第112話 試合終了


 ――SIDE:鳳紅羽――



 一体何が起こったの!?


 各級長が放った必殺スキルによる攻撃は、凄まじい衝撃と爆風を生じさせ、立ち昇った煙により、中継映像からは小部屋内の様子が窺えなくなってしまったわ。


 唖然とする周囲。


 D組だけではない、観戦席に座る生徒達ですら戦いの激しさに呆然としてしまっている。


 翔真は――


 アイツは、どうなったの……?



「石瑠……死んじまったのか……?」


「馬鹿鈴木! 不吉なこと言わない!!」


「だ、だってよ〜?」



 不用意な発言をした鈴木を、早希が嗜める。



「そんな、翔真……」


「美華子さん――」



 沈痛な面持ちで翔真の身を案じる彼女。


 その感情は、一般的なただのクラスメイトに向けるものとは違う感じがする。


 もしかして、美華子さんは――



「――待て! 映像内で何かが動いたぞ!!」


『!?』


「煙が……段々と晴れて――ッ!?」


「――嘘」



 皆が固唾を飲んで魔晶端末ポータル画面の中継を注視する中、煙の中にあった影はやがて輪郭を濃くし、私達の前にその姿を現すわ。目に掛かる程の邪魔臭い前髪。170cm未満のホビットみたいな身長に、逞しさの欠片もない痩せ型の体型。性格の悪さが滲み出ているかの様な、あの目付きの悪い眼光は――間違いなく、私の知る幼馴染の翔真だわっ!!



「うぉぉぉおおお!! 石瑠ぅぅぅぅ!!」


「無事……だったか……!!」


「――待って!! それなら他の級長は!?」



 私の疑問は、すぐに氷解したわ。


 煙が晴れる――爆発により地面が陥没したその小部屋には、通天閣・幽蘭亭・針将仲路の三人が傷だらけの姿で横たわっていた。


 どうやら、意識も失ってるみたい。



「まさか……相打ちになったのか!?」

 


 推測しつつ驚く卜部君。状況を見るに、そうとしか思えない。三人の級長はそれぞれ自身の最強の技を繰り出し、相打ちになったのよ!


 でも、それなら一つ疑問が残るわ。



「石瑠は? アイツは何で無事だったんだ!?」


「……もしかして、アレのおかげかなぁ?」


「ん? アレは――」



 森谷君の指差した場所には、紅い鉄板の様な物が転がっていたわ。……そういえば、技が激突する瞬間に、翔真があんな物を取り出していたわね。――まさか、アレで防いだの!?



「そうか! そういう事か……ッ!!」


「う、卜部!?」


「彼は全て予想済みだったんだ……! 敵が自身を狙って結託してくる事。袋小路に追い詰められた時に、連中が結んだ協定を反故し、それぞれが用いる最強技で他教室を巻き込んだ攻撃を仕掛けて来る事を予測していた……!! 故に、予め防ぐ手段を用意して、奴等を攻撃せずに敢えて同士討ちへと持って行ったッ!!」


「な、何だって――ッ!?」



「何という策士だ――」と。卜部君は翔真の事を称賛したわ。……けれど、流石にソレはどうなのかしら? 私には、偶然上手く行ったかの様にしか思えないんだけれど――?



「全ては石瑠の手の中って事かよ……? すげぇ……凄過ぎるぜ、石瑠ぅ……ッ!!」


「オーホッホッホ!! 漸く皆さんも分かったようですわね!? 私が認めた石瑠翔真は、武勇にも智略にも長けた傑物なのですわ〜〜ッ!!」



 美華子さん、嬉しそう……何だって彼女はあんなにも翔真の事を気に入ってるのかしら? やっぱり、級長選出戦が原因? そりゃあ最近のアイツは少しは変わったとは思うけれど……。



「――何やってんだか」



 映像内のアイツは、気絶した針将の頬を泣きそうな顔でパチパチとビンタしていた。


 ……止めでも刺そうとしてるのかしら?


 意外と容赦無いわね? まぁ、針将アイツにはこっちもボコボコにされた記憶があるから、同情なんてしてやらないけれど。



「……ふぅん。本当に強くなったのね……?」



 悔しいけれど。

 認めない訳にはいかないじゃない。


 でも、私だって負けないわ。



『――試合終了!!』



 審判がクラス対抗戦の終了を宣言する。それぞれの教室が獲得したRPは、以下の通りよ。


 A組……+140RP

 B組……+130RP

 C組……+150RP

 D組……+740RP


 結果はD組の圧勝。


 けれど、喜んでばかりもいられないわ。此方は総司をはじめ、重傷者が多数。RPも翔真以外は誰も獲得出来なかった。教室単位で考えれば、私達は圧倒的に他教室に負けている。


 問題は依然、山積みなのよ――


 ……なのに、コイツらは!!



「来たぞぉぉぉッ!! 英雄の凱旋だッ!!」


「は? え? ――はぁぁぁぁぁぁ!?」


「やるじゃん! 石瑠ぅ♪」


「一人で活躍して……ずるい……」


「すすす、凄かったよ本当にっ!」


「格好良かったぁっ」


「どうなってんだよ!? 卜部が言うように、全部、お前の作戦通りだったのかよ!?」


「俺は最初っから信じてたぜ!!」


「よくもそんな事を――!? 翔真! 本当に最初から信じていたのは、この私、武者の――」


「しゃぁぁぁぁ!! 胴上げ行くぞぉぉ!!」


『おー!!』


「ちょ、話を聞きな――ッ!」


「ギャァァァァァァ!! 高い、高い、高いって!? やめギャァァァァァァ――ッ!!」


「……はぁ」



 馬鹿騒ぎをする皆に呆れ果てる私。手の平返しってレベルじゃないわよね? これ……。


 疲れ切った私の肩を、ポンと叩く歌音。

 持つべき者は仲間だわ。


 私は、改めて実感した――

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