第125話 神宮寺秋斗


「へぇ〜……そう言う手を使っちゃうんだ? 翔真君って割と小狡いよね?」


「あれ? 御代わり行っとく?」


「――もういいよ。この場は見逃してあげる。今日はお仕事で来てるから、翔真君にばかり構ってられないしね☆」


「ふぅん? そっか」



 こっちとしては有難い。狂流川に付き纏われたんじゃ、ABYSS探索にも行けないからね。


 そうこうしていると、背後の集団から歓声が湧き上がった。どうやら例の有名人が到着したみたいである。八尾比丘尼とか言ったっけ? 割と人気のあるクランなんだな?



「彼、相変わらず人気だね? 私が登場した時は、皆もっと反応薄かったのに……」


「彼って?」


「神宮寺秋斗。大手攻略クラン・八尾比丘尼のリーダーだよ。翔真君も知ってるでしょ?」


「いや……」



 ファンを掻き分けて此方へと歩いて来る金髪の男。目鼻立ちが整っていて、ザ・イケメンと言った風貌をしているこの男が神宮寺秋斗という人物なのだろう。身に纏う白装束は、レジェンダリー装備の神衣シリーズか? レガシオンでも超一級の装備品……モブが持って良い代物ではない。


 ネームド・キャラか? ――いや、でも流石にソレなら僕が記憶していない訳は無いだろう。


 ならば他の可能性――



「……まさか」



 呟くと同時に、件の神宮寺秋斗が目の前へとやって来た。口元には爽やかな笑みを浮かべている。……何だか無性に気に食わない。何故だろう? 他人の――しかも第一印象で此処まで不快な気分になるのは珍しかった。


 まるで、前世から因縁がある様な――?



「やぁ。君がアイドルのMe'y? こうして話すのは初めてだね。今日は宜しく頼むよ」


「は〜い! 宜しくお願いしま〜す☆」


「……ん? そっちの彼は学友かい?」


「あぁ? アカデミーの後輩の翔真君です! ほら翔真君、神宮寺さんに御挨拶っ☆」


「……ども」


「? ……変わった子だね?」



 愛想の無い僕を一瞥した後、興味を失ったのか、神宮寺は狂流川と仕事の話で盛り上がっていた。……ビジネス・ライクな男だな。まぁいいさ。僕もこんな奴には興味が無いので、このまま二人とはお別れしよう。


 神宮寺秋斗――まさか、プレイヤーか?



「……」



 結論付けるのは、まだ早いか。


 確信に近い直感だったが、だからと言って此方から奴に問い質す気は無かった。コミュ症だからとか、そういった理由もあるけれど――何て言うのかな? ……奴からは嫌な感じがした。生徒会の連中とはまた別種な感覚。言い換えれば"不吉"とかに近いのかも? 僕自身、奴の顔を見ていると妙に心が騒めくのだ。湧き上がるのは"怒り"。"怨み"。そんな所だ。我ながら意味不明かも知れないが、僕は自身の第六感というものを信じている。……奴には触れない様にしておこう。それが一番、お互いの為だ――


 狂流川達から離れて辺りを散策していると、柱の影に、東雲の姿を発見した。どうやら向こうは僕の事には気付いていた様である。



「見付けるのが遅い!」


「遅いって……だったら、東雲が声を掛けてくれれば良かっただろう?」


「生徒会の人間が近くに居るのに、ノコノコと私が出向ける訳無いでしょう?」



 それはそうか。

 僕は東雲の説明に納得した。



「コイツ、やっぱり俺達を裏切っているんじゃないのか? 信用するのは危険だぞ?」


「えっと……」



 ――誰?


 突然横から現れた男子生徒。いや、近くに居るな〜と認知はしていたけれど、まさか会話にまで割り込んで来るとは思わなかった。


 東雲の知り合いだろうか?


 僕が疑問に思っているのを察してか、男は御丁寧に自己紹介をしてくれた。



「生徒番号8番。1-Aの草薙太一だ。……今回の探索には、俺も同行させて貰う」


「は?」


「心配だから着いて来るんだって……」



 呆れた様に東雲が言う。


 ていうか、待て。

 展開に付いて行けてないのだが――?



「もしかして――東雲の彼氏……?」


『違うっ!!』



 二人はハモって否定した。

 仲良いじゃん。


 友達(?)の友達と探索とか……コミュ症には拷問だよ。マジで行くのぉ? 行きたくねー……。



「……良く分かんないけど、探索日程は三日で良い? 予めメールしといたから、受付には連絡は済ませてあると思うけど……」


「うん、大丈夫」


「こっちも構わない。日程は前後する可能性もあるんだろう?」


「後ろは無いから安心して良い。知識さえあれば、そんなに難しいクエストじゃないんだ」



 言って、僕は魔晶端末ポータルを取り出しながら現在時刻をチェックする。今は8時20分。色々あって、もう1時間が経過してしまっている。そろそろ出発した方が良さそうだ。



「えーっと……それじゃあPT編成をするけれど、リーダーは僕で良いんだよね?」



 二人が頷いた事により、確認は完了。取り出した魔晶端末ポータルで編成作業を一通り終え、僕達は急造の三人編成スリーマンセルを結成した。



「転移階層は11階層から何だけど……本当に大丈夫? 二人の到達階層数は――」


「俺が15階」


「私は6階。だけど大丈夫。翔真君に着いて行くから、気にせず転移しちゃって」


「……」



 気にせずと言われてもな……?


 まぁ良いか。

 駄目なら気兼ね無く置いて行こう。

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