第72話 初レベルアップ


 「――11階層、無事更新……っと」



 目の前に広がるのは、だだっ広い草原だ。空には雲が浮かび、本物の風が流れている。屋内だった今までとは違い、11階層からは屋外の"草原エリア"へと切り替わる。見晴らしの良い場所ではあるが、出て来る魔物は強力だし、何より道中の距離は此方の方が長くなっている。広々とした視界の中、転移石の姿を見付けられないのがその証拠。属性攻撃も此処からが初出だっっけかな? 敵が使用する特殊攻撃は、主に風属性を使って来るので、耐性装備は必須だろう。


 あーあ……間違いなく1位だよ。


 級長を辞退する――何て事は、許してはくれないんだろうなぁ……?


 これからの事を思うと、憂鬱だ……。


 気を紛らわす為に自身の魔晶端末ポータルを取り出し、ステータスを確認する。


 呪いの指輪カースリングも外したし、イーフリートを倒した分の経験値が入っているから、当然レベルも上がっている筈。自身のステータス数値がどれくらい上昇したのか、少しばかり楽しみだった。


――――――――――

[石瑠翔真いしるしょうま] LV.10

[ノービズ/★★★]

総合【250】

――――――――――

腕力【35】

体力【45】

技量【60】

敏捷【60】

知力【30】

運命【20】

――――――――――

[パーソナル・スキル]

○不眠症★★★

○あがりぐせ★☆☆

○鈍感★★★


[パッシブ・スキル]

単独行動ソロプレイ★★★

○経験値効率★☆☆

○タフネス★★★


[コマンド・スキル]

○マッピング+[03]★☆☆

○索敵[05]★☆☆

――――――――――



 まず目に付いたのが、自身のレベルだ。


 LV.10という数値は悪くない。今後11〜20階層を攻略していく上で、高過ぎず低過ぎずな数値と言った印象だ。


 注目するのは総合力だろう。


 総合【250】という数値は、一般的にLV.20の探索者が到達する事の出来る数値である。この時点で"石瑠翔真"固有のステータスの低さは、問題にはならなくなっていた。技量や敏捷が高いと言うのも有り難い。僕自身、テクニカルな運用を好む性質なので、プレイングに直結する能力値は上がっておいて欲しかったのだ。


 職業ジョブの方は――後で何とかしなきゃな。勿論、考え無しで[ノービズ]で放置している訳では無い。近い内に、僕が希望とする職業ジョブへと転職してやるさ。その為にはまだ色々と準備が必要だ。……見て分かる通り、現段階ではコマンド・スキルが貧弱過ぎるからね。欲しいのは此れを補う為の必殺技さ。いざと言う時の奥の手になる様な、破壊力のあるスキルを僕は求めていた。


 ついでだから、他の情報も見てみるか。


 到達階層数について。


 4月16日日曜日。現段階での高等部1学年の最高到達階層数は以下の通りである。


 1-A……第18階層

 1-B……第15階層

 1-C……第9階層

 1-D……第11階層


 僕自身がやる気を出さなければ、1-Dの進捗は第5階層で止まっていた筈。そう考えると、随分とはっちゃけた事をしてしまったなぁと、後悔の念を抱いてしまう。


 ……まぁ、麗亜の身に危険が迫っていたんだから、仕方が無いよな?


 1-Cは階層主戦で完全に停滞してるね。級長の通天閣はABYSS探索は二の次な性格だし、それが災いしてこの位置にいるのだろう。


 1-Bは順調。級長の地獄斎なら20階層の階層主も問題なくパス出来るだろう。


 1-Aは――少し遅いか? 御子神みこがみうぐいす針将しんしょう兄妹と言う猛者が居るんだから、もう少し上に行っていてもおかしくは無いんだけどな?


 まぁ、それを言ったら2年生の進捗も遅いか。


 ゲームと違って命懸けだからな。

 慎重に成らざるを得ないのかも。


 階層主なんて、挑んだら最後。

 勝てなきゃその場で死んじゃうからね。


 そりゃあ、中々挑戦は出来ないよ。



「後、気になるのは生徒会か……」



 端末を操作しながら、僕は2〜3年の生徒表に目を通して行く。


 [3-A][天帝] LV.50 天樹院八房 [44F]

 [2-A][武神] LV.40 我道竜子 [32F]

 [2-C][アイドル] LV.37 狂流川冥 [29F]


 分かっちゃいたけど、まだまだ連中には敵わないな。天樹院がLV.50か。なら、少なくとも僕はLV.30にまで上げないと太刀打ちする事は出来ないって訳だ。今の経験値効率から言って、30階層の階層主を倒せばそれ位にはなるかもね。


 ……しかし、2年生は激戦区だな。


 我道や狂流川とかいう化物連中を相手に、藍那姉さんは何処まで善戦出来るのだろう? 思いながら、僕は2-Bの情報もチェックする。


 [2-B][ブレイバー] LV.25 石瑠藍那 [22F]


 ……うーん……キツい。


 そもそも姉さん、級長でも無いしな。


 一応B組のトップPTには所属しているけれど、見た通りレベルは並だし、職業ジョブも全くレアでは無い。到達階層数が22というのも寂しい所だ。これでも一週間前よりは伸びてはいるんだけれど、力不足は否めないな。


 このままだと、来年はC組に転落か。


 頑張ってはいるんだけどねぇ……?

 流石に相手が悪過ぎる。



「……そろそろ行くか」



 確認を終えた僕は魔晶端末ポータルのアプリを切って、画面をトップに切り替える。


 結局、誘拐犯は見付からずか。良い様に踊らされちゃったなー……。



「まぁ、犯人の見当は付いてるんだけど……」



 証拠が無けりゃ、強くは出れないしな。


 本当、狂人っていうのは厄介だよ――

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