第141話 議題提出


「じ、事実って――?」


「このビラに書いてある事は、本当なのかと聞いているのだ!!」


「正〜直に答えときぃ? 下手な嘘は、自分の身を傷付ける事になるでぇ?」


「Hey! Trash talkは省くぜ? 俺達が知りたいのはThe truthだ。石瑠翔真……お前は20階層の階層主をやったのか?」



 神妙な顔付きで僕へと問い掛ける三人。

 喧嘩を売りに来た訳じゃないのか?

 警戒しながら、僕は答える。



「……書いてある事は事実さ。それで? それを知って、君達は何がしたいのさ?」


『――』



 僕が肯定すると、三人は顔を見合わせた。



「――情報提供を……」


「は?」


「――待ちぃ!! 交渉ならウチが先やっ!! 最初にスタンバってたんはウチやぞ!?」


「ハッ、一番先に着いていたのは、この俺だ。事実を捻じ曲げるなよGhost Girl?」


「10階層を突破してから発言せぇや!? 今話しとんのは20階層の話や。外野は黙っとれ!!」


「ほう? ならばこの中では最も20階層に近い我が交渉するのに相応しかろう。貴様等は横にずれて、疾く消え失せるが良い」


「なんやと、仲路ぃぃッ!?」


「陰陽師風情がッ!! 分を弁えろ!!」


「It's so fanny!! 喧嘩なら俺も買うぜ!!」



 あーもう、またワチャワチャとして来たよ。


 コイツ等が揃うと何時もコレだ。


 幸い、こっちに敵意を向けている訳じゃ無いみたいだし、此処は匍匐前進で乗り切ろう。


 喧嘩する三人の中から、文字通り這う這うの体で抜け出す僕。好奇心旺盛な目をした東雲が、僕の後ろを着いて来るが、付き合ってはいられない。無視だ無視。





「ふぅ、漸く辿り着いたか……」


「大変だったねー?」



 お前が言うな、お前が! しかも、全く感情が篭ってないしッ! 溜息を吐くのを堪えながら、僕はD組教室の扉を開ける。



「――翔真ッ!?」


「石瑠君!」


「石瑠お前……やってくれたなぁッ!!」


「流石は私の翔真ですわ〜〜ッ!!」


「皆大騒ぎしてるぞ、オイッ!?」


「〜〜〜ッ!」



 全員で一斉に話し掛けるな、馬鹿っ!!

 心臓が飛び出るかと思ったぞ!?


 教室内は騒然としていた。皆が皆、立ち上がって僕の事を見詰めている。入院組は――よしよし。全員居るみたいだね? 磯野と榊原がそっぽを向いているのは予想通り。寄って来る神崎に向き合いながら、僕は軽く手を挙げた。



「起こったじゃないか、奇跡」


「……脱帽だ」



 軽く息を吐きながら、笑みを浮かべる神崎。

 

 だから言っただろう?

 鳩胸が原因で、退学に何かしないって。


 他の入院組の反応も似たり寄ったりだ。


 ただ――相葉だけ、何か元気がない様な?


 まぁ、僕が気にする事ではないか。

 同じPTの紅羽や東雲が何とかするだろう。



「翔真!!」



 ……考えていたら、噂の紅羽が僕に話し掛けて来た。互いに向き合う僕達。



「20階層を攻略したって、本当なの?」


「あぁ……」



 何だ、そんな事か。



「……ま、僕に掛かればチョチョイのチョイさ。20階層の階層主、魔神アトラナータはゴールデンウィーク中に攻略したよ」


『!!』



 響めく周囲。そうさ。紅羽の奴が神宮寺秋斗と遊んでいる内に、僕はやるべき事を済ませていたのさ。探索者だからね。当然だろう?



「……逆に聞きたいんだけど、紅羽はこの連休中に何をしていたんだい?」


「何をって――総司達が入院していたから、私は何も……出来なかったわよ」


「何も? ハッ、それは嘘だね!? お前は男と一緒に遊んでいただろう? 確か……神宮寺秋斗だっけ? PT編成も出来ない状態で、転送区に足を運んでいたのは男の尻を追い掛ける為かい?」


「なッ!? 何でアンタがそれをッ!?」


「そんなの、現場を目撃したからに決まっているだろう? お前は相葉や神崎が病室で苦しんでいる時に、男と一緒に遊んでたんだッ! 全く、その神経が信じられないよ……?」


「ッ!!」



 何か反論をしたそうにする紅羽。だが言えない。悔しがる表情を眺めながら、僕はこんな事が言いたかった訳じゃないと、被りを振る。


 ……此処じゃ場所が悪いな。



「……後で確認したい事がある。時間、取って貰うからね?」


「え? わ、分かったわよ……」



 紅羽との会話はこれで一旦終了だ。


 僕にはまだまだやるべき事がある。それは、この連休中にずっと考えていた事だった。



「――D組の級長として、全員に提案がある。授業探索の前にクラス会議を行うから、皆は出来るだけ教室に居る様にして欲しい」


「クラス会議……?」


「議題は何ですの、翔真?」


「議題? 議題はそうだな――D組全体の戦力アップについて……って所かな?」


『!!』



 クラス対抗戦を経験して、改めて知った。コミュ症だ何だと言って、クラスメイトと交流を避けていたら、守れる者も守れなくなってしまう。レガシオン・プレイヤーの意地に賭けて、それだけは駄目だ。許されない。


 だから僕は、一歩を踏み出す。


 目の前のトーシロ連中達を、せめて他教室の生徒とタメを張れる位には強化してやる。


 初心者を導く……それがきっと、トップランカーの僕がやるべき事なのだろう。

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