第53話 第2階層① 相葉PT


 ――SIDE:鳳紅羽――



 ABYSS第2階層に潜ってから、既に3時間が経過していたわ。平日の授業探索なら此処で転送区へと帰還するのだけれど、今日はこのまま続行ね。肉体の疲労を然程感じていないのは授業でのレベル上げが効いてるのかも。出て来る魔物達の脅威度も下がり、私達は非常に安定した探索を行えていると思う。



「全員、体力はどうだ?」



 先頭を歩く総司が私達へと振り返り、皆の体調を聞いて来る。此処からは一応未知の領域だから、総司も慎重になってるのかも。



「俺は大丈夫だ」


「私も問題無いわ」


「案外イケるもんだよね? 私も大丈夫だよ」



 三者三様の返事を聞くと、総司は「なら、後2時間はこのままで行こう」と提案したわ。


 2時間か……つまり、併せて5時間。通常5時間も歩きっぱなしなら身体は疲れてしまうのでしょうけれど、不思議と体調には変化が無いわ。レベルアップの恩恵とでもいうのかしら?


 レベル、か……。


 ふと思い、私は自身の魔晶端末ポータルを取り出すと、クラス表を表示させる。


 25.[1-D] [ノービズ] 石瑠翔真LV.1 [2F]


 其処には入学以来更新されていない、翔真の情報が載っていた。勿論、生徒の情報はリアルタイムで更新されている。変わっていないのは、翔真が1レベルも上げていないからだ。


 総司や歩の話から、翔真の奴が探索者としての努力を影ながらしている事は分かったわ。けど、それとこれとは関係無い。LV.1の――しかも、総合力最下位の生徒が、単独ソロで私達と競おうとしている事自体がおかしいのよ。


 しかもあの馬鹿、女相手に格好付けちゃって、自分の手持ちの回復薬を渡す始末。翔真の実績から言って、お金だってそんなに無いだろうに、女に譲っている場合じゃないでしょう?


 本当に、信じられない……!


 何時も私の事を尻軽だ何だと罵ってるけど、自分だって同じじゃない。芳川さんはまだしも自分の事を悪く言っている早希にまで回復薬を渡すんだもの。どうかしていると思うわ。女だったら誰でも良いの? 私、アイツのああ言う八方美人な所は本当に嫌い。それこそ、股間に付いてる無駄な物をねじ切りたくなる位だわ!


 ……思い出したら、腹が立って来た。


 尻軽。尻軽ね……そんなに言うならお望み通りにしてあげようかしら? 総司でも誘って、アイツの目の前でデートしてやるの。身体を密着させて、首に腕なんて絡ませちゃって。アイツがどんな顔をするのか見物だわッ!



「……いや、何を考えてるのよ、私……」



 そんな当て付けで他人を利用したら、それこそ翔真の言う通りの尻軽じゃない。総司にだって悪いわ。私は自身の妄想を振り払う様に、両手で顔をペシペシと張った。


 ――と、その時だ。



「ん? ――なに?」


「これは……」


魔晶端末ポータルが震えて……?」


「――ジョブチェンジ、だと?」



 私達は一斉に自身の魔晶端末ポータルが震えた事を感知する。画面を見てみると、そこには[ノービズ/★★★]という文字と[ジョブチェンジ可能]という文字が、デカデカと画面に表示されていた。



「これって、ジョブ・マスター……?」


「スキル【索敵】を修得しているぞ!? これが[ノービズ]の最後のスキルなのかも……?」



 索敵――? 総司に言われ、私は自身のステータスをその場で確認した。


――――――――――

[鳳紅羽おおとりくれは] LV.4

[ノービズ/★★★]

総合【72】

――――――――――

腕力【12】

体力【10】

技量【15】

敏捷【15】

知力【15】

運命【5】

――――――――――

[パーソナル・スキル]

○ツンデレ★★★

○移り気★★☆

○鈍感★☆☆


[パッシブ・スキル]

○臨戦★★★

○早口★☆☆

○ガッツ★★☆


[コマンド・スキル]

○マッピング+[03]★☆☆

○索敵[05]★☆☆

――――――――――


 相変わらず納得出来ないパーソナル・スキルよね……? 一体私の何処がツンデレなのよ? 鈍感とか移り気とかも殆どが悪口じゃない!?


○ツンデレ★★★

[恋愛感情を抱いた相手に素直になれなくなる。★レベルが高くなる程にデレ難くなる。恋愛感情を抱いた者の数×全ステータス+10%]


○移り気★★☆

[異性限定で好意を抱き易くなる。★レベルにより効果は上昇。★レベルにつき知力+20%上昇]


○鈍感★☆☆

[精神操作を確率で無効。痛みによる怯みを減衰。★レベルにつき+20%上昇/鈍感になる]


 効果内容も、正直どうなの?ってレベルの奴がチラホラと見えている。恋愛感情を抱いた者の数×全ステータス10%上昇? 書いてる事は凄いけど、喜ぶ事は出来ないわ!


○臨戦★★★

[先制攻撃率・攻撃速度上昇。★レベルにつき+20%上昇]


○早口★☆☆

[コマンド・スキルのクールタイムを短縮。★レベルにつき-3秒]


○ガッツ★★☆

[瀕死攻撃を受けた際に確率で復活。★レベルにつき+1回。+30%復活]


 パッシブ・スキルの方はまだマシね。他の探索者よりも弓矢を放つ速度が上なのは【臨戦】のスキル効果なのかも知れないわ。魔物と遭遇した時、偶に考えるよりも早く弓を引いてる時があるんだけど、もしかして先制攻撃って、そういう事? 攻撃系のコマンド・スキルを持ってないから【早口】の効果はまだ分からない。それと【ガッツ】も同様ね。確率で復活と書いてあるけれど、そもそもの話として、瀕死攻撃なんて受けたく無いわ。


○マッピング+[03]★☆☆

[魔晶端末ポータルのマップに周囲300mの情報を表示させる。★レベルにつき+2回]


○索敵[05]★☆☆

[魔晶端末ポータルのマップに探索階層の生体反応を表示させる。★レベルにつき+2回]


 残り二つのコマンド・スキルは[ノービズ]の★レベルを上げた際に修得した物だった。何方もサポート用だけど、ABYSS探索には有用な物だと思うわ。


 問題は新たに提示されたジョブチェンジという機能よね。話には聞いていたけど、これってすぐに選んでしまっても良いのかしら?



「うぉ! 何か選択肢が出て来たぞ!?」


「え!? 総司君、先進めちゃったの!?」


「呆れたな……」


「いやだって、いつかはやらなきゃいけない事だし……不味かったかな?」


「選択肢って何が表示されてるの?」


「あぁ、これだよ」

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