第60話 ウェアウルフ戦②


 あ、危ねェェ――ッ!?


 武者小路を見付けたのは良いけれど、マジでギリギリだったァァ――ッ!?


 後少し割って入るのが遅かったら、武者小路は死んでいたかも知れない……!


 自身のファインプレーを内心で褒め称えながら、いやいや、こんな事態に陥ってる時点でアウトですからッ!? ――と言う、謎のツッコミをする自分も居た。


 兎にも角にもウェアウルフ! この魔物、羽目を外し過ぎなんだよ……ッ!? 焦った分だけ八つ当たりをかましてやるからなァッ!!


 ウェアウルフのモーション・パターンは三種類。突進からの下段切り裂き弱攻撃と、立ち中連打に、身体を捻った強攻撃だ。


 被弾率が高いのはこの下段だろう。攻撃発生が早いから、来ると分かっていても見切るのが難しい。防具が貧弱な初心者の内だと、下段弱攻撃とは言えそこそこ痛い。可能ならば上手く処理したい所である。


 安全策を取るのなら――構えは"こう"だろう。


 両足のスタンスを大きく取り、僕は細剣レイピアを左手に構えながら大股となる。そのまま右膝を地面へと着けると、背後に居た武者小路が驚く様な声を上げる。



「な、何をしゃがんでおりますの!? 敵は目の前に居ますのよ――ッ!?」



 ……五月蝿いなぁ。

 仕方ないから、答えてやるか。



「……パターンを潰してるんだよ」


「パターン?」


「こっちの行動によって、魔物の行動は変化する。こうやって、あからさまに下段攻撃を警戒して見せると――だッ!!」



 会話途中で挟まれる強攻撃。発生の遅いソレをバックステップで回避しつつ、すかさず前ダッシュで追撃を敢行。攻撃直後で硬直するウェアウルフの右肩を貫いた。



「欲しい攻撃を誘発させられる――バトルの基本だから、覚えておきなよ」


「――」



 格好付けて言ってみたが、ダメージ自体は非常に浅い。傷付けられた怒りで両腕による連撃を出鱈目に放つ人狼。細剣レイピアは打ち合いには滅法弱いので、僕はコレを見切って回避する。途中挟まれる大振りにだけチクチクと反撃をし、敵に自身の攻撃が無意味だという事を教えてやる。


 ――とは言え、総合力の低さは如何ともし難いな。ただの攻撃ではウェアウルフ相手に有効的なダメージを叩き出せない。


 クリティカルを狙うしかないか……。


 "レガシオン・センス"というゲームには、HPや防御力と言った概念は存在しない。有るのは防具の耐久力と、種族値により設定された"硬さ"のみ。LV.1の人間が、LV.100の人間の心臓に刃を突き立てた時、実際に殺せてしまうシステムになってるんだよ。此れを不条理と見るか、条理と見るかは人それぞれ。ただ、個人的な意見を言わせて貰うと、いつまでも緊張感を味わえるのはシステム的にたるまなくて良いと思う。僕は結構気に入っていた。


 大物狩りジャイアント・キリングも狙えるしね……。


 今回の獲物は、ソレよりも小粒だけど、慣らし運転するには丁度良い。獣人種の弱点部位は人間と同じで頭と心臓。狙い易いのは胸部だけど、今の腕力で心臓まで穿てるかは微妙だな。


 となると、頭か。


 人狼の頭蓋骨はゴブリン何かと違って、硬いからな。やるなら工夫が必要だ。



「っ、と」


「危ないですわッ!!」



 壁際に追い詰められた僕を見て、オーバーなリアクションを返してくれる武者小路。安心して下さい。わざとですよ。欲しい攻撃の誘発。さっき教えた事を、もう忘れてるの?


 好機と見て、僕へと突っ込んでくる人狼。


 無防備を晒しながら、僕はウェアウルフの眼前に、右手に持ったを掲げる。



『――ガフンッ!?』



 掲げたのは銀の鎖。


 剣帯として腰に着けていたソレを、ウェアウルフの鼻っ面に近付けてやったのだ。狼男の弱点は、銀の弾丸というのが相場だからね。原典再現に定評のあるレガシオンなら、特殊モーションを仕込んでいると思ってたよ。


 狙い通りに顔を持ち上げてくれたな?


 ガラ空きとなった"喉"へと、僕は細剣レイピアの切っ先を突き立てた。



『ギャ』



 人狼から短い悲鳴が漏れる。


 喉から入って脳を抉る。切っ先が脳天に達した事を確認し、手首を回しながら細剣レイピアを引き抜くと、ウェアウルフは脱力した様にその場へと倒れてしまう。


 命の灯が消える時、結晶化の光は発生する。敗れたウェアウルフも同様で、亡骸から発生した燐光は、人狼を小さな魔晶へと変換させた。



「終わったの、ですか――?」



 恐る恐る、僕へと訪ねる武者小路。


 ウェアウルフの魔晶を魔晶端末ポータルに吸い込ませながら、僕は待たせてしまった武者小路へと振り返る。



「取り敢えず、脅威は去っ――てェェッ!?」


「!?」



 思わず、素っ頓狂な声を上げる僕。



「な、何ですの!? 突然変な声を出して!?」


「何って言うか、お前……ッ!」



 武者小路へと振り返った際、僕は漸く彼女のそのに気が付いた。


 胸元部分が破かれた制服。恐らくはウェアウルフの爪にやられたのだろうけれど、切り裂かれたブラジャーからは、真白くたわわな乳房が零れ落ち、その柔肌を外気へと晒していた。



「……? 私が何か?」


「おぱ、おぱっ……!!」


「オパオパ?」



 ――気付けよ!! ファンタジーなゾーンがオープンしてるんだっつーのッ!!



「――おっぱいッ! ……オッパァァイッ!!」

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