第113話 わっしょい!!


『何ぃ!? イーフリートの双角を使用した真紅合金だと!? ――そんな、馬鹿なっ!?』


『……通常、イーフリートの双角は硬過ぎて加工は出来ないんだけれど、ある特殊素材と一緒に錬金釜に入れてやれば、一時的に柔軟性を付加する事が出来て、装備素材として使える真紅合金に加工する事が出来るんだ!! ……君達が望むなら、そのレシピも教えてあげるけど?』


『OH Jesus……石瑠、お前って奴は――』


『なんや! ごっつええやつやん!? ウチ、アンタんこと誤解しとったわ〜♪』


『まっこと、天晴れな男であるなっ! この仲路、今までの事は水に流そうっ!!』


『OK!! そうと決まれば、平和の歌だぜ〜ッ!? Hurry up‼︎ it's show time‼︎』


『ウチも負けへんでぇ!? よっしゃ! 自慢の蛇ちゃんを踊らしたる! 行くでぇ? レッド・スネーク、カモンや〜〜!!』


『はっはっは! 愉快愉快! はっはっは!』


『は、ははは……っ!』



 良かった、皆喜んでくれた――!


 これで僕も――くしゅん! げほっ!


 あれ!?


 何だ――咳が、急に――!?



「――げほっ! ごほっ!! がはっ!?」



 くそッ! 砂埃が喉に……ッ!


 あれ? 針将ー?

 通天閣は、幽蘭亭はー!?


 ……今までの事は、夢だったのかァァ!?


 ――状況は!?


  一体、どうなったんだ!?


 ……僕は、無事なのか……ッ!?



「周りが……砂埃と煙で、何も――ッ!?」



 手で煙を払いながら辺りを進んでみると、足元に転がったナニカに蹴躓き、僕はその場で盛大にすっ転んでしまう。くっ……そぉ〜! ツイてね〜〜!? 何なんだよ!! 全くゥっ!!


 憤り、足を取られたモノへと振り返る僕。



「――えぇ!?」



 そこには、身体中傷だらけでケツを突き出した体勢で気を失う通天閣の姿があった!!


 ま、まさか……!


 思うと同時に煙が晴れ、視界がクリアになっていく。地面は至る所が陥没し、壁は土砂崩れの様に崩壊。荒れ果てた迷宮は先程まで僕が居た場所とは到底思えない惨状であった。



「地獄斎!? それに、針将仲路もかっ!?」



 満身創痍の状態で大股を開き、モロパンのまま気絶する地獄斎!!


 うぉぉ! コイツは眼福だぁっ!!


 ――って!


 そんな事を言ってる場合じゃな〜い!!


 僕は凶悪な笑みを浮かべたまま、白目を剥いて気絶している仲路の側へと近寄った。



「おい! 仲路ッ!! おぉーい!!」


「……」



 駄目だ。完全に伸びてやがる。


 ……え? ちょっと待って!?


 これって、もしかして――生き残ったのは僕だけって事? 他の連中は軒並み気絶!?


 嫌な汗が、僕の頬を伝っていく……。


 ――待った。


 待った待った待った!!


 今回僕は、マジで勝つ気なんて更々なかったんだっつーのッ! 高まったヘイトを解消しようと、謝罪をする気満々だったのにィィ!!



「だって言うのに、何で寝てんだァァァ!? うわぁァァァ!! 嫌だァァァァァァッ!!」



 ――え? て事は何? さっき言った僕の謝罪も、何もかもが吹き飛んじゃったって訳ッ!?


 皆からのヘイトは継続……?


 何も事態は変わってねェェ――ッ!?



「――いや! まだだっ!!」



 試合が終了したのなら、教師陣から対抗戦終了のアナウンスが流れる筈!! 宣言されていないって事は、今ならまだ間に合うという事だ!



「起きて仲路ぃぃぃ!! 目覚めて僕を救ってくれよぉぉぉんッ!? お前、あんだけイキってたろ!? 軽々と気絶なんかしてんじゃねぇ!?」



 僕は泣き出しそうになりながら、馬乗りになって、仲路の頬を張っていく!!


 まだだ!! まだ間に合う!!


 間に合うゥゥェェ――ッ!!



『――試合終了!!』



「あああああああああああ――ッ!?」



 迷宮内に響いた教師の"終了宣言"に、僕は思いっきり頭を抱えて絶叫するのだった――





 溜息を吐きながら、転移石前へと戻って来た僕。仕方が無い。気持ちを切り替えて、これからの事を考えよう。物事は前向きに行かなきゃね――と。考えを新たにしていた、その時だ。



「来たぞぉぉぉッ!! 英雄の凱旋だッ!!」



 鈴木の号令と共に、此方へと駆け出して来るD組の面々。英雄って――? は? 頭に疑問符を浮かべる僕だが、連中の勢いは止まらなかった。



「は? え? ――はぁぁぁぁぁぁ!?」



 怯んだ時には、もう遅かった……!!


 激突し、揉みくちゃにされる僕!!

 痛ってぇ!! 馬鹿、テンション高過ぎッ!?



「やるじゃん! 石瑠ぅ♪」


「は、はぁ!?」



 満面の笑みで、宇津巳が笑う。ちょ――近い近い!! 胸の谷間が、腕に――!!


「うぉっ!?」



 今度は逆方向に引っ張られた!! パイとパイパイしながら、またオッパイッ!?



「一人で活躍して……ずるい……」


「ひ、ひとりでって――」



 アカン!! 声が上擦ってまう!? おしくらまんじゅうにされながら、高遠のスポーティーオッパイを顔面で堪能する僕。鼻腔に薫る柔軟剤の良い匂い……これは、堪らん……ッ!! 



「すすす、凄かったよ本当にっ!」


「格好良かったぁっ」



 三本松や森谷忍君も僕を褒めて来る。格好良かったかぁ……そう言う君も可愛いよっ!!



「どうなってんだよ!? 卜部が言うように、全部、お前の作戦通りだったのかよ!?」



 林勝……こいつはまぁ、どうでも良いや。浮かれた頭に少しだけ冷静さを取り戻す僕。



「俺は最初っから信じてたぜ!!」


「よくもそんな事を――!? 翔真! 本当に最初から信じていたのは、この私、武者の――」


「しゃぁぁぁぁ!! 胴上げ行くぞぉぉ!!」



 ――ど、胴上げッ!?


 いやちょっと待て!!

 何を隠そう、僕は高所恐怖症で――ッ!!



『おー!!』


「ちょ、話を聞きな――ッ!」


「ギャァァァァァァ!! 高い、高い、高いって!? やめギャァァァァァァ――ッ!!」


『わーっしょい!! わーっしょいッ!!』


「うぎゃぁぁぁぁぁぁ!?」



 叫ぶ僕を無視して、連中は高く高く胴上げをした。くそッ!! コミュ症の僕が何だってこんな事に……!? 恨むぞ、鈴木ィィィッ!!


 ――因みに、最後はお約束の様に皆が僕をキャッチし損ねて、高所から地面に叩き付けられるというオチであった。


 もう二度と、胴上げなんてさせない……!!

 心の中で、涙を流しながら決意した!!

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