第83話 蛇に睨まれた蛙の様に


 廊下をズンズンと進みながら、僕は自身が苛立っている事を自覚していた。紅羽の事が憎いのか? 我道の事が憎いのか? 裏付けも取らずに悪意をぶつけてくる周囲が憎いのか? 自分でもそこの所は分からなかった。


 ただ一つ言えるのは、僕は人間が嫌いだって事だ。面倒臭いし、煩わしい。不必要に感情を波立たせるから、接していると疲れてしまう。



「……どうでも良くなって来たなぁ」



 呟き、僕は立ち止まる。昼休みを終えた後の廊下は人通りが少なく、辺りには誰もいなかった。帰宅する者。部活動を行う者。授業探索に励む者。生徒達の行動は様々だ。


 アカデミーの授業探索は強制じゃない。探索者育成校として名乗っているが、部活動なども心身を育む手段として奨励されている。探索をしようにもマイレージポイントが不足して充分な装備を整えられない生徒だって存在するし、そう言った輩の為に探索区ではこの時間にもアルバイトを行う事が出来るのだ。


 現在の僕のポイントは、20万MP。

 今の所、金策に勤しむ必要は無さそうだ。


 10階層を超えたばかりだし、今日の所は何もせずに帰宅しても良いかも知れない。


 ……帰ったら、麗亜や藍那姉さんに昨日の事を詰問されるんだろうなぁ……。


 正直、もう嫌だった。僕の事を嫌いな相手と、コミュニケーションを取りたく無い。


 元々僕はコミュ症なんだ。人付き合いの悪いコミュ症。ある程度の会話をする事は出来るけれど、内心じゃ滅茶苦茶疲弊してしまう。人の機微? 気持ちとかも全く理解出来ないし、空気が読めないから良く地雷を踏み抜く。皆が理解している事を僕だけが理解出来ず、また、その逆も多々あった。そういう時に感じる疎外感が苦手で、だったら一人で良いやと過ごし続けて27年。他人との接し方なんて忘れてしまったよ。



「帰りたく無いなぁ」



 本音が思わず口に出た。


 僕が"石瑠翔真"である以上、帰宅する場所は石瑠邸なのだろうが、僕自身としてはあそこは僕の居場所では無いと感じている。僕を毛嫌いする妹の麗亜。優しさの欠片も無い姉の藍那。嫌がらせしかしてこないメイド達。……居心地だって最悪だ。それに何より最低なのは、本質的に僕は"石瑠翔真"では無いという事だろう。


 別人を演じるのは疲れるし、気が引ける。


 石瑠翔真と僕の性格は似ているよ? それは認める。僕自身、何処までが本音で何処までが演技なのか分からなくなる事だってある。けれどさ、だからって周囲に嘘を吐き続けている罪悪感が消える訳じゃ無いんだ。


 叶うならば――


 1DKの、あのアパートに帰りたい……。


 元居た僕の家。


 僕の居場所。



「――石瑠君?」


「!」



 窓枠に手をやりながら、ボーっと外を眺めていると、突然背後から声を掛けられた。


 振り向いた其処には、クラスメイトの東雲歌音が立っていた。彼女以外は誰もいない。予期せぬ一対一の状況に、僕は内心で焦っていた。



「こんな所で奇遇だね? 石瑠君も今日は授業探索をお休みしたんだ?」


「え、あ、あぁ……」


「何か用事とか?」


「いや……」



 言ってから、僕は内心で「しまった」と後悔する。適当な用事をでっち上げて、この場から退散すれば良かった。


 最も、東雲のこの様子――簡単に逃してくれるとは思えない。彼女の正体を見破っていた事。その事を知られてしまったのが、僕の犯した最大の失態だ。周囲に人の目が無い中、彼女がどう言った行動を取るのかは予測出来ない。



「ふーん……なら、時間余ってるんだ?」


「そそそ、そういう訳では……!?」


「暇でしょ? なら、ちょっと付き合ってよ」


「だ、だから――! おわっ!?」



 東雲に手を取られ、強引に近くの教室へと連れ込まれてしまう僕。此処は――空き教室か? 暗幕の様に締め切られたカーテン。乱雑に配置された机の上には、備品の様な物が入ったダンボール箱が幾つも積み重なっている。


 

「はい、拉致完了ー♫」


「……へッ!?」


「チョロいよね、石瑠君。扉開けようとしても無駄だよ。私がスキルでロックしたから」



 雰囲気を変えた東雲が、僕に向かってそう言った。慌てて教室の扉に手をやるも、石の様に固まった扉は軋みすらしない。


 堂々とした歩みで教室の中を物色する東雲。やがて目当ての物が見付かったのか、彼女は手頃な椅子に手を掛けると、積もった埃を払い落としながら、教室の中央にソレを配置した。



「――それじゃあ、お話しよっか。石瑠君は地べたで良いよね?」


「……」



 良いも何もあったもんじゃない。


 椅子に座りながら、僕の顔を見詰める東雲。その目には『絶対に逃がさない』と言った固い意思を感じる。身震いする程の殺気が、彼女の身体から放出されているのだ。


 選択権なんてありはしない。僕は促されるままに東雲の対面へと膝を突いた。



「イビル・プリーストかぁ。総司君達はピンと来てなかったみたいだけれど、転職先の予想にコレを上げるのって、結構失礼な事だよね?」


「そ、それは……っ」


「ね、石瑠君? 君は?」



――――――――――――――――――――


 ――お目汚し失礼!!


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 これも偏に皆様の応援のおかげ(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)!!


 応援の分、読者様に還元出来るよう作品の執筆を頑張って行きたいと思いますので、これからも変わらず☆の評価や♡の応援、感想等をよろしくお願い致します(ᐢ 'ᵕ' ᐢ )!!


 近況ノートも時折更新したいと思っていますので、興味のある方は覗きに来て下さい。


 ではでは、また明日⊂( っ˘ω˘)っスヤァ… 

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