第121話 お見舞い④ 忍者と巫女


 6階。ホスピタルの最上階に来た僕は、目当ての病室をすぐに見付けた。同時に、実に入室し難いサプライズも見付けてしまったのだが――



「うわぁぁ……これは気不味い……」



 問題としているのは601号室の入院患者である。相葉総司の名前がある。それは良い。既定路線だ。だが――な〜んでこんな所に鶯卍丸の名前があるんだよォォッ!?


 阿保かァァ――ッ!?

 こんなん気不味過ぎて入れるかァァッ!?


 病室前で悶える僕!!


 すると――



「あの……此処の病室に御用でしょうか?」


「げッ!? ……御子神、千夜……ッ」


「?」



 背後から鶯の見舞いに来たであろう、御子神千夜とバッティングしてしまう!! 相手は盲目!! 僕が石瑠翔真だとは気付いていない!


 脳裏に蘇るのは、我道が行った1年生襲撃事件のあの日である。僕は御子神に事件の首謀者だと疑われ、糾弾された……ッ! あの日の傷は未だに深く、僕の胸に突き刺さっている……!!


 可能ならば、会いたくない相手である。


 幸い、向こうは僕が翔真だとは気付いていない。このまま人畜無害な通行人を装い、何とかこの場から脱出してやる――ッ!!


 意気込んだ、その時である――



「はれ……!?」



 後退った瞬間、何故か扉が開かれたァッ!?

 なにこれ、新手のトラップゥゥッ!?

 何でこの階だけ病室が自動ドアなんだよ!?



「ア――ッ!!」



 己の不幸体質に恨み節をぶつけながら、僕は601号室へと倒れ込む。



「な、何事でござるかッ!?」


「卍丸! 人が、倒れて――!」


「む? この御仁は……石瑠翔真ッ!?」


「えぇっ!?」



 二人の驚愕する声が聞こえて来る。見知らぬ天井を仰ぎつつ、ヒキガエルの様にひっくり返った僕は、この先の展開に思いを馳せ、口元を引き攣らせるのであった――





「それでは貴殿は相葉殿の見舞いに来たと?」


「ま、まぁね……まさか、A組の鶯と同室だったとは思わなかったよ」


「卍丸! この者を信用してはなりません! また何か策を仕掛けているのやも……!」



 病人である鶯を庇う様に、御子神は僕に噛み付いている。原作だと虫も殺せない様な優しいお嬢様だったんだけどなぁ……? そんな相手を此処まで怒らせる僕って何? あぁ、石瑠翔真かぁ……それなら仕方が無いかぁ……ハハッ!


 思わず自嘲してしまう僕。



「……しかし、コッチも昏睡してるとはね」



 僕は鶯の隣のベッドに注目する。そこにはチューブで繋がれた相葉総司の姿があった。全身傷だらけ。まさかコイツが此処まで負傷するなんてな? 一体、誰にやられたのやら。



「拙者、病室でクラス対抗戦の動画を見ていたでござる。相葉殿は百済殿の祈祷術をその身で受けてしまった様でござるな」


「祈祷術? あぁ、"彦星"かな?」


「知っているのですか?」


「一応、僕も喰らいそうになったからね」



 あの時の祈祷術は凄まじかったなぁ? 原型が残ってるだけ、相葉はマシな部類なのだろう。



「流石はD組を1位に持って行った御仁でござる。石瑠殿の闘い振りは拙者も見学させて頂きましたが――いやはや、凄まじかった……」


「そ、そう?」



 改めて言われると、照れるなぁ。



「級長達に取り囲まれた、絶体絶命のあの瞬間。まさか、たった一人で生還するとは――石瑠殿には相手の行動が全て分かっていた様でござるな? この鶯、感服致しましたでござる!」



 全部、偶然なんだけどねぇ……?


 まぁ、褒めてくれるのは悪い気がしないから、此処は黙っておこうか。


 キラキラと眼を輝かせちゃって。

 鶯卍丸――良い奴なんだよなぁ、本当。



「えーっと、鶯……で、良いのかな? 我道にやられた傷は大丈夫なの?」


「それでしたら、ほれこの通り! 鶯は万全。今すぐにでも千夜殿の護衛に戻れ――ッ!?」


「鶯!?」


「が、ぐぅ……ッ」



 腕を回そうとした瞬間、鶯は負傷した右腕を庇いながらベッドの上で蹲ってしまう。


 ……どうやら、まだ完治とは程遠い様だ。



「無茶をしてはいけません!! 今は安静にして、休まないとッ!!」


「……め、面目、ござらん……ッ」



 痛がる鶯に、御子神は回復系の神道術を掛けてやる。アレは【養命光】か。体力・気力を小回復させ、全ての状態異常を癒すスキルだ。残念ながら骨折には効かない……というか、骨を瞬間的に継ぎ合わせる様な回復術は、その全てが高位レベルの術である。ホスピタルが行えないというのなら、恐らくは、まだこの世界には浸透していないのだろう。



「……無理をさせちゃったね。帰るよ」



 幾分か落ち着いた鶯を介抱する御子神。どう見ても僕は邪魔者だ。長居は無用――


 ――と、最後にコレだけは聞かなきゃな。


 病室から出ようとした僕は、二人に振り返りながら口を開く。



「御子神。鶯の怪我は、いつ治るんだい?」


「……お医者様は、三ヶ月先だと――」



 そうか。三ヶ月か。



「――それ、早まるかもね?」


「え?」


「それじゃあね〜」



 問われる前に、僕は病室から退散する。

 

 ……A組の鶯も追加、と。


 これから忙しくなるなぁ?


 僕が思った、その時である――



「ねぇ? 早まるって、なぁに――?」


「……へ?」



 振り返るとそこには、東雲が居た。


 しかも、この感じ。

 この圧。


 間違いない……!

 エチエチ・淫魔族サキュバスモードォォッ!?



「色々と知ってるみたいだね? 報告したい事もあるし――屋上、行こうよ?」



 ひ、ひぇぇぇ、よ、呼びだしィィ――ッ!!

 し、搾られるぅぅぅッ!?


 断る事は、当然出来ない!! 何故なら僕は、奴に愛しいJr.を人質に取られてるからだ!!


 人質ならぬ、玉質……?


 いや、そんな事はどうでも良いわッ!!



「来て、くれるよね……?」



 脅す様に僕に囁く東雲。その左手はナニかを揉む様に艶かしく動き、その動きに連動して僕のダンディがコロコロとリモートコントロールされてしまうッ!! ひぃぃ、怖ェェッ!?



「イ、イキますぅぅぅぅ!?」



 思わずその場で叫ぶ僕。


 選択肢など、何処にも無かった――

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