第122話 淫魔族との密会
ホスピタルの屋上――普段は誰も来ないであろう場所に、僕は東雲に押されてやって来た。背後ではちゃっかり扉の施錠なんてやっちゃってるし、決して僕を逃がさないという意思が感じられる。6階建ての高層だから、飛び降りて逃げるのも無理だろう。正に八方塞がりだ。
「こんなに大胆に僕に接触しちゃって良いの? 魔種混交とバレるかも……あふん!?」
僕の言葉を遮る様に、東雲は左手でナニかを揉む仕草をする。それ止めてェェ――ッ!? 何か絶妙に痛気持ちくて怖ぇぇんだよ!! 常にタマヒュン状態と言えば分かるかなァッ!?
「此処数日、仲間に貴方の周りを探ってもらったの。結果は監視なんて付いていない……つまり、私が君に接触しても問題は無いってこと」
「……ッ!」
「当然、此処で翔真君を始末したとしても、私の正体は誰にも割れない。疑わしきは罰せず。そう語ったのは貴方だものね?」
「……い、いや! それはどうなんだろうッ!? 後片付けとか大変そうだし、短絡的な行動は控えた方が良いのでは!? 清掃員のオバちゃんが可哀想だとは思わないのッ!?」
助かりたい一心でアホな事を口走る僕。東雲はクスクスと嗤っているけれど、何処まで本気なのかは分からない。ただ間違いないのは僕の
「――安心していーよ。今回翔真君を呼んだのは別件。ねぇ? もしかして君――生徒達を回復させる手立てを知ってるんじゃ無いの?」
「……回復って?」
「惚けないでよ。A組の子達とさっき病室で話してたじゃない。アレ、本気なんでしょう?」
「本気と言われても――やぴ!? ぐぉぉ!?」
「だーかーらー、惚けないでって言ってるの」
こ、この
潰れたらどうしてくれるんだぁぁぁぁ!?
「あれ? 反抗的?」
「ひぃ!? 嘘嘘!! 止めて下さーいッ!?」
「……話して?」
くっ、仕方が無い……!
今だけは言う事に従ってやる……!!
「高級回復薬のレシピなら知っている……」
「高級?」
「今使われてるのより、もっと効く奴だよ」
「ふぅん? それがアレばD組の生徒達は今よりも早く退院出来るのかな?」
「早くじゃない、即日だ」
ただでさえ調合が面倒臭い回復薬なんだ。それくらいの効果がなきゃ意味が無いだろう。
「……嘘じゃないんだよね?」
「あだァッ!? う、嘘じゃないですぅーッ!」
「……ふぅん」
呟くと同時に圧力を弱める東雲。孫悟空の輪っかかよ!? アッチは頭で、コッチは玉だから、痛みは僕の方が勝ってるねッ!?
「その回復薬って、どうやって作るの?」
「調合する気かい? ……って、待った待った。今から言うから、その左手は止めてくれ!?」
「……」
「……高級回復薬の素材は三つ。金蟻蜜とテイメンコウの湯。後、アラクネの粘糸さえ手に入れば、すぐにでも調合出来るよ」
「……アラクネの粘糸以外は、殆ど聞いた事が無い。そんな物、本当に存在してるの?」
「15階層から20階層の間で採取出来る資源だよ。そのまま取って来る訳じゃなくて、ある程度、現地で加工してから初めて手に入る素材だから、知らない人間も多かったんじゃない?」
「それがアレば、怪我を治せる?」
「間違い無くね」
効果は通常の回復薬の10倍らしい。アイテム説明欄に書いてあったから間違いない。どういう原理かは知らないけれど、人体の負荷を軽減しつつ治癒を促進。骨を元通りに繋ぎ合わせ、内臓系の疾患も完治させるらしい。つまり、外傷薬ではあるけれど、服薬する事でその他諸々の臓器も元気にしてくれるのだ。コレ一本で、軽度の癌なら消失する。正に医者殺しだね。
「貴方はそれを手に入れるつもりなの?」
「ABYSSの攻略がてら――ね。別に連中の為に高級回復薬を取って来てやる訳じゃないんだから、そこら辺は勘違いしないでくれよ?」
念の為に釘を刺してやるが、東雲は「ふーん」と言って、実に興味なさ気であった。
「――それ、私も着いて行くね?」
「は?」
コイツは一体、何を言い出してるんだ? 着いて行くって……僕が東雲とPTを組むって事?
普通に嫌なんですけど?
「……あのさぁ、15階層から20階層だよ? 東雲はまだ10階層を超えてないじゃないか? 残念だけど着いては来れないよ。上層まで行った探索者が下層に潜るのなら分かるけど、逆の場合は転移石が反応しない。言っとくけど、"キャリー"何てしてる時間は無いからな?」
「そんな必要は無いよ。翔真君はまだ
「何でそこまでして……? 相葉達の事なら僕に任せておけよ!? 正直、誰かと一緒に探索するのは億劫なんだ! やりたく無い……ッ!」
「そこまで? 邪魔はしないよ!?」
「隣に人が居るのが嫌なんだ!!」
「え、ぇぇ……?」
「ABYSSを探索する時はね? 誰にも邪魔をされず、自由で……なんというか救われてなきゃあダメなんだ。独りで静かで豊かで……分かる?」
「全っ然、分からない……」
困惑しながら首を横に振る東雲。どうやら彼女には僕の気持ちは理解出来ない様だった。
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