第126話 魔種混交のステータス


 東雲に促され、僕は11階層の"草原エリア"へと転移した。青々とした緑の絨毯。首を垂れた草花が風と共に揺れている。何処までも広がる青空は美しく、都会の喧騒に疲れた現代人は、この開放的な光景に癒しを覚えてしまうだろう。



「無事、転移完了――と」



 呟きながら、僕は周囲を見回した。ワンテンポ遅れながら近くの場所へと転移して来る東雲達。……言った通り、無事11階層に転移出来たらしい。チートか? 一体どう言う原理だろう?



「ね? 平気だったでしょう?」


「……あ、あぁ」


「翔真君は心配し過ぎっ! "魔の血"を引く私達が、通常の探索者の括りな訳ないでしょう?」


「転移だって、誰かのPTに入ってれば自動で飛べるしな。分かり易く言えば、PTを組んだ俺達は誰かに使役される"魔物"扱いなんだよ」



 自嘲した笑みを浮かべながら僕へと説明する草薙太一。この口調から察するに彼も魔種混交なのだろう。魔物扱い、ね。"式神"扱いと言わない辺り、根は深いのかも知れないな。



「それで? これからどうするんだ?」


「……まずは15階層を目指す。金蟻蜜の素材になるハチノスの木を探すんだ」


「ハチノス?」


「特徴的だから、見ればすぐに分かるよ」



 言いながら、僕はその場から歩き出す。



「お、おい! 何処に行く気だ!?」


「説明なら歩きながらするよ〜」


「行き先はそっちで良いの?」


「……良いから、黙って着いて来なって」



 二人は顔を見合わせた後、そのまま僕の後ろに着いて来る。もう二言くらい問答が続くと思っていた僕は、彼等の聞き分けの良さに感心した。この調子で歩いてくれるなら、目的地までの到着は早まるかも知れないね?


 文字通り迷宮になっていた1〜9階層とは異なり、11〜19階層は転移石の場所も分かり易い。


 距離は遠くとも、道を歩いて行けば自ずと目標まで辿り着く事が出来るのだ。


 問題は出現する魔物なんだけれど――


 僕はチラリと二人に振り返る。


 念の為、ステータスは確認しておくか……。


――――――――――

[アンネ=リンクス] LV.27

[イビルプリースト/★★☆]

総合【302】

――――――――――

腕力【38】

体力【40】

技量【46】

敏捷【62】

知力【98】

運命【18】

――――――――――

[パーソナル・スキル]

淫魔族サキュバス★★★

○小悪魔★★★

○ムードメーカー★★☆


[パッシブ・スキル]

○魔種混交★☆☆

○緊急回避★★☆

○擬態★★★


[コマンド・スキル]

○眷属化[1]★☆☆

○結界[3]★★★

○ヒーリング[6]★★☆

○アイスストーム[2]★☆☆

○ダーク・ジャベリン[9]★★★

○索敵[05]★☆☆

――――――――――


 ……何か、知らない名前が出たんだが?


 イビルプリーストと書かれているから、この[アンネ=リンクス]という名前が東雲本来の名前なのかも知れない。今はスキル【擬態】の効果を切っているのかな? まぁ、僕相手に今更隠し立てする必要は無いという事かもね。


 詳しく項目を見ていこう。


 まず特筆すべきはそのレベルの高さだろう。野良の魔種混交では有り得ない。組織に所属してる者特有の練度の高さを誇っていた。


 ……本気を出せば、1年の級長連中よりも断然強いという訳か。敵対しないで良かったね。


 さて、お次はパーソナル・スキルか。


淫魔族サキュバス★★★

[淫魔族サキュバスの特性を得る。★レベルはスキル獲得時点でMAXとなる]


○小悪魔★★★

[敵の異性に20%の確率で魅了を付与。★レベルにつき敵の異性に全ステータス-10%を付与]


○ムードメーカー★★☆

[仲間の好感度を上げ易くする。★レベルにつき+20%の効果]


 スキル【淫魔族】は魔種混交の種族によって獲得するものだね。特性を得ると記載されているけれど……具体的な所は書かれていない。恐らくは種族固有のスキルなどを習得出来るのだろう。もしかしたら、ステータス値にも影響はあるのかも知れないね。【小悪魔】は条件発動の魅了系デバフスキルだね。相手が男性なら効果は抜群。【ムードメーカー】は、この世界ではどうなんだろう? 周囲全体に付与される効果なんだけど、そもそも好感度アップとか必要かなぁ? 死にスキルの様な気がするね。


○魔種混交★☆☆

[魔種としてカウントされる。★レベルにつき基礎ステータス+30。★★★で魔物化]


○緊急回避★★☆

[自身に危険が差し迫った時、自動で回避行動を行う。★レベルにつき1回発動]


