第58話 第3階層③ 翔真
またまた、厄介な事になったもんだ。
時刻は21時。ABYSS探索1日目。
経過時間は14時間。
武者小路が行方知らずになったと聞いたのは、午後の18時頃だった。芳川からの提案で探索の一時中断が出たのは良かったんだが、各PTに連絡を取ってみると、鈴木の奴が武者小路を見失ったという事を送って来た。
何でも小休止を取るか取らないかで揉めて、先を行った武者小路を追わなかったんだと。すぐに戻って来ると、鷹を括ったのが間違いだった。武者小路の奴は1時間が経っても帰って来ない。慌て始める鈴木達。その時点で時刻は16時だったらしいんだが……あの金髪ドリルお嬢様は、一体何処まで行ってしまったのだろう?
問題発生に溜息を吐きながら、僕は自身の
事情を聞いた僕は、相葉・芳川にこの事を知らせ、全PTに転送区への【緊急脱出】を指示した。これ以上、問題を起こす連中を増やされても堪らないからね。一人残った僕は、第3階層を練り歩き、武者小路を探していた。
せめてもの救いは、夜になってから遭遇する魔物が激減した事だろう。第2階層で異様な好かれっぷりを見せた僕だけど、第3階層でもその状態は変わらなかった。アレが今でも続いていたらと思うと、ゾッとする。
ABYSSの2層、3層なんて言うのは、殆どの人間はもう通り過ぎた場所なんだ。故に、一般通過探索者の姿は何処にもない。此処に潜る人間と言うと、高等部の1-D。もしくは中等部の3年くらいが良い所だろう。それも、こんな時間帯まで潜ってる連中なんてほぼいない。僕は目撃証言を得られぬまま、ABYSS内の武者小路を捜索しなければいけないという事である。
ABYSSの中は広大だ。第3階層を勘頼りで捜索したとしても、武者小路を見付ける事は不可能だろう。第4階層への転移石へと辿り着いた僕は、その事をより重く実感するのだった。
「此処で張っとけば、武者小路が現れると思ってたんだけどなぁ……」
かれこれ1時間は待ったが、誰も来ない。
無駄な時間を浪費したな。
第3階層の攻略なんて、
怪我をして、動けなくなっているのか……?
第3階層から出現する"ウェアウルフ"は強敵だ。順当に探索をしていたら、初めて対峙する人間大の魔物だし、目の前に現れたら恐怖だろう。面倒臭がってゴブリン狩りをサボっていた探索者は、此処で早くもABYSSの洗礼を受けるのだ。――もしかしたら、ウェアウルフにやられたのかも? エンカウント率は低いけれど、この時間帯まで潜っていたら、一体や二体は出会していても可笑しくはないよなぁ?
「……」
今一瞬。最悪な想像をしてしまう。喰い殺された武者小路。死の直前の怯えた彼女を想像し、僕は陰鬱な気持ちになってしまう。嫌な気分を振り払う様に、首を軽く横に振る。
「――とにかく、一から全部探し直しだ」
僕は自身の
メール内容は探索域の共有提案だ。三つのPTのマッピング情報をそれぞれ統合しようという話である。当然、僕の方も情報を送るから、先程到達した第4階層の転移石の場所はバレバレである。人命には代えられないし、元々負ける気だったから、別に何でも良いんだけどね。
「!」
さっそく、返信が帰って来た。
皆は僕のマッピング情報に驚いていた様だけれど、それとは関係なく、探索域の共有には賛成して貰えた。……先に送った甲斐があったね? まぁ、それじゃなくてもコイツらがマッピング情報を渡さない筈は無いだろう。
送られて来た添付ファイルをマッピング画面で読み込んで、第3階層の地図情報を更新する。
「これで、準備は出来たな……」
呟くと同時に、僕は頭の中で"使用"を念じながら、コマンド・スキル【索敵】を使用した。[ノービズ]のジョブ・マスターで修得出来るこのスキルは、マップ上の生命体をサーチする効果を持っていた。人間と魔物の区別が出来ないのは難点だが、人探しには有益なスキルだろう。
「表示されたマーカーで、移動が恐ろしく鈍い奴……多分、これが武者小路だ……」
地図上に表示された黄色い光点を見詰めながら、僕は呟く。思ったよりも早くに見付かったな。これが駄目なら、マップの未探索域を虱潰しに探すしか無かっただろう。
後は、武者小路の居る地点まで急ぐだけ。
「キャラロストとか、冗談じゃない……!」
頼むから無事でいてくれよ……!!
願いながら、僕はその場から駆け出した。
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