第81話 やさぐれ翔真
A組の教室から逃げ出した僕は、目的も無く人通りの少ない廊下を歩いていた。相当な恨みを買ってしまったのは確かだろう。下手をすれば連中、怒り狂って武力行使をしてくるかも知れない。そうなると居所が知られているD組に戻るのは危険だし、かと言って、他に逃げ込める場所なんて思い付かない。
浮き足だった感情を落ち着かせる為、僕は一先ず足を動かし続けていた。今頃1-Dの皆はABYSS探索に精を出しているのだろうか?
僕もそっちに混ざりたい……!
何も考えず、唯々、迷宮を探索したい!!
……ていうか、さ。
一番悪いのは我道じゃね……? アイツが1年の教室を襲撃なんてしなきゃ、事は平和に済んでたんじゃないの? 何で僕が諸悪の根源みたいな扱いを受けにゃならんのだ!?
そりゃあ、名前は出しましたよッ!?
1年の中で強い奴って聞かれて、鶯達の名前を出さない訳にはいかないじゃないか!?
仮に尋ねられたのが僕じゃなくても、彼等の名前は出ていたし、遅かれ早かれ、我道は連中に目を付けていたんだ!!
それをヤレ、石瑠が悪いだ何だと言って――
理不尽だろう――!?
理不尽、理不尽、理不尽!!
面と向かって文句が言えないから、言い易い僕の方に言って来てるとしか思えない!!
くわ〜〜〜!!
考えたら、腹が立って来たぞ……!!
なーにが許さないだよ、ボケ!!
ロクな話も聞かずに敵認定しやがって!!
あーいいよ!!
勝手にしなよ!?
元々僕等は敵同士なんだしさ。嫌われ者が更に嫌われたって、失う物なんて何も無い!
僕だって、お前ら何か嫌いだよ!!
「クソクソクソッ……! ――んん?」
「ッ、翔真!?」
廊下の向こう側から駆けて来たのは、紅羽と宇津巳。それと、見覚えの無い上級生の三人だった。何やら急いでいる様子だったが、僕の姿を見るなり、彼女達は驚き足を止めている。
何か気不味い……。
それに、さっきまで悪意のある視線に晒されたばかりだしな。正直、気持ちが滅入っている。これ以上、傷口を抉られたくは無かった。
行くなら行け。
立ち止まるな。
用なんて特に無いだろう?
僕の願いとは裏腹に、紅羽の奴は足を止めて此方へと向き直っていた。何か聞きたい事でもある様な面構えである。……勘弁して欲しい。
「我道先輩の話、アンタ――聞いた?」
「……ッ」
嗚呼、やっぱりか。
やっぱりその話か。
この女、相変わらず的確だ。
的確に僕の弱みを突いて来る。触れて欲しく無い事に触れて来て。逆に、助けて欲しい時には何もしない。流石は鳳紅羽と言った所か? 息を吸う様に"石瑠翔真"を苦しめる。
もはや芸術的と言っても良いだろう。
「……聞いたも何も、もう知ってるだろう?」
「知ってるって?」
茶番の様なやり取りをしながら、僕は内心で歯噛みをする。知らない訳ないだろう? あんなに騒ぎになってるんだしさ。飽くまでも僕の口から事を説明をさせようって魂胆か?
「……口で説明するよりも、自分で
「待ちなさいよ!」
「ぐえぇっ!?」
立ち去ろうとした瞬間、紅羽は僕の後ろ襟を掴んで来た。く、苦しい……! 首が絞まり、思わず喉の奥から変な声を出してしまう……!
「だ、だにずるんだ……!?」
「アンタが勝手に行こうとするからでしょ!? 話したい事があるの! 少しくらい待って――」
「紅羽ちゃん、紅羽ちゃん! これ見て!!」
「え――?」
話の途中で、宇津巳が遮る。彼女の手にはSNS掲示板を表示した
「何よコレ……! 1年のABC組を副会長が襲撃! その裏には石瑠翔真の影が――って!」
「これはこれは……凄い事になったねぇ?」
「文字坂先輩ッ!」
「おっと、失敬。でもね、鳳君。今回の件に限っては僕は白だと主張しておくよ。部員に偏向報道を指示する時間なんて無かったし、そもそもそんなつもりも僕にはない」
「――!?」
「彼を見てたら分かるだろう。もう、小細工なんて必要無いんだ。流れは勝手に出来上がってしまっている。――で。そこの翔真君に聞きたいんだけれど、実際の所、この記事に書かれている事は本当の事なのかい?」
「な、何をいきなり?」
……ていうか、誰?
疑問が伝わったのか、目の前の上級生は軽く微笑み、前髪をファサリと掻き上げると、僕に向かって自己紹介を始める。
「申し遅れたね。僕は2-Bの文字坂白嶺。報道部の部長をやらせて貰っている」
「報道部……という事は、もしかして取材?」
「まぁ、そう受け取ってくれて構わないよ」
「……」
人当たりの良い笑顔を浮かべる文字坂先輩。報道部からすれば、今の僕はカモだからね。お仕事スマイルという奴だ。
報道部繋がりで宇津巳早希がこの場に居るのは違和感は無いんだけれど、紅羽の奴は一体どうして此処にいるんだ? 1年教室からは離れてしまっているし、それこそ、人目を避ける以外に、こんな廊下を歩く意味は――
……人目を、避ける……?
その時、僕の勘がピーンと来てしまった。
報道部の二人に、僕の事を毛嫌いしている紅羽。アンチスレの異常な盛り上がり。石瑠叩きの情勢を考えると、自ずと答えは出てしまう。
「ははっ……そっか、そういう事かぁ……」
「な、何笑ってるのよ? キモいわね……」
くっくっと嗤う僕に対して、紅羽は尚も人の心を傷付ける様な事を口にする。
この暴力性――間違い無い。コイツは確実に報道部と結託している。僕の不利になる様な記事を書かせて、裏で北叟笑んでやがったんだ。
……そう言えば以前、アンチスレがどうのと紅羽から言って来た事があったな? アレは自分の行いを隠す為のカモフラージュだった訳だ。ネットで叩かれていた僕が、どれだけ傷付いているのか、探りを入れようとしていたな!?
何方にせよ……趣味が悪い!!
僕の事が嫌いなのは分かっていたさ。
けれど、普通そこまでするかァァッ!? 裏でコソコソ報道部と接触してまで、ネットに僕の悪い噂を流そうとするぅッ!?
その神経が分かんないんだよォォッ!?
こんなん、完全に虐めじゃん!!
SNSで叩かれる事なんて、アッチの世界でだって普通に有ったし。有名税だと思って受け入れていたさ。けれど今回の件は違うだろう!?
気に入らないなら、面と向かって言えば良い。顔も見えないネットを使って、僕の悪口を書き込むというのは余りに姑息……!!
そんなに僕の事が嫌いかよォォッ!?
うばぁぁ――! 許せんこのビッチィィッ!!
「――最初に聞いておきたいんだけど、此処に書かれている噂は全て本当の事なのかな?」
「先輩ッ!」
取材を強行する先輩と、それを嗜める紅羽。
あーあ……もう、全てが胡散臭い。
差し出された
「……本当の事ですよ、先輩」
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