第87話 学生寮での平和な一日
「――という事があったんだが、何か言う事はあるか? ……石瑠?」
「ンまァァ――い!!」
「……」
「いや〜、まさか神崎がこんなにも料理が得意だとは思わなかったよ。君、将来は良いお嫁さんになるんじゃな〜い?」
「っ……、嫁ではなく、旦那だ!」
「へ? あぁ。知ってる知ってる。そんなのは言葉の比喩じゃん。冗談も通じないなんて、相変わらずクソ真面目だね〜君は」
神崎の手料理に舌鼓を打ちながら、僕は気分良く笑った。何せ店で出される物と遜色の無い和食料理が食べれるんだもの。テンションだって上がっちゃうよねー♪ 石瑠家だったらこうはいかないよ? 野菜に付いてたアブラムシを貪ってたのが今じゃ嘘の様な気分である。
「それで……良いのか?」
「ん? 何がさ?」
「その、心配している様だが……?」
あぁ……妹の麗亜が心配してるとか言うあの話か。甘い。甘いよ神崎。
あの石瑠麗亜が石瑠翔真の事を心配する筈ないだろう!? これは実に巧妙な罠さ。姉さんを使って僕を誘き出し、またまたメイド達と結託して僕を虐め抜こうっていう魂胆さ!!
そうはいかんざきッ!!
今の僕には神崎シェルターが存在する!!
謂わば絶対安全圏。
此処に引き篭もっている間は誰からの攻撃にも晒されない。正に
だって言うのに……。
態々戻る訳ないだろォォ――ッ!?
馬鹿は休み休み言えァァァ――ッ!!
内心で勝ち誇る僕。……とは言え、心配事が皆無という訳でもない。
「そんな事よりも、だ。――そ、そのぅ、東雲の様子は変わりないかい? 僕が学校に来なくなって、あの……怒ってたりとかは……?」
「東雲? いや、普段通りだったが?」
「そ、そっか――! いや、それなら良いんだ! 変な事を聞いたね! はは、ははははは……」
焦る僕に小首を傾げる神崎。
どうやら、首の皮一枚繋がった様だ。
下手をすれば裏切ったと見做されて金玉を腐らされてもおかしくなかった状況だからね。
今は様子見と言った所か。
何とかして
ま、それはさておき――
食事を食べ終えた僕は、食後休憩も兼ねて自身の
1-Dの生徒の近況は神崎に教えて貰ったけれど、具体的にどう数値に表れているのか確認しておきたかったしね。
生徒番号の上位から見ていくか。
1.[ディフェンダー] LV.10 相葉総司 [6F]
2.[サムライ] LV.10 神崎歩 [6F]
3.[メディック] LV.9 東雲歌音 [6F]
4.[シューター] LV.9 鳳紅羽 [6F]
「お!」
「どうした? ……何を見ている?」
聞いてきた神崎に、僕は表示していた
「全員
原作レガシオンでの10階層適正LVは10。つまり相葉達は今この段階で理論上階層主を撃破可能とする実力を有しているという事である。
第6階層でこのレベルは早い。
獲得経験値の減衰が生じていただろうに、良くもまぁチマチマと上げたものだ。
とは言え、と――
僕は表示する教室を移動して、1-Cの生徒表へと目をやった。
1.[カリスマ] LV.19 通天閣歳三 [9F]
2.[ドラマー] LV.18 恋沼打鬼 [9F]
3.[ギタリスト] LV.18 西園寺六朗 [9F]
4.[ベース] LV.17 山田鱈子 [9F]
……何で
以前考察した通り、やはり階層主戦で引っ掛かっているな。
「10階層到達はまだまだ先か……」
「今はレベリングを重点的に行なっているからな。それがなくとも、暫くは階層主に手を出そうという気は俺達には無い」
「ふん……ま、賢明だね」
「……聞きたかったのだが、お前はどのようにして階層主を倒したのだ? 何故挑んだ? それもたった一人で……LV.1で挑むなど正気の沙汰ではない。気でも狂ったのかと思ったぞ?」
うぉ、突然の質問攻め。
普通ならはぐらかす所なのかも知れないけれど、神崎は僕に良くしてくれてるしね。答えられる所は回答してやりたい。
「いやいや、挑む気なんて無かったよ? 直前まで僕はABYSS探索をサボってたし、1-Dの級長なんて面倒臭い立場も欲しくなかった!」
「なら、何故――?」
「妹の麗亜が何者かに攫われたんだ。返して欲しかったら9階層まで来いって伝言付きでね。で、行ってみたら麗亜は暗示に掛かっていて、10階層に転移しちゃったじゃない? 慌てて追い掛けたら、済し崩し的に階層主と戦闘する羽目になっちゃったって訳」
「……それが本当なら、殆ど殺人の様なものだぞ!? 攫った犯人はどうした!?」
「ぜ〜んぜん、分からない」
嘘。本当は目星は付いているけど、神崎に話しても仕方が無いので、此処では黙っておく。
「警察に、連絡は――?」
「しても意味ないさ。ABYSS内部でのゴタゴタに連中は関与しない。教師も同じ」
――まぁ、実際に死人が出てたなら、話は別なのかも知れないけどね?
「ならば受付は? ABYSSを管轄する特機なら、石瑠の妹を攫った相手も分かるのでは?」
「……念の為確認してみたけど、駄目だった。犯人は受付にも暗示を掛けていたらしい。ご丁寧に記憶・記録ともに消されていたよ」
「そんな事が……」
出来る手合いと言えば一人しかいない。頭隠して尻隠さずって所かな? 最も、本気で隠蔽しようとしていたのかは疑問だけど。アイツの事だ。見付かったら見付かったで「それはそれで面白そうっ☆」とか、考えてたんじゃない?
相手をする方は大変だよ。本当に……。
「……階層主戦なんだけどさぁ。アレは上手くやればLV.1でも倒せる仕様になってるんだよ」
此処には製作者の意図を感じるよね。魔神イーフリートには回避不能な攻撃パターンは存在しない。防御無視のクリティカルというシステムを駆使すれば、例え低レベルであろうともダメージを通す事が出来る。即ち、時間が掛かろうとも地道にやってれば勝てるのだ。
――どうぞ挑戦してみて下さい。
言外に製作者がそう言っている様に思えた。
「敵の行動パターンを見切って、適切な場所で回避を行い、適切な場所で攻撃する。それさえ出来ればどんな相手でも倒せるんだ」
「しかし、初見では――」
「難しいだろうね〜。僕には階層主についての知識があった。だから上手くいったのかも?」
「……前々から思っていたのだが、石瑠の知識は一体何処で身に付けたものなんだ? お前は、余りにもABYSSに詳し過ぎる……」
「え? あー、それは――……」
……何て言えば良いんだ? 考えつつ、僕はこれだけは説明出来ないと頭を振る。
「――言わないし、内緒だよ。誰だって一つや二つは隠し事はあるもんだろう?」
「それは――確かにな」
僕がそう言うと、神崎はあっさりと引き下がる。聞き分けが良いのもコイツの美点だね。
「神崎には借りが出来ちゃったからね。他にも戦闘で聞きたい事があるんだったら、アドバイスしてやっても良いよ?」
「そうか? なら――」
こうして、学生寮での夜が更けていく。神崎は僕の助言を真面目に聞きながら、時折関心した様に頷いてくれていた。
……レガシオンについての知識を、誰かに話すのは初めてだった。友人というものが居たとしたら、こんな感じなのかも知れないな。
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