第61話 ラブの波動


 思わず、語彙を失う僕。武者小路のおっぱいは、それ程までに破壊力が大きかった。1-D最胸。金髪ドリルにロケットとか、どんなスーパーロボットですかァァ――ッ!? 思わずツッコミを入れたくなる様な思春期の男子を誘惑する魅惑の爆弾巨乳である……!!


 神に感謝!!


 一般ゲーの"レガシオン・センス"では絶対に拝めない光景を、今僕は目の前にしていた。昨今は女性への配慮という奴で、セクシャル面での規制も激しかったから感動も一入だ。思わず屹立する我がJr.。此処まで頑張った甲斐があったよな? ……何だか、報われた気分だよ。



「なななな! 何ですの、その表情はッ!? 一体――ど、どこを大きくしてますのォッ!?」


「何処と言われても……」



 それを、僕の口から言わせる気か? 暗にそう言ったニュアンスを含ませると、武者小路は手で胸元を隠しながら、益々顔を赤面させた。


 エロい。非常にエロい。


 が――


 ……流石に、悪ノリが過ぎたな。


 興奮したのは事実だけど、武者小路は怪我人だ。セクハラ紛いの言動は自重すべきだろう。



「……悪かったよ、武者小路。もう見ないから、お前はあんまり無理をするな。足、怪我してるんだろう? 動かし過ぎると悪化するぞ?」


「よよよ、余計なお世話ですわ!! 大体貴方、何でこんな場所に居るんですのッ!?」


「こんな場所って……?」


「もっと先に進んでいた筈でしょう!? 態々戻って来て、私を嘲笑いに来たのですか!?」



 武者小路は僕の進行具合に大凡の見当を付けていたのかな……? ただ、もっと先と言われる程、第3階層を進んでいた訳じゃないけどね?


 休み休み。ゆ〜っくり探索してたからさ。


 そう言った事情を知らないと、武者小路みたいな感想が出るのかも? 手抜きがバレて怒られるのも嫌だし、此処は黙っていた方が得策だ。



「僕の進捗は置いておくとして、何でそんな発想になるのさ? それに嘲笑うって……確かに僕は他人よりも性格が悪いと自覚してるけど、頑張ってる奴を馬鹿にする様な趣味は無いよ?」


「頑張ってる!? 何を根拠にそんな事を……」


「こんな時間までお前、一人でABYSSに潜ってたじゃん? 普通の生徒ならやらないし、これを頑張って無いとは言わないでしょう?」


「……唯の空回りですわ……! 現実に、貴方が現れなければ死んでいました! 武者小路家の当主として、あってはならぬ醜態です!!」


「……だから?」


「だからって……だから、私は――ッ!」


「――武者小路は今、生きているだろう?」


「!」


「初の自由探索でABYSSに14時間潜り、アクシデントでPTを離脱。単独ソロで探索を続行し、疲労困憊の中で格上相手に生き残った」


「……」


「こんだけやった相手に、頑張って無いなんて言えないよ。仮に言う奴がいたとしたら、ソイツはABYSSに潜った事も無いトーシロだね。気にする必要なんて何もない」


「……貴方は――」


「え?」


「貴方は、私の事を認めていますの……?」



 何を言うのかと思えば。


 そんなこと?



「――認めてるよ? 文武両道。総合力上位で顔も可愛いく、おっぱいもデカい。高飛車な癖に仲間想いで、才能偏重と言うよりは努力家な所も好感触だね。こんな完璧な御嬢様、他の何処にもいないだろう? 認めない訳無いじゃない」


「――」



 僕が言い切ってやると、武者小路の奴は勢いを無くして、体育座りをしながら顔を伏せる。その両肩は僅かに震えており、鈍感な僕でも彼女が今どんな状態なのかは察しが付いていた。


 ――暫く、何もせずに時を待った。


 やがて気持ちに整理が付いたのか、顔を上げた武者小路が、僕の事を見詰めて来る。



「……良くも泣かしてくれましたわね……? 女人を泣かせるとは、殿方として失格ですわ!」


「勝手に泣いといて何言ってるんだよ? 大体、僕は思った事しか言ってないからなー?」


「……では、私を可愛いと言ったのは?」


「完全に本音」



 てか、コイツは鏡を見た事が無いのか?



「……貴方の、許嫁よりも?」


「は、はぁ!? 何でそこで紅羽がッ!?」


「――」



 武者小路は、僅かに伏し目となりながら僕の言葉を待っていた。乙女の様ないぢらしいその姿が、僕の心を動揺させる。



「……当然! 月とすっぽんくらいの差はあるね!! 武者小路が月で、紅羽がすっぽんな!?」


「そ、そこまで私の事を……!」



 口をモゴモゴとする武者小路だけれど、僕としては間違った事は何一つ言っていない。


 紅羽と比べたら、そりゃそーなるわ!!


 ……ていうか、何だこの会話!?


 何でちょっと良い感じの空気になっているんだ!? 相手は怪我人だぞ!? 冷静になってみると、こんな事をしている場合じゃないだろう?



「……話はまた今度だ。皆が帰りを待ってる。転送区へと戻るよ?」


「あ、私……魔晶端末ポータルが――」


「え?」


「その、途中で落としてしまいまして……」


「……マジか」


「あ、でも! 落とした場所なら分かりますわ! そこまで連れてって来れたら、私――」


「待て。連れてって来れたらって……どゆこと? 僕にお前を負ぶれって……?」


「……いけませんの?」


「……」



 いかん。頭がくらくらして来た。


 恥じらいながら上目遣いで此方を見詰める武者小路。その姿は、非常に小聡明あざとかった。



「貸しにするからな?」


「ふふ、宜しい♪」



 武者小路の奴はころころと笑った。か、可愛いじゃないか……! 内心の動揺を悟られぬ様、僕は急いで武者小路の身体を抱き抱え――


 ――あ、無理だ……。


 僕は早々に諦める。



「スマン、武者小路……」


「どうしました?」


「――重くて無理。運べない……」



 腕力値の低さは、こんな所にも影響した。


 次の瞬間――僕は、ウェアウルフよりも恐ろしい、ナニカへと襲われるのであった……。

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