援を感謝しております。何だかんだ半年! 半年以上も毎日更新を持続出来ました! これも偏に皆様のおかげです。♡の応援とか、★の評価も有難い! 此れがある無しでランキングが大きく変わるんですよ。まぁ、作者はそこまで順位は気にしてないのですが、それとは別に評価されたら嬉しいのです。ギフトも……もう、本当に有難い!


 仕事の疲れもぶっ飛びます(ᐢ 'ᵕ' ᐢ )!


 お次は第6章ですね。次回からも頑張って執筆して行きますので、楽しみにしていて下さい。


 ではでは、また次回(ง ˙˘˙ )ว!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る