第91話 仲良くなってる?
――SIDE:相葉総司――
4月23日日曜日。午後3:30。
現在俺達は、ABYSS第6階層を進みながら個々の自己鍛錬に励んでいる。行うのは専らレベル上げだ。
特に見違えたのは歩だろう。
「――終わったか……」
今までは全員で対処していたウェアウルフだったが、最近は歩1人で倒してしまっている。レベルもそうだけど、単純に技量が上がったかの様に思える。……俺も負けてはいられないな。
「皆、お疲れ!」
現れた魔物……ウェアウルフ×3とキラーバッド×6の混成部隊を倒した俺達は、各自の消耗を確認する為に声を掛け合っていた。
「やはり徒党を組まれると厄介だな……」
「でもでも! 歩君凄いよね〜! 全部一太刀で倒しちゃってさ!」
「敵の動きが読めてるって感じ? 私だってまだそこまでじゃないのに……」
「あぁ――それは……」
回答するのを悩みつつ、ややあってから言葉の続きを口にする歩。
「……翔真のおかげだな。奴から少し、探索についての"いろは"を学んだ。ウェアウルフの動きを読み切れたのはソレが要因だろう」
『へ!?』
「いや、実はその……少し話す機会があってだな……大した事はない。それだけだ」
「いや、それだけじゃないでしょ――!?」
紅羽が、堪らず口を挟む。
「歩君、いつの間に翔真君の事を名前呼びにしてるの!? しかも呼び捨て……私達の事だって未だに名字呼びなのに!?」
「む――?」
驚く歌音だが、俺と紅羽は別の部分でも引っ掛かりを覚えてしまう。
でもって、歩がソレに突っ込んだ。
「……そう言う東雲こそ、奴の事を名前呼びにしているじゃないか。返す言葉で悪いが、一体何時からそうなった?」
「え! あ!? それはそのぅ……最近、ね?」
「か、歌音……?」
歌音へと、訝しむ視線を送る紅羽。良く分からないが、修羅場だけは勘弁して欲しいぞ。
ていうか――
「――何だよ、お前達ばっかり狡いぞ! 俺だって翔真とは仲良くなりたいと思ってるのに!」
「べ、別に――」
「仲良くと言う訳では……」
それっきり口籠もってしまう二人を見て、俺は何だか抜け駆けされた気分になってしまう。
歩が強くなったのも、翔真の助言のおかげなのか? だったら俺だって――
「あー気に入らないっ! 何よ! 何処で何やってんのよ、アイツは!!」
「く、紅羽ちゃん?」
「散々人の事を心配させておいて、歌音と会ったり、歩に世話焼いたり何なのよ!? 私にはアイツの考えが何一つ分からないわ!!」
「まぁまぁ、落ち着け紅羽」
「……総司、でもっ!」
「俺だって翔真の考えは分からないけど、歩に助言をしてくれたって事は、少なくともD組の事を完全に放り投げてはいないって事だろう?」
「それは……まぁ」
「なら、俺達がヤキモキしても仕方が無いさ。アイツも今は級長なんだし、クラス対抗戦に向けて何か準備をしているのかも知れない」
「……準備って? アイツが学校に来なくなってから、もう一週間が経過しちゃったのよ? クラス対抗戦は来週の金曜日。今日を逃せば自由探索だって出来やしないわ!」
「……まぁ、それはそうなんだが……」
俺は思わず、言葉に行き詰まる。
今回、D組の士気は高い。
翔真が提示した、クラス対抗戦で成績が上位だった者が級長に成れるという条件に、皆が皆飛び付いているからだ。
特に顕著なのは磯野・榊原だ。
磯野の奴は現在LV.8。到達階層は[4]に伸びている。榊原もそれに続く形でLV.7。階層数は同じく[4]と、レベルだけで言えば級長選出戦を行っていた時期の俺達よりも高くなっていた。
いや……進行速度で言えば、俺達以上か?
とは言え、此処からが経験値減衰に引っ掛かるラインである。今後はレベルも到達階層も伸び悩む事になるだろう。
生徒達の成長は喜ばしい事だが、それでも尚油断が出来ないのが現状の不味さだ。
現在のD組はABC組に強く敵視されていた。
原因は言わずもがな。
俺達は姉の藍那さんからの口振りで、翔真が例の"一年生襲撃事件"の首謀者でない事を知っている。だが、他の教室の連中はそんな事は決して信じないだろう。結果としてD組は各方面から狙われる状況となってしまった。
敵の士気も高い……。
何せ連中は騙し討ちを仕掛けられたと思っているのだ。仇討ちに燃えるのも理解出来る。
自力の差で劣っているD組が唯一勝利を手にする可能性があったのが、連中の"驕り・侮り"だったのだ。だがそれも、今では期待出来ない。
加減なんてしない。連中はきっと、全力でD組を潰しに掛かって来るだろう。
その時になって――俺達は勝てるのか?
少し、弱気になってしまう。
「……情けない話だが、今は翔真に賭けるしか無いだろう。奴の此処ぞという時の勝利を手繰り寄せる力を――俺は信じる」
「歩……」
歩の言葉に、押し黙る紅羽。
……やれる事なんて、そう多くは無いか。
「――探索を続けよう。今より少しでも強くなる。俺達に出来る事は、それだけだ」
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