第119話 お見舞い② 眠り姫
次に僕が向かったのは、403号室だ。
此処には芳川と榊原が入院している。特に榊原冬子の方は重症だ。女子病室という事もあるし、入室は慎重に行かないとね?
思いながら階段を上がって行くと、4階フロアの通路に見覚えのある眼鏡の男子を発見した。卜部正弦か……聞いてた通り、やはりバッティングしてしまったか。隣には高身長なバレー部女子・高遠葵の姿も確認出来る。恐らくは芳川の見舞いの帰りなのだろう。
さて、どうするか――
見知った顔を見付けた時、声を掛けるのが一般的なのかも知れないが、生憎と僕はコミュ症だ。例え翔真の仮面を被っていようとも、根本的な性格が変わる訳では無い。故に、この場は隠れてやり過ごすのが僕のやり方だ。誰にも文句は言わせない。言わせない――のだが……。
「……石瑠?」
「何!?」
隠れるのが一瞬遅かったァァッ!? 高遠の奴、目敏いぞっ!? 驚く卜部に、仕方が無く手を上げて応対する僕。トホホ……まーた余計な事しちゃってるよー……。
「何故君が此処に!?」
「別にぃ〜? 暇だったから立ち寄っただけさ。そう言う卜部達は芳川達の見舞いかい?」
「あぁ……姫子さんだけじゃない。瀬川も……怪我をしたのは……俺の責任だからな……」
「はぁ?」
「俺にもっと、力があれば……!」
「……」
そう言って、壁に寄り掛かって項垂れてしまう卜部。僕は思わず高遠の方を向いてしまったのだが、彼女も呆れた表情を浮かべていた。もしかして、ずっとこの調子? 怠いわ〜。
「……あのさぁ卜部? 酔いしれてるトコ悪いんだけど、二人の怪我はお前の所為じゃないと思うよ? 瀬川は【タンク】だから、怪我するのが仕事みたいな所もあるし、芳川だってPTリーダーでしょ? 対抗戦のルールを考えれば、敵に狙われるのは当然だし、一体何を考えて――」
「――そこだ」
「ほぇ?」
「俺がリーダーを務めていれば良かったんだ。姫子さんに危険な役を押しつけて……俺はぬくぬくと離脱した。それが何より許せない……」
はぁ〜〜? ……成程?
そっちに戻って来るかー……。
卜部がリーダー、ねぇ……?
「――いやっ! 変わんない変わんない!!」
「――」
僕は手を振って主張してやる。今回の件で言えばリーダーの采配なんぞ関係が無い。単に個々の実力が不足していただけである。卜部がリーダーになったとしても、結果が変わるとは思えない。下手をすれば今よりも被害が大きくなっていた可能性だって有り得るのだ。
「あの状況じゃあリーダーとか関係無かったでしょ? 自罰的になるのは楽したいから? 現実を見るのは辛いからね? 君の気持ちも分かるよ」
「ち、違う……! 俺は――」
「後悔なんてしてる暇があるなら、まずは動きなよ。今自分に出来る事を探して行動する。人事を尽くすって言うのはそう言う事でしょ?」
「――っ!」
「……少し、喋り過ぎたね。僕はもう行くよ」
「石瑠!」
「?」
「――ありがとう」
高遠に礼を言われた。
だから、むず痒いんだっての。
僕は二人を置いて入院病棟の4階を歩いて行く。え〜っと、403号室。403号室は、と……。
「此処か」
コンコンとノックするも、部屋の中から返事は無い。……寝ているのだろうか? このまま立ち去っても良いんだが、少し気になった僕は、静かに扉を開けて行く。
――成程、な。
卜部がメンヘラ発症した理由も分かるわ。
これを見せられちゃ、な……。
「――」
芳川姫子と榊原冬子。二人は包帯だらけの身体のままベッドに昏睡していた。取り付けられた人工呼吸器が見てて痛々しい。榊原はまだしも、芳川のこんな姿は見たくなかったな――
ホスピタルの医療レベルは高水準だ。が、それでもやはりダメージが大きい。回復薬の開発により人体の外傷等による傷の回復は早くなったが、それすらも万能では無い。急速的に促進される細胞分裂はテロメアを縮めるし、身体には過度な負担を掛けるだろう。
国が探索者に回復薬の使用を奨励しているのは、彼等による人体実験の側面もあるらしい。諸外国も平気で行なっている事だから、価値観という奴がぶっ壊れている。
此処までの情報は一般にも知れ渡っている事だけど、利便性を考えると探索者は回復薬を使わざるを得ないのよね?
しかし――問題はその質だ。
やはりというか、何というか……この世界の医療技術は原作よりも遅れている。攻略情報が浅いんだろうなぁ? 現地加工が必要な素材が軒並み発見されていない。高級回復薬が開発されていないのも、ソレが理由だろう。
「……邪魔したね」
言って、僕は痛々しい様子の芳川達と別れた。……次は5階かぁ……気が重いなぁ。
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