第124話 だ〜れだ?
5月1日、月曜日。
ゴールデンウィーク真っ只中の休日に、僕は今日も今日とてABYSS探索に赴いていた。
向かう場所は転送区だ。
折角の休日を病室のベッドで過ごしている哀れな連中の為に、僕が高級回復薬の素材を採って来てやろうと気を回してやったのだ。
我ながら何という慈愛の精神!!
まぁ、ABYSSを探索するのは好きだし? 休日と言っても誰かと遊びに行くとかは有り得ないから、結局の所はやる事は一緒なんだけどね?
……今回、面倒臭いのは"コブ付き"な事だろう。僕は自分のペースで探索がしたいのに、同行人が居る為にソレが出来ない。正直、結構なストレスだと内心では感じていた。
「東雲め……何だって着いて来るなんて言ってきたんだよ? そんなに相葉達が大切なのか?」
ぶつくさと小声で文句を言いながら、僕は受付を済ませて行く。
例の如く、東雲歌音のバックストーリーを僕は詳しくは覚えていない。ていうか、もしかしたらイベントを進めて無かったかも? 設定として彼女が魔種混交だって話は知っていたけれど、それだけだ。『
我ながら浅はかである。
「――さぁて。噂の東雲は、と……」
時刻は7時。待ち合わせ時間にはピッタリだ。転移石前へとやって来た僕は、探索者でごった返す広場の中を、キョロキョロと見渡した。
こう人が多いと、誰かを探すのも一苦労だ。連休という環境の所為だろうか? 転送区にやって来ている探索者の殆どはチャラチャラとした連中ばかりであった。真面目に探索する気が無いというか何というか、まるで遊びにでも来ているかの様な雰囲気が感じられた。
少し、苦手だな……。
「今日、
「本当だって! ほら、アイドルのMe'yがリポーターを務めるって公式HPに載ってるよ!!」
「くぅ〜!! 良いタイミングで来られて良かった〜〜!! 後でサインとか貰えるかなぁ!?」
「嫁に神宮寺秋斗のサインを強請られてるんだ! 持って帰れなかったら殺されるぜッ!」
ふぅ〜ん……?
通行人の会話を立ち聞きしながら、僕は内心で納得する。どうやら有名人が来るらしいね? 狂流川と――八尾比丘尼……神宮寺秋斗?
……知らない名だ。
原作キャラでそんな奴居たっけ?
まぁ、今はどうでも良いか。
そんな事よりも、東雲の行方である。
アイツめ、一体何処に――
「しょ・う・ま・君!!」
「ぬわっ!?」
突然、背後から目隠しをされたァッ!?
唐突な事に驚く僕だが、今この場でこの様な悪ふざけを行う奴は一人しかいない!!
――行くぞ、ファイナル・アンサァァッ!!
「し、東雲か……?」
「……え? ……はっずれ〜〜……」
――アレェェ!? 違ったァァ――ッ!?
途端にテンションが下がる声の主。目隠しを外して振り返ると、其処には狂流川冥が居た。
……あぁ、完全に好感度下がったわ……。
狂流川の奴は目に見えて拗ねていた。コイツからの好感度なんていらないけれど、邪険にして敵対されても困ってしまう。此処は何とか、奴の機嫌を取らないと……ッ!!
「あ、あ〜〜……!? 狂流川、かぁ……いや、本当言うと迷ったんだよね〜? 候補としては真っ先に狂流川が来てたんだけど……ほら僕、捻くれてるじゃん!? ついつい逆の方を突いちゃったんだよね〜? ――いやぁ、惜しいッ!! 本当は狂流川だって分かってたんだけど、正解出来なかった自分自身が悔しいなぁ〜〜ッ!?」
揉み手をしながら、精一杯ヨイショする僕。
狂流川は笑っていない。
全然。全く。笑っていない。
「ふーーん? 翔真君は私の事を他の女の子と間違えた挙げ句、私に嘘まで吐いちゃうんだ?」
「いやだから、嘘では……」
「ふーーーーーーん……?」
「……」
――圧が。圧が強い。
我道と比べて、こうして接する分には普通だからと忘れていたけれど、狂流川冥という女は生徒会の中でも屈指の危険人物!!
他人の事は飽きたら気軽にポイ捨てする癖に、独占欲が異常に強い。原作開始前に自身の教室の生徒を暇潰しに仲違いさせ、大規模な学級崩壊を引き起こさせた気が狂った女だ。退学者も多数出た。設定ではアレで何人か廃人になってたよな? ペナルティで狂流川の所属する教室は異例の降格。C組に移動していた姉さんは棚ボタでB組にまで上がる事が出来たのだ。
怒らせたら――不味い!!
反射的に僕は、その場で土下座をする!!
孫子曰く、拙速は巧遅に勝ると云う。
僕はソレを実践した!!
「す、すいませんでしたァァァ――ッ!!」
「えッ!?」
「怒らせて……ごべーーーんッ!!」
「ちょ!? しょ、翔真君!?」
慌てる狂流川。異常を察した周囲の見物人が、何だ何だと此方に注目してくる。
「あれ、何やってんだ?」
「ABYSSで土下座……?」
「ていうか女の方、アレ、Me'yじゃね!?」
「何かのスキャンダル……?」
「――!?」
くくく……死なば諸共よぉ……!! どうする狂流川? 僕を許してくれない限り、この土下座は続けるぞ? 他人に注目されるのは僕だって嫌だけど、命が懸かっているなら話は別だァ!!
「……分かった! もう良いから!! もう……! 早く立ち上がってよ翔真君ッ!?」
――しゃあッ!! お許しが出たァッ!!
「っし! フー……」
ゴキゴキと首を鳴らしながら、優然と立ち上がる僕。狂流川の奴は実に悔しそうだった。
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