○擬態★★★

[ステータス情報の偽装を行える。ON・OFF可能。★レベルにつき隠匿レベルアップ]


 さて、次はパッシブスキルなんだけれど、コイツも中々ユニークだ。【魔種混交】は基礎ステータスアップと破格の性能をしているけど、魔種としてカウントされるとか、魔物化とか、何だか不穏な単語が並んでいる。東雲達が11階層に転移出来たのも、このスキルが原因か。その下の【緊急回避】は読んで字の如くな内容だ。【擬態】の方も特に言う事は無い。隠匿レベルと言うのは鑑定系スキルをレジスト出来る数値の事を言う。★3なら同レベル帯の鑑定系スキルを無効化出来るという訳だ。かなり隠密性は高いのだが、天樹院が持つエクストラ・スキル【天帝眼】には効果は無い。


 コマンドスキルは――量が多いから割愛しよう。"眷属化"と"結界"は身を以て体験したし、他は攻撃・回復スキルだろう。スキル構成としてはバランスが良くて優秀なんじゃない?


 今度は、草薙太一の方を見てみよう。


――――――――――

[デュラド=スパロー] LV.28

[イビルナイト/★★☆]

総合【355】

――――――――――

腕力【105】

体力【98】

技量【50】

敏捷【52】

知力【32】

運命【18】

――――――――――

[パーソナル・スキル]

首無し騎士デュラハン★★★

○苦労人★★☆

○真面目★☆☆


[パッシブ・スキル]

○魔種混交★★☆

○特殊装甲★★☆

○擬態★★☆


[コマンド・スキル]

○幽霊斬り[9]★★★

○鎧召喚[3]★★★

○鬼火[2]★☆☆

○狂化[1]★☆☆

○マッピング+[03]★☆☆

○索敵[05]★☆☆

――――――――――


 例によって、コイツも名前が違うなぁ。東雲よりも断然強い【アタッカー】と【タンク】両方の適性を持った騎士の様だ。注目すべきはその腕力値の高さだろう。LV.28で3桁の数値は中々いないぞ? 魔種混交特有の基礎ステータス値の高さには驚かされるね?


首無し騎士デュラハン★★★

[首無し騎士デュラハンの特性を得る。★レベルはスキル獲得時点でMAXとなる]


○苦労人★★☆

[戦闘時ヘイト値+30。★レベルにつき+20上昇]


○真面目★☆☆

[状態異常【魅了】に掛かり難くなる。★レベルにつき+30%]


 ……あー、成程。


 コイツ、首無し騎士デュラハンだったのか。


 首は一応くっ付いてるけど、良く見たらチョーカーで切断面を誤魔化している。潜入工作というのも大変そうだな?


 見るべき所も無さそうだし、次に行くか。


○魔種混交★★☆

[魔種としてカウントされる。★レベルにつき基礎ステータス+30。★★★で魔物化]


○特殊装甲★★☆

[基礎防御力+30%。★1【毒】無効。★2【痺れ】無効。★3【石化】無効]


○擬態★★☆

[ステータス情報の偽装を行える。★レベルにつき隠匿レベルアップ]


【魔種混交】と【擬態】は東雲と被ってるから置いておくとして――【特殊装甲】コイツは強いな。防御力上昇はオマケだ。状態異常を複数無効化。コイツがかなり有能である。20階層の適正キャラとして活躍出来そう。


 コマンド・スキルは気になった物だけを抜粋する。数も多いし、サクサク見ていくか。


○幽霊斬り[9]★★★

[敵一体を対象とした攻撃技。幽体特効あり。★レベルにつきダメージ値+10%、使用回数+2回]


○鎧召喚[3]★★★

[首無し騎士デュラハンの鎧を召喚する。防御値+100。破壊されるまで持続。★レベルにつき防御値+50、使用回数+1回]


○鬼火[2]★☆☆

[火炎術。発動者の知力により威力増減。幽体特効あり。★レベルにつき使用回数+4回]


○狂化[1]★☆☆

[状態異常【暴走】を己に付与。★レベルにつき暴走レベルアップ]


 パッと見て幽体特効が多いなという印象だ。幽体の魔物は数は少ないけど、出て来ると面倒な奴が大半だ。特効持ちは有難がられるだろう。序中盤の【タンク】としては【鎧召喚】は有能だね。上手く使えばコイツだけ鎧装備に掛かる費用がいらなくなる。とはいえ、探索が後半に差し迫ると★3で防御値250というのは心許無い。最終的には死にスキルになるだろう。スキル【狂化】は使い所が難しそうだ。状態異常の【暴走】と言うのはプレイヤーの指示を受け付けず、敵味方の区別なく近くの者を攻撃する状態の事を言う。その際の攻撃力は+50%。防御値は-50%。正直、使い所に困るね。草薙を【タンク】運用するなら、まず不要なスキルだろう。

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