第103話 観戦② 藍那PT


 ――SIDE:石瑠藍那――



「きゃあああ――!! やるねやるね弟君!!」


「A組の生徒、二人を撃破だってよ!? これってD組の初戦果じゃね!?」


「流石は藍那の弟! 素晴らしい動きです!!」


「あの攻撃を回避する体捌き、やばくね!? 俺だったらさ! 絶対ズババーンって言って、何回か斬られてたわ〜!!」


「アレが石瑠流って奴? あ! 今気付いたんだけど翔真君、無傷で二人を倒したんだっ!?」


「すっげー!! やッべぇー!!」


「……身内に厳し過ぎるというのも考えものですね? 優秀じゃないですか、彼」


「ホントホント!!」


「藍那は厳しすぎんだよ! ――ったく、俺も見事に騙されたぜ!? なぁ?」


「そ」


『……そ?』


「そそそそそ――そうだなッ! ……な!?」


「藍那……?」



 怪訝な目で私を見詰める仲間達。まさか翔真が、これほどまでに強くなっているとは……皆目見当が付かなかった!! 階層主をソロで倒したなどと麗亜の口からは聞いていたが、そんな話、信じられる筈がなかろうがッ!?


 圧倒的不利な状況下で、敵の攻撃を完全に見切り、回避を選択する冷静さ。自身の攻撃が支援魔法によって防がれたと見るや、逃走を図ったと見せ掛けて敵の前衛を誘き寄せる狡猾さ。


 何よりA組の生徒……伽藍華院と言ったか? 真希の話ではLV.22の猛者だという。この戦士を相手に一撃で昏倒させるフィジカル。


 正に、圧倒的だった――


 長らく探索者をしていると、ステータスの値が探索者の力量ではない事を理解してくる。例えレベルが高かろうと、肉体を操る者の技量が低ければ、それは宝の持ち腐れ。敵対したとしても脅威ではなく、迷宮内の魔物を相手取るのと大差は無いのだ。


 大事なのは、その場その時で最適解を叩き出す事だろう。命の差し迫った状況。熟練の探索者でさえ難しいと言えるソレを、弟・翔真は実戦でやってのけた。それも、気負いなく軽々とだ。一体奴は、何時の間にあれほどの実力を身に付けたと言うのだろう?


 兎に角、此れは驚くべき事だ。



「しかし、アッチは大変だなぁ……」



 慎也の視線の先には、脱落したD組の生徒達の姿があった。転移石前で座り込む彼等。その大半は怪我が原因で動けない者が殆どである。教職員はそんな彼等を担架に乗せ、順番に救護室へと運んでいる様である。今残っているのは比較的軽傷の者達だ。



「殆どがD組の生徒ね」


「狙い撃ちにされてるのが、丸分かりですよ」


「今の戦況はどうなってんだ?」


「待って。今調べる――」



 自身の魔晶端末ポータルを取り出しながら、真希が1年生のクラス表を開いた。



「うわー、真っ赤っか」


「どれどれ……うぉっ!? こりゃ酷ぇ……」


「わ、私にも見せてくれ!」



 言うと、真希は魔晶端末ポータルごと私に差し出してくれた。

 

 ……1-Dの生徒表を確認しよう。


 脱落者は赤文字で名前が記載されている。表に出た名前は、既にその半数以上が赤かった。



 ② 10.[柔道家] LV.7 瀬川三四郎

 ――――――――――――――――――――

 ③ 06.[盾闘士] LV.10 番馬光

 ③ 12.[バッター] LV.7 鈴木一平

 ――――――――――――――――――――

 ④ 19.[ハイブリッド] LV.5 新発田愛里

 ④ 20.[ヤンキー] LV.4 葛西克己

 ④ 22.[豚戦士] LV.2 杉山春男

 ――――――――――――――――――――

 ⑤ 14.[調合師] LV.5 三本松陽毬 ☆

 ⑤ 21.[呪術師] LV.2 木之本詩織

 ⑤ 23.[シーフ] LV.2 林勝

 ⑤ 24.[アイテム使い] LV.2 森谷忍

 ――――――――――――――――――――

 ⑥ 15.[魔法戦士] LV.7 榊原冬子 ☆

 ⑥ 16.[拳闘士] LV.5 椎名莉央

 ⑥ 17.[メディック] LV.2 安井夢

 ⑥ 18.[槍兵] LV.3 菊田澪



 脱落者は、合計で14名。

 D組の生き残りは11名か。


 名前の最初の丸数字が所属するPTの番号で、最後に記載されている☆マークがPTリーダーを指し示す印であり、現在のD組のリーダーは二人も脱落してしまっているという事になる。


 生徒番号を見るに、総合力下位の生徒が軒並み狩られてしまった様だな? 僅か数十分でこの有様か。分かっていたが、余りにも残酷だ。


 ――私も、元はD組に所属していた身だ。


 成績上位になる事により、今の教室のC組へと移籍した。その後、紆余曲折があり――元のB組が学級崩壊を起こし、ペナルティとしてC組へと降格。狂流川冥が新たに級長へと就任した頃には、既に私はB組に所属する身分となっていた。


 私は幸運だったのだろう。

 だが、決して恵まれ続けていた訳ではない。


 辛酸を舐めた経験がある。だからこそ、今の1-Dの状況には同情を禁じ得ない……!



「今の所、A組が+60RP、B組が+60RP、C組が+100RPだってよ。暫定1位はC組だ」


「D組は翔真君が稼いだ20RPだけかな……?」


「待って下さい。さっきの天使という男子がPTリーダーだったらしい……D組は+60RPです」


「あれ? アイツら、二人編成ツーマンセルで対抗戦に挑んでたのか……?」


「届け出は四人編成フォーマンセルとなっていますね。他の仲間とは逸れていたのかも」


「……案外、男同士でイチャつく為に、ワザと仲間と逸れてたりして〜?」


「真希ぃ……お前そう言う話好きよな?」


「嫌いな女子はいないよーっだ! ねぇ藍那?」


「そ、そこで私に話を振るのかッ!?」



 天使十紀亞と伽藍華院か。


 何やら怪しげな空気だとは思っていたが、まさかそんな関係だったとは――何たる不潔! 神聖な戦いの場でイチャつくなどと……! あ、後で対抗戦の動画を見返さなければ……ッ!!



「って、話してる場合ではありませんよ!」


「え? ――あ!」


「D組のエースか? アレ、やばくね!?」


「――ッ!」



 見るとそこには、C組と交戦していたD組のPTが、劣勢に陥っている状況が展開されていた。


 アレは、鳳紅羽の所属するPT!

 リーダーは相葉総司という生徒だった筈。



「相手はC組でも下位のPTですね」


「D組のトップが、C組の最下位に苦戦してんだもんな。そりゃ勝てねぇわなぁ……」


「待って! あれッ!!」


「え? ……うぉっ!?」



 真希が指し示した箇所では、驚くべき光景が展開されていた――

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