第97話 会場入り


 どう見ても負けイベです!!

 ありがとうございました!!


 ――なんて、言ってる場合じゃ無いか。


 明らかに危険そうな臭いがプンプンしてたから、教室の皆に忠告してやったけど、連中全く聞きやがらねぇ。此れが発言力の差という奴だろうか? 級長に成った意味、まるで無し!!


 まぁ、ある程度予想はしてたけどね。


 棄権しろと言われて、はいそーですかと、素直に棄権する連中じゃ無いとは思っていたよ。けれど、今回はそれが悪手なんだ。影山からの説明を聞いた時に思ったんだけど、今回はマジで虐められる可能性が高い。


 ――そう、虐めだ。

 ――決して戦いにはならないだろう。


 A組の平均LV.18。最低LV.15。

 B組の平均LV.15。最低LV.10。

 C組の平均LV.12。最低LV.9。


 対するD組は――平均LV.6。最低LV.2だ。


 ……良くこんな数値でイキれたよな?

 連中は魔晶端末ポータルを見てないのか?


 勿論、単純な数値だけが戦闘力を現しているとは言わないけれど、目に見えない"経験"の部分でもD組は他教室と大きく水をあけられてしまっているのだ。勝負になる筈が無い。


 生徒を殺傷してしまった場合、ポイントは没収? 悪質と見做された場合は退学処分?


 ――いや、軽くね!?


 RPなんざ後々でも稼げるもんだし、悪質と見做されない場合は無罪放免なんだろう? 原作プレイヤーである僕はアカデミーの上層部の腐敗っぷりを熟知している。仮に殺傷した生徒が朝廷関係者なら必ず見逃されるだろう。


 流石は国家が認めた研究機関アカデミー!!

 

  魔種混交に対して人道無視の実験を繰り返す人非人の集団だ。人の命が軽い軽い!!


 真面目に相対しても馬鹿を見るだけだ。

 だから僕は棄権を進言したと言うのに……!


 ……まぁ、他の教室の生徒が全員人でなしという訳では無い。僕の杞憂という線も往々にして考えられるだろう。


 C組の級長・通天閣歳三は色々とパンクな男だが、基本的には善良な性格をしている。周りの連中がブレーキの壊れたアホなヤンキーだと言う事に目を瞑れば、何とか……なるかなぁ?


 B組の級長・幽蘭亭地獄斎はサバサバとした関西女――に、見せ掛けて、割と執念深い蛇の様な性格をしている。B組の生徒自体は真面目な奴が多いから、アイツにだけ出会さなければ過剰に痛め付けられるという心配は無いと思う。


 A組の級長・御子神千夜は今回、出ないんだったな。代理として級長を務める針将仲路は最悪だ。傲慢苛烈を絵に描いたかの様な男。A組自体が選民意識の強い集団だし、仲路の指揮の下でその力を振るったならば、最悪は人死にが出るかも知れない。相手は針将家だしな。何をされようとも、此方が泣き寝入りするのは確実だ。


 ――あれ?

 ――やっぱ駄目じゃないかコレ!?


 安心出来る要素、皆無ゥゥゥッ!!

 ゲェェム、セェッツ!!

 此れにて終わり! 終了でーすッ!!


 一人で頭を抱える僕だが、時刻は刻一刻とクラス対抗戦へと迫っていた――





 学習区のグラウンド近くにあるドーム状の建物。知らない人から見れば野球場の様にしか見えない建物がクラス対抗戦の舞台の特別競技場である。各ゲート付近にはチケット売り場があり、一般の観戦客はこのチケットが無ければ競技場の中へと入れない。僕達は競技者側だから、そのままスルーして中へと入れた。



「おーい、更衣室こっちだってよ!」



 先を行っていた鈴木がD組の生徒に向かって声を上げた。初めての場所だと言うのに随分と勝手が分かっているな? やはり野球か? 東京ドームに似ているから感覚で場所が分かるのか?


 男女に分かれた僕達は『1-D』という札が掲げられた個室へと入り、ABYSS探索用の装備へと着替えをしていく。とはいえ、装備破損の可能性を考えるとレクリエーション如きに余り良い装備は使いたく無い。結局の所、僕は普段の制服に細剣・シュルクリスタ。敏捷強化の指輪・疾風のオニキスを嵌めるに留まった。


 装備を整えた後は、女子達と合流しながらメインスタジアムへと向かう。


 道中でD組の連中の装備も確認したが、大した代物は身に付けていない。流石に皆、武器は鉄製へと持ち替えている様だが、その程度だ。


 レベル、装備、経験――か……。


 考えながら歩いていると、やがて僕達はメインスタジアムへと辿り着いた。周囲を囲む観客席には空きを探すのが困難な程の多数の生徒が座っていた。正直、想像以上の動員数である。思わず気圧されている自分が居た。


 いや、それは僕だけじゃないか。


 D組の生徒全員が、思わぬ観戦客の多さに驚き困惑し、浮き足立っている様である。



「ちょ……な、何これ……!?」


「影山先生、任意での見学って言ってたよね? 2年生……ううん、3年生も全員居ない!?」


「コイツら皆、チケット買ったのかよ!?」


「それだけ注目されている一戦という事か?」


「いや、と言うより……これは――」



 答えた相葉が、僕の方へと振り返る。


 ……へ?



『キタキター!! 石瑠翔真だァァッ!!』


『待ってたぜェ、1年ッ!!』


『生徒会長のお気に入り!!』


『階層主を倒した実力、見せてみろォッ!!』


「あ、ああぁ……」



 観戦席からの盛り上がりの声に、僕は全てを察してしまう。まさか殆ど僕目当て!?



「……とんだ人気者だな?」



 神崎が僕の肩をポンと叩いて来る。


 う、嬉しくね――ッ!!


 僕が頭を抱えていると、頭上から何やら聞き覚えのある声が聞こえて来た。



「翔真――ッ!!」


「げぇっ!?」



 あ、藍那姉さんだ……!! 御丁寧に2-Bの御仲間さん達と一緒に観戦席へと座っている!? 連絡も無しに家を数日留守にしていたからなぁ……多分、怒ってるよね? また折檻で尻叩きだとか言いだされたら敵わないし、此処は聞こえなかったフリでやり過ごそう……!!



「くっ、聞こえないのか!? 翔真――ッ!!」


「ちょ! 身を乗り出すと危ないわよ、藍那!」


「ホットドックとコーラ買って来たぞー! ったく、女子共は男をパシリに使いやがって……! って、何か騒がしいな……?」


「騒ぎの原因はアレですね」


「翔真――ッ!! こっちを向け翔真ァッ!!」


「……あー、例の弟君」


「流石に話題性が違いますからね。僕達が1年の時はこんなに観戦客は多くなかった」


「慎也!! 京介!! 喋ってないで、アンタ達も藍那を止めなさいよッ!!」


『えー』


「えー、じゃないっ!!」


「……どうでも良いけどさ、真希。アレ絶対聞こえてるよな?」


「翔真ァァァ――ッ!!」



―――――――――――――――――――――


 近況ノートに本作の外伝01話を投稿しました。01話とありますが、続くかどうかは執筆状況次第です(本編を優先するから) 翔真になる前の主人公のお話ですね。読めば物語の設定考察が捗りますが、別に読まなくても問題ない構成にはしてあります。


 興味がある方は覗いてみて下さい。


 ではでは、また次回(ง ˙˘˙ )ว

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