第114話 次なる標的は……


 ――SIDE:我道竜子――



 おいおいおいおい……。



「勝っちまったよ……」



 最後はイマイチどうなってんのか分からなかったけれどよ。D組が。あの圧倒的弱者が。圧倒的に不利な状況下で、大差で勝利しやがった。



「……ハハっ」



 思わず笑えてきちまう。


 それもこれもぜ〜〜んぶ、石瑠翔真のおかげかぁ? 他の連中は前評判を覆す様な活躍はしてなかったもんな? 1学年の全生徒を相手取り、綺麗に丸ごと勝利を掻っ攫いやがった。


 な〜んだそりゃ?

 あの見た目雑魚が、何でこんな結果を?


 はぁ……分からねぇなぁ……。


 分からねぇ分からねぇ分からねぇ分からねぇ分からねぇ分からねぇ分からねぇ分からねぇ分からねぇ分からねぇ分からねぇ分からねぇ。


 ――弱いのに強い?


 相反してるだろうが。

 んな事が有り得んのかよ?


 あんなタイプは初めてだ。私の人生で見た事がねぇ。弱肉強食がモットーだって言うのによぉ? 弱い奴が強い奴を食っちまってるんだったら、そりゃ根底からおかしくなるだろうが!?


 ……あーあ、意味分かんねぇ。

 ……不快。不愉快だ。



「――楽しそうだね、リューコちゃん☆」


「あぁ?」


「顔、笑ってるよ?」



 チッ、狂流川の奴……うっせぇーな。

 分かってんだよ、んな事はよ。



「……1学年のクラス対抗戦、予想通り翔真君が勝っちゃったね?」


「あぁ?」



 予想通りだと?



「んだそりゃ? まるで翔真アイツが勝つと、確信してたみてぇな言い回しだな?」


「そりゃあね〜? ――分かってたよ?」


「ハッ!」



 後からだったら何とでも言える。私は狂流川の世迷い言を鼻で笑ってやった。



「リューコちゃんは気付かなかった? 翔真君の強さ――私、リューコちゃんなら見抜いてくれるかもって、期待してたんだけどなぁ?」



 だって言うのに、コイツは――



「彼、やっぱり特別だよね? 八房君が必死に守るのも分かるなぁ。1年生では群を抜いて強いし。さっきの対抗戦、翔真君は一度も本気で戦わなかったでしょ? アレはきっと、他の生徒じゃ相手にならないって分かってたんだよ☆」


「……」


「凄いよねぇ……2年生でも、相手になる生徒なんているのかなぁ――?」



 狂流川が、値踏みする様にそんな事を呟きやがる。……コイツの魂胆は見え見えだ。



「残念だったな、狂流川。私はアイツとはヤらねぇ……というか、ヤれねぇんだ。天樹院に釘刺されてる――確かにアイツは唆るがよぉ、私の第一目標は天樹院だ。奴との戦いが遠退く様な馬鹿な真似は、私はしねぇよ」


「あは☆ 何それ? 去勢された犬みた〜い?」


「ッ!!」


「――らしくない。らしくないなぁ、リューコちゃん……それじゃあ全然つまらないよ?」


「んだと、テメェッ……!!」



 躙り寄る狂流川に、私は思わず拳を固めた。



「ねぇ? 私が教えてあげよっか?」


「はぁ? 何を――」


「八房君が言った事の、抜け道……」


「!」


「翔真君に手を出すなって、そう言う風に言われたんでしょ? でもさ、それって――相手から仕掛けて来たなら無効だよね? 八房君は私に言ったよ? 私達彼にちょっかいを仕掛けるのは許さない――ってさ」


「……何が言いてぇ?」


「あは☆ ――聞きたい、聞きたい?」



 愉快そうに嗤う狂流川。その巫山戯た態度は苛付くが、私は内心の怒りを抑えつつ、目の前の狂ったアイドルの策に耳を傾けた――





 対抗戦が終わり、私は一人で帰路に着いていた。町外れにある薄汚れたアパート。そこが私の下宿先だ。住む場所になんざ頓着しねぇ。雨露が凌げりゃ上等だ。帰り道にコンビニで買ったあんぱんの封を開けながら、私は一口ソイツを齧る。齧りながら、今日起こった事。狂流川から聞いた戯言をゆっくりしっかり咀嚼する。



「気が乗らねぇなぁ……」



 確かに、狂流川の言う通りにすれば、翔真の奴は釣れるかも知れねぇ。何だかんだ、周囲の連中には甘い顔をする男だからな。今日の対抗戦で雑魚共を庇った立ち回りをしていたのがその証拠だ。翔真の奴がもっと勝ちに貪欲になれば、+1000RPは余裕だっただろう。



「……何よりも殺気だ。アイツからは相手をぶっ殺してやろうっつー、殺気が感じられねぇ。それってつまり、本気じゃねぇって事だろう? 全力で遊んじゃいたが、ただそれだけ。相手を敵と見做してねぇんだ。だから、あんな巫山戯た戦い方にもなる――」


 一体、どれだけの戦力差がありゃあんな真似が出来るんだ? A〜C組の級長はステータス面だけで言うなら翔真よりも格上だ。


 そんな連中にたった一人で囲まれて、翔真は余裕綽々で勝利しやがった……。



「ハッ……ハッ、ハッ……ッ!」



 ――まただ。


 口元が自然と緩んじまう。


 昂る鼓動。渇く唇。ドクンドクンと脈打つソレは、一体何時振りの感情だぁ?



「あぁ――やっっべぇぇぇぇ……ッ」



 石瑠翔真――石瑠翔真かぁ……!



「ヤりてぇ……ッ、ヤりてぇ、ヤりてぇ……マジ、ヤリてェェェェ――ッ!!」



 この激情を抑える事は出来ねぇ! こっちは随分とご無沙汰してたんだ!! 私の相手になる様な奴は、誰一人として存在しなかった! それが漸くだ! 漸く、満足させてくれる様な妙ちきりんな変な奴が現れたァッ!! 我慢だなんて酷くねぇか……!? ざけやがって天樹院! テメェだけが楽しもうだなんて、そうはいかねぇ!


 ガン、と。私は思い切り道路の標識を殴り付ける。飴の様にくにゃりと曲がる鉄の棒。だかよ、これだけじゃあ私の破壊衝動は治らねぇ!



「――いいぜぇ? ノってやるよ狂流川……5月の対抗戦だったよなぁ? 奴の大事なモノを、この私が徹底的にぶっ壊してやる……!!」

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