第123話 魔種混交にも色々ある
――SIDE:東雲歌音――
「ふぅ……」
――疲れた。まさか翔真君の説得があんなにも面倒臭いものだとは思わなかった。三回目の玉潰しで漸く根を上げた彼は、私との探索に同意してヒョコヒョコといった足取りでホスピタルの屋上から出て行った。
念の為、彼の所在はスキルで確認しとこう。
探索の日程は明日。
早朝に転移石前で待ち合わせを取り付けたけれど、相手が反故にしないという保証は無い。
「随分と面倒な事をしているな?」
「……デュラド」
私は声のした方向へと目を向ける。するとそこには、何の特徴も無い中肉中背の男子生徒が立っていた。デュラド=スパロー。案外、上手く溶け込めてると思う。絶対に潜入には向かない奴だと思ってたのにね?
「その名前は止めろ。今の俺は1-Aの草薙太一。お前も、公の場でアンネ=リンクスとは呼ばれたくはないだろう?」
「分かった……軽率だったよ」
意趣返しで私の真名を呼ぶ"草薙太一"。こういう所が彼がモテない理由だと思う。
「フン、石瑠翔真か――
「魔種混交の言葉の意味と、私がそうだって事くらい。後の情報は何も無いかな?」
「なら、すぐに始末しろよ」
「……」
「情が移って出来ないか? あのなぁ東雲? お前、俺達の任務を何だと思ってるんだ?」
デュラド――いえ、草薙太一は、苛立ちながら私へと詰め寄って来る。
「俺達の潜入理由は理解してるだろう!? 魔種混交がアカデミー内に紛れてたと知られたら、すぐに特機は調査に入る!! 当然、背後に居る朝廷も動くし、その前に、アカデミーでは生徒会の化物連中が俺達を討伐しに来るだろう。そうなりゃ自存派の作戦も何もかもがお仕舞いだ!! 俺達若手がヘマした為に、先輩達の長年の準備が全て無駄になるんだぞッ!?」
「分かってるよ! ……けど、待って!!」
「何を!? まさかお前、本気で
……日本各地に点在する、特機管轄の魔種研究所。厳重なセキュリティが敷かれた研究施設には、魔種混交に対する人体実験が日夜行われ続けている。奴等に捕らえられ、身体を弄り回された同胞は多く、その殆どが死よりも凄惨な末路を遂げていた。
実際に、私やデュラドも一度は研究所に捕まった身の上だ。自存派のリーダー・"レイヴン"に救われなかったら、私も今頃は――
「石瑠翔真に監視の目は付いていない。付近を直接洗った俺が言うんだから、間違い無い! 大方、苦し紛れの虚言だったんだろうぜ!? 今すぐアイツを殺しても問題ないんだ!!」
「けど彼は、まだ利用価値がある!」
「……シエルの事か? 良い加減、諦めろよ! あの重傷じゃあ、もう助からねぇよッ!!」
「!!」
「……よしんば助かったとしても、その後をどうすんだよ!? 魔の血が濃くなっちまったシエルは、もう俺達の事も覚えちゃいねぇ! また襲われるのがオチだぞッ!?」
「で、でも……!」
「俺はもう嫌だからな!? 仲間を斬り付けるのも、ABYSSの中に置いて行くのも……ッ!」
「デュラド――」
「……ッ、草薙だ……っ、馬鹿……ッ!」
顔を歪めながら、壁に背を預けて座り込むデュラド。自存派の任務でABYSSを調査中、魔物化したシエルに私が殺されそうになった時、背後から彼女を斬り付けたのがデュラドだった。その時の事を、彼は未だに悔い続けている――
「首、曲がってるよ……?」
「チッ、るせぇ……ッ」
言いながら、傾いた首を元に戻すデュラド。彼の言い分も分かる。私は自分勝手な理由で仲間達を危険に陥らせてるのかも知れない。だけど、それでもやっぱり諦め切れない!!
「今の状態のシエルを……ベースにまで連れて行く事は出来ない……分かるよ? 分かるけれど……でも! 満足な治療が受けられないなら、彼女はこのまま死んじゃうよ!? 私は、それだけは絶対に嫌ッ!!」
「――!」
「翔真君が言った高級回復薬。ソレがあれば彼女を救えるかも知れない!! 可能性があるなら賭けてみようよっ!? デュラドだって、シエルとこのままお別れするのは嫌でしょう!?」
「……信用……出来んのかよ……!?」
「分からない。けど――」
「けど?」
「
「――ッ!」
「……いや、やっぱり怖がってたかも……?」
「どっちだよッ!?」
思わず、ツッコむデュラド。
「怖がってたけど……何というか、軽蔑はしてなかった! 私の事を"人間扱い"してくれていたと思う。だから――今でも接し易い……」
「……」
思えば――私を魔種混交と知りながら普通に会話をしてくれたのは、翔真君だけだったかも知れない。会話と言っても、こっちの一方的なものだったけれど、少なくとも、話を聞かずに石を投げられたりはしなかったなぁ……?
オドオドしてて、弱そうな癖に。
一丁前に踏ん反り返って、威張り散らす。
最弱な癖に、最強な男の子。
私は、心の中で決めていた――
「……今は彼を、信じてみる」
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