第100話 クラス対抗戦① 相葉
――SIDE:相葉総司――
『各自転移が完了次第、試合開始とする』
A組の男子教諭に言われた言葉を思い出しながら、俺は切り替わった迷宮内の風景をぼんやりと眺め――すぐさま、仲間達へと振り返った。
「全員、無事か!?」
「問題ない」「えぇ」「こっちは大丈夫!」返って来た三人の言葉に胸を撫で下ろしながら、俺は続けて周囲を警戒した。
迷宮内は簡素な造りだった。辺りは白い壁で区切られており、天井は薄く透明だ。此方から観客席が見える造りになっているので、外からは俺達が何処にいて、どのような動きをしているのか把握出来る様になっているのだろう。
「どうする、総司?」
「一先ずは索敵だ。歌音、周囲に敵の反応が無いかどうか調べて貰えるか?」
「うん。情報は
全員が頷く中で、歌音がスキル【索敵】を使用する。同時に端末情報をPT内で共有したので、全員の
マップに表示されたのは、俺達四人分のマーカーのみだ。地図を埋めていないから、こうなる事は予想済みだが、少なくとも付近に隠れている敵はいないらしい。
俺はほっと、胸を撫で下ろす。
「――そうだ! クラス表!」
思い出しながら俺は手元の
つまり――クラス表を表示した際に名前の文字が赤くなっている生徒はこの迷宮内に存在しない……誰かにやられてしまったという事になる。棄権した生徒も同様だ。
翔真は――まだ、棄権はしていない様だ。
俺達の懸命な説得に心を動かし、棄権をするという考えを改めてくれたのだろうか?
それとも――
「翔真が棄権しないという事は、俺達にとっては好都合だ。どうする? 移動か待機か。決めるのはリーダーである総司に一任するぞ?」
「……事前の作戦では、戦闘は極力避けるって話になっていたよな?」
「でも、避けると言っても敵の姿が見えない以上は最適解は打てないわ! マップを埋める為にも此処は動くべきだと私は思う!」
紅羽からの提案を受け、俺は少し考えながらこの次の行動を決定させた。
「――取り敢えず、動こう。地形の把握もあるし、紅羽の言う通りマップを埋めるのは大切だ。他教室の生徒と接敵した場合は余計な事を考えずに逃げに徹する。逃げられそうになかったら、その時は俺が戦闘の号令を出すから、それまでは逃走を計って欲しい。作戦としてはこんな感じかな? 皆、何か質問はあるか?」
俺が問うと、皆は「無い」「大丈夫!」「問題無いわ!」と、返して来る。
此処から先は手探りの探索になるだろう。
道中を警戒して先へと進もう。
◆
対抗戦開始から、数十分後――
先を進んでいた俺達は、通路の奥より悲鳴の様な叫び声を聞いてしまう。
「うわぁぁぁぁ!! 誰か助けてぇぇぇ!!」
思わず、顔を見合わせる俺達。
「……今の声って……?」
「――林勝。と言う事は、三本松のPTか?」
「すぐに助けないと!!」
「待って!!」
反射的に駆け出そうとした俺の足を、歌音が身体を張って静止させる。
「なっ!? 退いてくれ、歌音!!」
「……何かおかしいと思わない?」
「え?」
落ち着いた声でそんな事を言う歌音。しかし、こうしてる間にも林の身には危険が迫っているんだ。無理にでも行こうとしたその瞬間、歌音は想像よりも強い力で俺の腕を掴んだ。
「ッ、歌音! 何を!?」
「……仲間割れか?」
「ちょ、どうしちゃったのよ、歌音!?」
普段とは違う様子の歌音に、困惑する俺達。だが、当の歌音は知らぬ素振りで通路の奥を警戒していた。一体。何を考えているのやら。
「……静か過ぎる。林君が追い詰められてるとしたら、敵の声だって聞こえて来てもおかしくはないよね? なのに、私達が聞いたのは『助けて』っていう林君の声だけ……」
「それは、つまり――?」
「これは罠だよ。私達D組の生徒を誘き出す為の罠。行ったら最後、戻っては来れなくなる」
『――』
歌音の説明に俺達が息を呑んだその時、背後の通路から拍手の音が響き渡った。
「御名答。何だお前ら、意外にも頭が回るじゃねぇか。小細工した甲斐がねーでやんの!」
「お前は……ッ!!」
通路の奥より現れたのは角刈りの男子生徒。C組所属の米田健司だった。隣にはもう一人、奴のPTメンバーが控えている。
「だが〜? 分かった所でもう遅ぇ! ボコボコにして小便チビらせてやるぜ、相葉ァァッ!!」
「!」
鉄の棍棒を振り回しながら、此方へと特攻を仕掛けて来る米田。――早い! 回避では間に合わないと悟った俺は【タンク】としての役割を全うするべく奴の正面へと躍り出る。
「総司!!」
「ぐぅ!」
棍棒の一撃を鉄の剣で防ぎながら、俺は痺れる腕を誤魔化す様に皆へと号令を叫んだ。
「ッ、――全員、戦闘開始だ!! コイツらからは逃げられない!! 覚悟を決めろ――ッ!!」
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