第142話 D組強化会議① 卜部
――SIDE:卜部正弦――
――クラス全体を強化する。
彼は確かにそう言った。
だが、どうやって?
浮き足立つ心を抑えつけながら俺は普段の授業を熟していく。正直、内容は上の空だ。
チラリと、俺は背後の席の芳川さんへと視線をやる。彼女が無事で本当に良かった。折れた心が寸での所で繋がった様な気がしたんだ。
そして、ソレを行ったのが石瑠翔真。
やはり彼は
俺は改めて、そう認識した。
そんな彼が俺達の事を"強化"すると言ったのだ。その方法に興味が湧かない訳はない。
……ゴールデンウィークは散々だった。多分、こう思ったのは俺だけじゃないだろう。仲間が入院している中で、心の底から楽しく連休を過ごせた連中なんていないだろう。
クラス対抗戦を振り返る度、俺達は
D組全体に蔓延する、一種の諦めムード。
これを払拭しない限りは、先々の未来には続かないだろうと踏んでいた。その考えは石瑠も同様だったのだろう。だから、連休明けというこのタイミングで皆に会議を提案したのだ。
重ね重ね――彼が級長で良かった……。
無論、彼だけに甘えるつもりは毛頭無い。俺に出来る事があるならば、進んでソレに協力しよう。きっと、芳川さん達も同じ考えだ。
決意を新たにした、その時。
授業終了の鐘が鳴り響く。
「――今日の授業は此処までとします。探索を希望する者は15時までに転送区へと集合して下さい。連休明けですので、無理はしない様に」
挨拶と共に、教室内から退出しようとする影山教師。寸前で何かを思い出したのか、その足を止めながら先生は俺達へと振り返った。
「5月12日。今週の金曜日には2年生のクラス対抗戦が開かれます。よって、その日は授業はありません。クラス対抗戦を観戦するも良し、そのままABYSSに潜っても良し。帰宅をするのも自由です。各々で過ごし方を考えておいて下さい。それでは、以上となります――」
伝えるものを伝えた後、今度こそ影山教師は教室内から退出した。
2年生のクラス対抗戦か――
興味があるのは、他の生徒達も同様だった。
「へぇ〜、面白そうじゃん! 私等が見世物にされた分、2年生のも観に行こうよっ!!」
「へへっ! 高みの見物って奴だべ!! 浩介も一緒に行くよなぁ!?」
「チッ、うぜぇ……勝手にしろ」
盛り上がる新発田と葛西。二人に声を掛けられた磯野は、終始不機嫌そうだったが、それでも提案を断ったりはしなかった。
「オジョウ!! 球場飯、球場飯!!」
「うるさいですわね〜!? 大体、特別競技場は野球場では有りませんわよっ!?」
「え〜、でも興味はあるなぁ……」
「……食べながら観戦。良いと思うぞ?」
「はぁ……分かりました! 分かりましたわ! 全く、意地汚い人達。当日は番馬の回帰祝いも兼ねて、私が皆様に奢って差し上げますわ!」
「え!? 良いの!?」
「マジかよ、オジョウっ!? 食い放題かッ!? ブルジョワかッ!?」
「オーホッホッホ!! 武者小路家の財力を甘く見てはいけませんわ〜〜ッ!! ……そ、それと、当日は翔真も一緒に……ッ」
「えぇっ!? 何だってッ!?」
「〜〜〜ッ!! お黙りなさい! 鈴木ィッ!」
騒ぐ武者小路と、はしゃぐ仲間達。対抗戦の傷が一番浅いのは彼等だろう。鈴木も宇津巳も根が明るいのが幸いしているな。入院していた番馬もソレを感じさせない振る舞いをしている。武者小路の強烈なキャラクター性が、PT内のムードを良くしているのだと思う。
「2年生の対抗戦だって? 安井ーどう思う?」
「え? えーっと、わ、私はどうしようっかなぁ……あはは……き、菊田さんは?」
「え? わ、私は榊原さんに従いますけど?」
「……菊田さんは、どうしたいの?」
「え、えぇ? えっと……」
「……」
「観に行った方が、良いかなぁって……その、勉強にもなると思いますしっ!」
「ハッ、ウケる〜! 2年の戦いを観て、菊田如きが何の勉強をすんのさ?」
「それは、そのぉ……」
「……良いわ」
『へ?』
「対抗戦、観に行きましょう」
「ふ、冬子?」
「――それと菊田さん。意見を言う時はもっと堂々として言いなさい? 卑屈に言われると、聞いてるこっちだって苛々するわ」
「ご、ごめんなさい……」
「……フン」
どうやら、上手く纏まった様だな? 女子達のやり取りは俺には良く分からんが、榊原冬子は若干だが丸くなった様に感じる。良い方向へと左右してくれれば良いのだが――
『……』
問題は三本松達か。
クラス対抗戦では呆気なくやられたという。酷い怪我を負わなかったのは幸いだが、PTメンバーである林勝がC組に捕まるアクシデントがあったらしい。早々に脱落した三本松達は、それが理由でPT内部での確執が出来てしまった様だ。本人ももう、リーダーとしての自信は喪失しているだろう。何とかして立ち直って欲しいが……難しいな。
「……2年生同士のクラス対抗戦か。当然、俺達も行くのだろう?」
「実力者同士の戦いが見られるかも知れないしね? ABYSS探索の御手本にもなるよ」
「……藍那さんの戦い、見られるかも」
「翔真の姉君だな? 俺も興味はある」
「だったら、当日は皆で応援しましょうよっ! 藍那さんだって喜ぶわ!」
「それなら、翔真君も一緒の席に呼ぼうよ。どうせだったら解説もして貰いたいし」
「え、アイツを? まぁ、別に良いけど……」
「俺も東雲に賛成だな。奴の観察力は凄まじいものがあるからな?」
「……何よー。二人して随分とアイツの事を持ち上げるじゃない? ……全く、何処でそんなに仲良くなったんだか?」
「それは――」
「なーいしょ!! 内緒だよ〜♪」
笑い合う三人だが、その中でも相葉は一人沈黙を保っていた。傍目から見ても異様な空気だと言う事が分かる。三人が相葉を仲間外れにしているのではない。相葉自身が会話をする事を拒否しているのだろう。彼の事を注目して見て来た俺だが、あんな相葉総司は初めてだった。
『テメェはもう既に一杯一杯だろう? これ以上は抱えられねぇ。無理をすりゃ自滅だぜ!?』
……以前、我道竜子は相葉を指してそう言った事がある。その時は何を言っているのか分からなかったが、今の相葉を見ていると、何となくだが察してしまう。
「じゃ、そろそろ始めようか――」
黒板の前へとやって来た石瑠が、教室全体を見渡しながら発言した。
「僕なりに考えた、D組全体の強化プランだ。君達にはまず――PTの解散を行なって貰う」
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