第95話 作戦会議①


 さてさて、どうしたもんかな……?


 影山からの説明を受け、浮き足立つD組の生徒達を眺めながら、僕は一人熟考する。


 教室を出て行った影山が言うには、1時間後には会場入りしてなきゃいけないらしいし、難しい作戦を練る時間なんて何処にも無かった。


 ただ、基本方針ぐらいは決めとかなきゃいけないだろう。正直面倒なんだけど、其処彼処そこかしこから刺す様な視線が注がれている為、仕方無しに動くしか無い。


 本当、級長なんて成るもんじゃないね。

 溜息を吐きながら、僕は皆へと向き直る。



「えーっと……誰か何か作戦ある?」


「それを考えんのが級長の役目だろうがッ!」



 言った側から熱り立つ磯野。

 瞬間湯沸かし器かコイツは。



「今はそういうの良いから。兎に角、何か意見を出して。良さそうだったら採用してやるよ」


「く……ッ!」


「やっぱ級長狙いっしょ! 頭を潰してドカンと勝つ!! これしかねーって!」



 馬鹿の一つ覚えの様に級長狙いを進言する鈴木。言いたい事は分かるんだけどなぁ?



「それは難しいとさっき言っただろう! 欲を出して貴重な戦力を無駄にするつもりか!?」


「だってよー!? 全体的な戦力で劣ってんだから、賭けに出るしかねーだろ!? 縮こまってちゃそれこそ各個撃破されちまうよ!」


「下僕の言う事にも一理ありますわ。武者小路には座して死を待つ趣味はありません! 攻勢案に賛成致します!」



 オーホッホッホと、高笑いする武者小路。此れを切っ掛けとして鈴木の提案に賛同する生徒も増えてきた。全体的に少数だが、一発逆転に賭けたい生徒というのも確かに存在していた。



「級長とまで飛躍しなくとも、PTリーダーを個別に狙っていけば良いんじゃないのか?」



 挙手した相葉が、新たな作戦を提案する。



「一つのPTを複数のPTが集中して狙い、確実にポイントを取っていく。今出来る最善手はこれぐらいだと思うけど……?」


「うむ、現実的じゃのぅ!」


「私も総司の提案に賛成するわ!」



 攻勢案なのは変わらずだが、鈴木の案を現実的にしたのが相葉の作戦らしい。先程とは打って変わって、此方は大勢の支持を得ている。


「他に意見は無いのかい? 芳川とか、どっちの提案にも賛成してないみたいだけど?」



 僕が促すと、考え込んでいた芳川が自分の意見を切り出してくれた。



「……私は、守りに徹した方が良いと思う」


「芳川さん?」


「そう上手く多対一の状況が作れるのかしら? 今は特に他の教室から狙われてる状況でしょ? むしろ数の上では此方が不利になるんじゃないかなって……ごめんなさい、不安にさせて」


「いや、良い意見だと思う」


「そそそ、そーだよ! 芳川さんの言う通り! 自分達から戦いを仕掛けるなんて危ないよっ!」



 新たに出た芳川の慎重案に番馬・三本松が同調する。総合力上位と下位の生徒から支持を受けたこの提案は、攻撃一辺倒だったD組の意見に軽い波紋を呼ぶのであった。



「失礼。俺からも良いか?」



 挙手したのは卜部正弦。コイツの場合、てっきり脳死で芳川の意見に賛成すると思っていたんだが、どうやら違ったらしい。



「仮に守りに徹していたとしても、他の教室との交戦は避けられない。敵のレベルが此方よりも上手だと言うのならば、俺達の防御を崩す事だって容易な筈だろう? ……先程の芳川さんの意見を補足する形にはなるが、守りと同時に攻撃を行うというのはどうだろうか?」


「守りと同時に……?」


「どう言う事だよ、卜部?」


「つまり、PTの一人を集中して狙い続ける。リーダーを削る等と余計な欲は出さなくて良い。一人でも人員が削れれば良いんだ。陣形を崩された相手は此方を追う足が鈍るだろう。弱った相手は他の教室の攻撃に晒される。要はヘイトの分散だ」


「……一般生徒を倒したとしても、ポイントは少ないのではなくて?」


「何も得られないよりはマシだろう。塵も積もれば何とやらという奴だ。交戦した生徒が最後まで生き残れば、更に+10RPが加算される。充分勝機はあると思うが?」


『おぉ……!!』



 卜部の説明に、D組の殆どの生徒が唸ってしまう。攻守共にバランスの取れた良い作戦だ。伊達に眼鏡は掛けていないな? こういった頭を使う作戦立案は卜部正弦の独壇場である。攻勢案を表明していた鈴木や相葉も納得顔だ。恐らくは皆、これ以上の作戦は出せないだろう。


 ……決まりだね。


「いけるいける!」と、俄然盛り上がる周囲を眺めつつ、僕は改めて皆へと宣言する。



「――棄権しよう」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る