第55話 第2階層③ 翔真


 ABYSS第2階層を探索中。現在はお昼の12時って所かな? 空いて来た腹の度合いで大凡の時刻に見当を付けた僕は、大量の魔物に追われつつ、何だか今日は運が悪いなぁと、しみじみ感じてしまっていた。



「てか、何なんだよ全く!?」



 追いかけて来るのは集団のゴブリンだ。差し詰め現場はモンスターパニックッ!?


 何か恨みを買ったかよォォ――ッ!?


 執拗に追い掛けて来る緑のアイツに振り返りながら、僕は通路を疾走した。


 ――分かるよ?


 トッププレイヤーが雑魚相手に何を梃子摺ってるんだって思ってるんだろう?


 実際、奴等を殲滅するのは容易いさ。


 例えLV.1だったとしても、僕が負ける道理は1ミリも無い。だったら、何で逃走してるのかって言うと、奴等が際限無いからだ。


 いや、本当マジで。


 まるで僕の行手を阻む様に、ゴブリン達は何処からとも無く湧いて来るのだ。


 階層内の全ゴブリンが、僕に襲い掛かって来てるんじゃないかと、自虐的になっちゃうぐらいにはキリが無い。


 レベル上げをしている訳も無し。MPを稼ごうにも魔晶を回収してる暇も無い。


 骨折り損のくたびれ儲け。


 ――だったら普通、逃げるよねェェッ!?


 誰だってそうするゥ――ッ!!

 僕だってそうするゥ――ッ!!


 今回の話はこれで以上だ!! 続きは階層更新をしてからゆっくりとしよう! 連中、流石に階を跨いでは追って来ないと思うしねっ!



「ん? 着信……?」



 そうこうしていると、ポケットに入れていた僕の魔晶端末ポータルが震え出す。もしや誰かからの救難メッセージか?


 ……面倒だが、仕方が無い。


 僕は走りながらポケットから魔晶端末ポータルを取り出すと、新着として表示されているメールのアイコンをタップした。


 差出人は――神崎か!


 という事は、連絡は相葉PT。一番大丈夫だと思っていた連中なんだが、何があったんだ?


 僕は走りながらメールの内容を読み始める。



「なになに……?『端末からジョブチェンジと言う表示が出たんだが、これは進めても良いのか?』――だって?」



 ……全然、緊急でも何でも無いじゃん。


 つか、ジョブチェンジね? そっかぁ、真面目に授業を受けてたら、[ノービズ]のジョブ・マスターもそろそろだもんな。残念ながら、僕は一日授業探索をサボってしまったから、彼等とは時差が出来てしまっている。


 ……無視しても良いんだが、折角、メッセージを飛ばして来れたんだもんなぁ……。


 考えてみたら、こうやって誰かとレガシオンについて話すのは初めてか。ボイスチャットだと敷居が高かったけど、メールでのやり取りなら緊張せずに話せるな……。



「仕方が無い、返信して――って!?」



 曲がり角から、突然短剣が飛んで来た!!


 あ、危ねぇ……!?


 壁に突き刺さった短剣を見つつ、僕は新手とは逆方向に向けて駆け出した。メールの文章を打ちながら――である。



「えーと、えとえと! 受付に言えば下位職には戻せる!! 10万MPを払いたく無ければ、慎重に――ぬぉッ!?」



 今度は何事――ッ!?

 上からスライムが降って来やがった!?


 足が遅いからって、油断したッ!!



「くっ――取り敢えず、送信!!」



 立ちはだかるスライム達を、煌めく細剣レイピアの突きでもって屠って行く僕。


 雑魚に足止めをされたら、雑魚が追い付いて来てしまう――!! 手早く処理をしつつ、さっさと先へと向かわなければ――!!


 忙しくなる最中、僕は片手で魔晶端末ポータルを操作し、先程の文章の補足を打つ。


 選択肢を選ぶと、ソレに対応する職業ジョブが修得出来るぞ……っと!


 職業ジョブは本人の資質で決定するから、他人が同じ職業ジョブに就ける訳じゃあないぞ……っと!!


 ――送信!!


 送った瞬間、ゴブリンの弓矢が僕のすぐ横の壁へと突き刺さる。――いかん。レア個体まで出て来てしまった!?


 思った次に、震える魔晶端末ポータル



「今度は何ィ――!?」



 これじゃあ完全にワンオペだ! 慌てながらもメールをチェックする指を止めない僕。


[flom:神崎歩]

<東雲がヒーラーの選択肢を選んだ場合、職業ジョブは何になるか分かるだろうか?>


 ……今聞く事か? それぇ……ッ!?


 僕目掛け、一斉に駆け出すゴブリン達。


 奴等から背を向けて走りながら、僕は必死に文章を打っていく!!


 えーっと! 東雲! 東雲だろう!?



「イビルプリースト! ――送信、と!!」



 メールを送った直後。

 僕は通路から広い空間へと飛び出した。


 中央に浮かぶのは――転移石!!

 という事はつまり、此処が第2階層の終着点。


 漸く、辿り着いたという訳である。


 長かった――



「――転移!!」



 ポチりと、端末を操作する僕。気が付けば視界は眩い光に包まれて――僕は新たなる階層、第3階層へと足を踏み入れていた。当然、追い掛けて来た魔物の姿なんて何処にも無い。



「だはッ!! つ、疲れたぁ……!!」



 知ってはいたものの、景観は第2階層と変わらない。石造りの四角い迷宮が何処までも広がっていた。取り敢えず、当初の目標はクリアって事かな? ……他のPTの到達階層も調べるか。


 魔晶端末ポータルを操作して、今度は1-Dのクラス表を表示する。確認するのは相葉、芳川、武者小路の到達階層だ。



「――げ」



 全員、未だ第2階層。

 第3階層は、僕が1番乗りじゃないか。


 ぶらぶらと時間を潰しながら探索をしてたんだけどなぁー! 経験の違いが此処に来て出てしまったかー!? カァー、辛れェー!!


 ……などと、イキっていても仕方が無いか。



「……階層更新は出来た事だし、一旦戻って、外でラーメンでも食って来ようかなぁ?」



 そういや、途中のメール。あれ、結局どうなったんだっけ? 忙し過ぎて打った文章を忘れてしまった。話しちゃいけない内容とか、話して無いよねぇ? その点だけが心配だ。


 ――ま、僕の事だから抜かりは無いと思うけどー? 外でゆっくりとお昼でも食べながら、送ったメールでもチェックしよっと。



「とんこつ味玉。炒飯も付けちゃおっかな♪」



 空腹の腹を摩りながら、僕は魔晶端末ポータル機能の【緊急脱出】を使用する。


 自身のメール文章を読み返して、顔面を蒼白にさせるのは、数十分後の事である――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る