第109話 クラス対抗戦⑧ 翔真


 アチャチャチャチャァァァッ!?


 畜生!!

 ケツに火が着いたァァ――ッ!?



「当たった……!!」


「フッ、良いぞ百済くだらよ! この兄の敵を、もっともっと燃やしてやれ!!」


「……チッ、五月蝿いわね。こっちも燃やしてやろうかしら……?」


「ん? 何か言ったか、妹よ?」


「いいえ、何も――撃ちます……!」


「うむ!」


「――天命奉舞・術式陣閃光"彦星"ィィッ!!」


「な、なぬぅァァ――ッ!?」



 針将百済が放った極太の閃光術は、此方を丸呑みにせんと、迷宮内の壁を破壊しながらグングンと直進して来た。あわや直撃といった所で通路の横穴へと飛び込んだ僕は、大出力のエネルギーを体に擦過させながら、何とか事なきを得ることが出来た。崩壊した壁を見ながら、一言――こんなん当たったら即死ですやん!?

 


「あぶ! あぶぶぶっ!?」


「……避けたか。ゴキブリの様な男……ッ!」



 とんでもない言われ様だが、構ってはいられない!! 翻って、僕は再び駆け出した!!


 現在僕は針将PTに追われている。


 通天閣を振り切ったと思ったら、幽蘭亭が。幽蘭亭を振り切ったと思ったら針将が。


 正にエンドレスワルツ。

 終わりの無い舞踏を踊っている様である。


 一瞬、紅羽の声が聞こえた様な気がして、油断をしてしまった。もはやアイツは僕に対する呪いだな。――百害あって一理無し!!



「……ふむ。そろそろ、か……」


「あれ!?」



 気付いたら、針将達の姿が消えていた。振り切ったという感覚はまるで無いのだが――



「Search and Destroy……!! 愉快だな石瑠ぅ!? 闇夜に踊れェェッ!!」


「うぉわァァっ!? 通天閣!?」


「ハィィヤァァッ!!」


「くそッ!!」


「――What⁉︎ Smoke⁉︎」



 出会い頭に人の頭にエレキギターを振り下ろしてくる通天閣とかいうイカレ野郎。慌てて投げ付けたアイテムの煙玉で、どうにか矛先をズラす事が出来たが……今後も不意を打たれたら不味いかも知れない。



「ん? って、コレは――」


「おいでやす〜♪ ……石瑠翔真ァァッ!!」


「キャアァァァッ!? 幽蘭亭地獄斎!?」


「行けや蟒蛇うわばみィッ!!」


「くっ!」



 正面で待ち構えていた幽蘭亭が、招来式符を放ったのが見えた。透明で良く見えないが、地滑りをするのは奴の式神の蟒蛇だろう。


 えーっと、蛇蛇蛇!!

 蛇の弱点は――コレ!!


 テッテレー!


 僕は魔晶端末ポータルの次元収納から、内緒で買っていたアサニチのスーパージョライ缶を取り出した。キンキンに冷えたコイツを、蟒蛇が居るであろう付近に――投げる!!



『シュワァァァ……!』



 すると不思議。式神の蛇は僕には目もくれずに落ちた酒を夢中で飲み出したァッ!!



「な、なんやとっ!?」



 所詮、爬虫類よ……!!


 原典知識を持つ僕の敵ではないねッ!!



「ハハハハハハ! 幽蘭亭敗れたり!! ばーかばーか!! お尻ペンペ〜〜〜ンッ!!」



 調子に乗った僕は、角を曲がる寸前に幽蘭亭に向けて白目を剥いて愉快に尻を叩いてやる。


 すると――



「こ、殺す……あんクソダボガァァァッ!!」



 まぁ、トンデモなく怒ったよね……?


 思わずブルっちゃった。

 やらなきゃ良かったかも。


 通路を進もうとした、その瞬間――



「ん!?」



 ――視界に移った白刃の煌めき。思わぬ方角からの不意打ちに心臓を飛び上がらせつつも、僕の体はもう何万回も繰り返した緊急回避の行動パターンを、その場で行っていた。


 地面を転がり避ける僕。伝家の宝刀を振るったのは針将仲路だ。危ない危ない……奴は僕が此処に来る事を予測していたのだろうか?



「此れを躱すか――待てッ!!」



 思考を巡らせつつも、足を動かすのは決して止めない。脱兎の如く駆け出しながら、僕は先程までの奇襲の一連の流れを思い出していた。


 針将だけではない。

 幽蘭亭も。

 通天閣も。


 僕の居場所を察知していた。まるで、此方の居る場所が分かっているかの様に――



「……まさか」



 ――いや、考えられる。


 クラス対抗戦では魔晶端末ポータルの使用は制限されていない。ゲームの中では起こり得なかった事態だから、考えた事は無かったけれど――これは、ゲームじゃないんだよな?


 ……なら、普通にやるか?


 迷宮内では敵の正確な位置は把握出来ない。スキル【索敵】を使えば生命反応だけならばマーカーは出来る。此れにより大凡の見当は付けられるかも知れないけれど、敵味方入り乱れるこの混戦。魔晶端末ポータルを片手に敵の位置をサーチし続けるのは至難の業だろう。


 迷宮内では無理だ。

 なら、迷宮外では――?



『お、覚えてろよ……! いつか絶対、お前の事をギャフンと言わせてやるからな!!』



 僕は、誰かに言われた言葉を思い出す。


 天使十紀亞――!!


 いつかって……今かよッ!?



「野郎……! 観戦しながら僕の居場所を針将仲路に送っているな!? そして、仲路はその情報を通天閣・幽蘭亭に共有してやがるッ!!」



 そりゃ不意打ちも容易だろうッ!?

 だって、こっちの位置モロバレなんだもん!


 不味い不味い不味い――!!

 これは不味い事になって来たァ――ッ!!


 此処で本舗初公開の情報を披露すると……僕はね? 実はPvPが滅法苦手なんだよ。レガシオンの世界ランキングで3位だったって何処かで言っただろう? アレはね? PvE……つまり、対魔物戦でポイントを積んでいたから、あの結果に落ち着いてたんだ。プレイヤー相手だと僕は弱い。何せコミュ症だからね? 画面の向こうに人がいると思うと途端に力が出なくなっちゃうんだよ。……いや、本当。負け惜しみじゃない。


 何が言いたいのかって言うと、僕はコイツ等相手でも普段の力を十全に発揮する事は出来ないという訳だ。元がNPCとはいえ、今は生きてる人間な訳だからね。階層主・魔神イーフリートをソロで倒せたとしても、コイツ等相手に敗北する可能性は十二分にあるって事だ。


 だから、焦っている……!


 このままでは何れ追い詰められ、包囲されるのは時間の問題だ。そうしたら僕はどうなるだろう? 散々挑発もしちゃったし、ボコられるのは確定だとして、良くて再起不能。悪くて死?


 い、嫌だァァ――ッ!!

 そんな2択は御免被るぅァァ――ッ!!


 しかし、嘆いていても選択の時は刻一刻と近付いて来ている。……これはもう、アレだ。


 最後の手段。最悪の事態を想定して、準備をしていた――を使うしか無いのかも……!

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