第96話 作戦会議②
――SIDE:鳳紅羽――
「今、何と言ったんだ……?」
翔真の一言に驚愕し、水を打ったかの様に静まり返る周囲。恐る恐るその疑問を口にしたのは先程まで作戦を提示していた卜部君だった。
「棄権しようと。そう言った」
「な、何で……?」
「何でもなにも無いだろ〜? 今回のクラス対抗戦には勝ち目が無い。負けると決まってる戦いを態々受ける馬鹿はいないさ。よって棄権する。怪我なんかしたら今後の学校生活にも響くしさ。骨折り損のくたびれ儲けなんて、しないに越した事は無いでしょ?」
あっけらかんと。宣う翔真。
けれど、私達はそんな事では納得しない。
納得なんて、するものか。
「ふざけないで!! アンタ、自分の言ってる意味が分かっててそんな事を言ってるの!?」
「言ってる意味ぃ? ……対抗戦開始と同時にD組生徒全員が
「――ッ」
巫山戯た態度でそんな事を言う翔真。
流石の私も絶句してしまう。
――いいえ、私だけじゃないわ。これまでクラス対抗戦を見越して準備を行って来た生徒全員が、翔真の言葉に怒りを覚えていた。
「……石瑠。残念だがそれは承服出来ない。君の言うソレは積極的な敗北だ。とてもではないが、看過は出来ん」
「ふーん……卜部。級長は僕の筈だけど?」
「例え級長でも、おかしいと思った事には否定する権利がありましてよ!? 翔真! お願いですから思い直して下さいましッ!!」
卜部君と武者小路さんが、それぞれに翔真の説得を試みる。けれど、アイツは頑として首を縦には振らなくて――
「今回のクラス対抗戦は危険過ぎるんだよ。他所の組から過度なヘイトが向けられてる上に、学校側からの安全対策は万全とは言い難い。集団
「テメェが副会長を唆したのが発端だろうがッ!? クソ、いらねぇ事しやがって……!」
そうだそうだ!! と、一部の生徒が野次を飛ばす。一年生襲撃事件の首謀者は翔真ではないのだけれど、多くの生徒にソレを説明するのは不可能だった。D組内でも、それが原因で翔真に対してマイナス感情を持つ生徒は多い。
「……そうか、そういう事か……!」
「ん?」
「石瑠、テメェ計りやがったな?」
「……はぁ?」
「テメェは級長の座を奪われるのを恐れてやがんだろう? だから、俺達に態々棄権しろだのと言ってやがるんだ!!」
「……」
「そうは行くかってんだ! なぁ? こんな奴の言う事なんざ無視しようぜ! どうせお飾りの級長なんだ。律儀に言う事なんて聞く必要ねぇ!」
周囲を扇動する様に、磯野が叫ぶ。
「俺達で勝手にやっちまえば良いんだ! なぁ、そうだろう!? テメェら――ッ!!」
……磯野の言っている事は無茶苦茶よ。級長である翔真が棄権をしてしまえば、私達D組は何も出来ずに敗退してしまう。
合理的じゃない。
けれど――
「……良いだろう。君の言葉に賛同する訳では無いが、今回はソレに乗ってやる」
「何もせずに敗北するなど、武家である私が出来る筈もありませんわ……!」
「……スマン翔真。お前が言ってる事も分からない訳じゃないんだけれど、何もせずに諦めるのは、やっぱり違うと思う。俺は――俺達は、戦う事を選択するよ」
卜部君、武者小路さん、総司の三人は翔真の提案を蹴る事に同意したわ。
当然、私も同じ気持ち。例え不利と分かっていようとも、何もせずにただ諦めるなんて事はしたくない。そんな事の為に、私達は汗水垂らしてABYSSを探索していた訳じゃないもの。
「だったら……好きにすればいいさ。僕は一応、警告はしたからな?」
つまらなさそうに、翔真の奴はそう言った。
対する皆の反応は冷たいものだわ。
「――余計な、お世話……!」
「探索者が臆病風に吹かれてどうすんじゃ!」
「そーそー。瀬川の言う通り! 石瑠……ちょっとばかしお前の事を買い被ってたぜ! たかがアカデミーの行事でビビり過ぎなんだよッ!!」
「所詮は劣等生。これで貴方も終わりね?」
「ザマーミロ! バーカ!!」
「方向性の違いとはいえ、残念だ……」
「ひゃひゃひゃっ! テメェの味方なんか、もう誰もいねーよぉ!? 引っ込んどけ腰抜け!!」
腕を組んで目を瞑る翔真。皆からの罵詈雑言は聞こえないというポーズなのかも知れない。
「折角、周囲の評価も上がってたのに……」
……私には、今の翔真が何をしたいのかが分からない。ただ――周りの反応を見ると、熱していた感情は何処かへと消え去り、ただ虚しさだけが胸の内に去来していた。
「仕方がないよ、紅羽ちゃん」
「早希……」
「皆の前であんな事を堂々と言っちゃったら、そりゃあこんな反応にもなるよ……」
「早希は、どう思ってるの?」
「私? 私は――内緒だけど、石瑠に賛成。元々報道志望だから、戦いが好きって訳じゃないしね。……私以外にも、同じ事を思ってる生徒はいると思うよ? 三本松さん達とか、何も声を上げてないでしょう? そーゆーこと」
耳元で囁く様にして、早希は私に教えてくれた。確かに、戦闘力に自信がないであろう生徒は翔真の提案を悪く思っていないのかも。
――だからと言って、D組の棄権を受け入れる気は無いけれど。
「……石瑠は降ろされるかもね」
「え?」
「級長の座だよ。勝っても負けても、これじゃあ敵役でしょ? 何かしらの難癖を付けられて、級長から降ろされると思う」
「!」
「でも、問題はその後――誰が"後釜"に座るかだよね。磯野は石瑠を級長に推した三人を許さないと思う。あの手この手で責任を擦り付け、自分が級長に納まろうとする。そうなったらもう、D組は終わりだよ……」
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