第108話 観戦③ 脱落者組


 ――SIDE:卜部正弦――



「くっ、芳川さん……! 芳川さんは……?」


『卜部!!』


「……芳川なら容体が酷かったから、さっきすぐに先生達が担架で運んでったぜ?」


「鈴木、か……ぐぅぅッ!?」


「おいおい、無理すんな!? ――オイ誰か! 回復出来る奴はいねぇのかっ!?」


「わ、私がやるよっ!」


「……スマン」



 崩れた体を抱えながら、東雲が回復スキル【ヒーリング】を俺に使用してくれた。……温かい。少しだが、痛みが和らいだ様に感じる。


 高遠は――俺と同じ様に、安井夢が介抱してくれていた。その間、アイツはピクリとも動かない。恐らくは体力の限界だったのだろう。



「此処に居るのは……?」


「あぁ……脱落者の中でも、比較的軽傷だった奴等が残ってる。全員が担架で運ばれちゃ、保健室も一杯になっちまうからな」



 鈴木の説明を聞き、俺は瀬川の姿が見えない事に納得してしまう。他にも相葉や神崎、磯野に番馬と言った面子が担架に運ばれた様だ。



「……今の、状況は……?」


「……翔真が善戦していますわ」


「善戦っていうか……逃げ回ってるだけだろう? もうアイツ以外はD組は残っちゃいねーし。とどのつまり、俺達は"負けた"って事だ」



 首を振り、溜息を吐いて肩を落とす鈴木。転移石前では皆が報道部の撮影する対抗戦の中継を魔晶端末ポータルで眺めつつ、辛気臭い空気を放っていた。対抗戦が始まる前の勢いは何処へやら。力の差を見せ付けられた俺達は、無力感で一杯だった。


 石瑠の言う通りだったな。

 俺達全員、棄権していれば良かったんだ。


 そうすれば、無駄に傷付く事も無かった。



「――気付くのが遅かったな……」



 俺は溜息を吐きながら、呟いた。皆も同じ気持ちなのだろう。もう誰も、結果の決まった石瑠の試合を観ようとはしていない。


 そう、一人を除いて――



「まだ試合は終わっていませんわ! 頭を下げるのはお止めなさい! みっとも無くってよ!?」


「武者小路――しかし……」


「石瑠翔真は……私達の級長はまだ戦っていますわッ! 最初に棄権を指示したにも関わらず、誰よりも長く生き残り、活路を見出そうとしているのですわ!! 彼の提案を蹴って、戦うと決めた私達が諦めてどうするのですか!? そんなのは、余りにも身勝手ではなくてッ!?」


「それは――……」


「確かに、そうかもね」



 口籠もる俺とは別に、鳳紅羽が立ち上がる。



「ただ落ち込むだなんて、私らしくないわ。怠惰なアイツが、珍しく頑張ってるんだもの。見届けるくらいはしてやんなきゃね……!」


「鳳さん……」


「紅羽で良いわよ。その代わり、私も美華子さんって呼ばせて貰うからね? ――最後まで、アイツの戦いを見届けましょう?」


「……ッ、お前ら、本気かよ……っ!」


「林君……?」


「もう無理だよ。あんだけやられてまだ分かんないのかよ……!? 俺達と他の教室の連中は違うんだ。石瑠なんかが何とか出来る訳ないだろう? 期待するだけ無駄さ! 余計惨めになる!」


『……』



 林勝の言葉に、再び全員が影を落とす。



「――でも、石瑠は私を助けてくれた」



 ポツリと、膝を抱えた宇津巳が呟く。



「総合力最下位で――誰よりも弱い癖に、C組の生徒から私のカメラを取り返してくれた」


「宇津巳……」


「まだ――分かんないよ?」


「――ハッ! 何だよそれ? 石瑠石瑠って、皆して馬鹿みたいに連呼しちゃってさぁ……」



 反論するのは椎名莉央だ。


 石瑠アンチの女子筆頭・榊原PTのメンバーは、石瑠翔真を認めたりはしないだろう。



「……もー良いよ。そんなに言うなら魔晶端末ポータルを使ってスレの反応を見てみる」


「スレって……何だよ、新発田?」


「クラス対抗戦のスレッド……」


「はぁ? そんなのあんのかよ!?」


「賭けの対象にもされてたし〜?」


「もはや、何でもアリだな……」



 鈴木と共にスレッドが出来ていた事を知らなかった俺達は、新発田愛里の言葉に驚きを通り越して呆れてしまう。



「第三者の反応を見れば、皆も少しは頭が冷えるでしょ? ……えーっと、なになにぃ……?」


「何か書かれてるか?」


「――あ、……え?」


「……んだよその反応? 気になるべ。ちっと俺にも見せろよ愛里ぃ?」


「あ、ちょっ、待っ――!?」


「あ〜ん? ……石瑠翔真大活躍? 流石天樹院のお気に入り? 俺は最初から分かってた……?」


『!?』


「何だその反応は!? オイ、葛西!?」


「アタシの魔晶端末ポータル! 返してよバカ!」


「あべしっ!」


「新発田! 今の反応はどういう事だ!?」


「あ、アタシだって知らないわよッ!?」


「石瑠翔真、大活躍ぅ……!?」


「――ちょっと待って! こっちでもネットの情報を漁ってみるよっ!!」



 言って、宇津巳が自身の魔晶端末ポータルを素早くタップし始める。その速さは尋常ではなく、流石は報道部だと感心した。



「――私達、現在は+130RPだって!!」


「は、はぁ!? んな訳――ッ!」


「――本当!! 石瑠が敵を倒してたの!! A組の生徒二人と、C組の生徒三人。内二人はPTリーダーを務めてた生徒!!」


『!!』


「大金星だって!! だから、ネットの声も手の平を返して褒めてるんだよっ!! 今までだったら、絶対に有り得ない……! 石瑠は実力で世間の悪評を跳ね返したんだっ!!」


「う、嘘ぉ〜……」



 絶句する鈴木。

 俺達全員が、同じ気持ちだった。



「ほ、他の教室のポイントは!?」


「現時点で、A組が+140RP。B組が+130RP。C組が+150RP。暫定1位はC組だけど、D組は全然競ってるよ!? まだ負けてない!!」


「ほ、本当かよ!? す、スゲェェ――ッ!!」



 思わず飛び上がる鈴木。

 まだ希望はあったという訳だ――!


 現金なものだ。まだ負けてないと聞いて、俺の身体にも俄然力が湧き上がって来る――!



「――でも、これからどうなるかは分からないよ? まだ勝負は続いてるんだから……!」


「油断は出来ない。そういう事ですわね?」


「馬鹿翔真! 私が応援してやってるんだから、せめて逃げ切りなさいよね――ッ!!」



 鳳の叫びが、石瑠にも通じたのか――


 瞬間――彼は被弾した。

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