第49話 意外な施し
――SIDE:卜部正弦――
探索者の鉄則か……まさか、
探索者の優先事項はABYSS内の資源を採取し国内へと持ち帰る事だ。勝ちに拘る余りに、俺は初心を忘れていたのかも知れない。
ABYSS探索について精通した様な口振りを見せる彼。……成程。何処で仕入れたのかは知らないが、彼の武器はその"知識量"なのかも知れないな。総合力最下位と言えども油断は出来ない。少しばかり彼に対する認識を改めよう。
最も、武者小路は気付いていない様だが――
「少しばかり探索者の知識があるからって、下位の生徒が偉そうにし過ぎじゃありません?」
「そうは言ってもよー、オジョウ。石瑠の奴の忠告は的を射てるぜ? 何処で聞き齧ったかは知んねーけど、間違った事は言ってねーよ」
「……俺も、同意だ」
「べ、別に反対している訳じゃありませんわ! 私は態度の事を言っているんですッ!!」
受付に荷物を預けたなら、すぐに元の場所へと戻れば良いのに……武者小路は、仲間内で石瑠に対する愚痴を溢している様だ。
陰口か。それもリーダーがコソコソと。率直に言って、奴に級長の資格は無いだろう。
1-Dを纏めるのは、芳川さんしかいない。
相葉総司も悪くは無いが、奴では万人からの評価は得られまい。妬みや嫉妬から反発する生徒は現れるだろう。1-Dが一丸とならねば、格上の教室勢に勝てる筈もない。不和は極力無くすべきなのだ。級長に相応しい人物。生徒全体から好かれる存在――そう考えた時、芳川姫子以外の適任は俺の中にはいなかった。
「セイくん、考え事?」
「――いえ、別に」
「無理しないでね? 翔真君も言ってたけど、私達は私達のペースで頑張りましょう?」
「はい、そうですね――無理はしません」
「うふふ、偉い偉い♪」
子供をあやすかの様に、芳川さんは俺の頭を優しく撫でた。本来の俺であれば「子供扱いはしないで欲しい」と、やんわりと拒否している所かも知れないな。……不思議と、彼女に対してはそんな気持ちは湧いて来ない。
此れこそが、芳川姫子の魅力なのだろう。ささくれ立った気持ちを穏やかにしてくれる――無理をしないと言った。その言葉には嘘は無いが、彼女を勝たせる為ならば、俺には無理を押し通すだけの覚悟があった。
「余計な時間を取られてしまった……そろそろ、集合致しましょう」
「うん!」
元気よく頷き、俺の手を取る芳川さん。背後には高遠と瀬川の二人も付いて来ていた。
待機する石瑠の元へと戻って来ると、何やら彼は先に戻っていた相葉PTと話し込んでいる様子である。主な会話は石瑠と東雲で行われていた。傍で聞いては感心する素振りを見せる相葉と神崎。鳳紅羽は終始不機嫌そうだ。石瑠との関係が良くないという噂は聞いていたので、然して驚く事ではないだろう。
「――兎に角、それじゃあ全く足らないよ。僕の持ってる回復薬を分けてやるから、今後は最低でも20は持ち運ぶんだね?」
「あ、ありがとう!」
「怪しいわね……何が目的……?」
「ハッ、妙な邪推は止めなよ紅羽。君達があんまりにも頼りなさそうだから、この僕が施してやってるんだ。感謝されるならまだしも、悪く言われる筋合いは全く無いね。それともアレかな? 嫉妬でもしてる? 僕が東雲に優しくしているのが気に食わないのか〜い?」
「な! そんな事ある訳ないじゃない!」
「フン、だったら余計なチャチャ入れないで大人しくしていなよ。一々突っ掛かられるのはコッチとしても面倒なんだからさ!」
……夫婦喧嘩は犬も食わないと言うが、この場合の使い方で合っているだろうか?
鳳と言い合いをしていた石瑠は、俺達の姿を見付けると、そのまま愚痴を溢しながら此方へと歩み寄って来た。
「――確認だけど、そっちのPTの【ヒーラー】は、芳川で良いんだよね?」
「そうだけど、それがどうしたの?」
「念の為、回復薬の数を確認したい。命と直結する部分だからね。心配し過ぎかも知れないけど、なぁなぁにするのは違うでしょ?」
「ちょっと待ってて――」
言って、芳川さんは自身の
「16個だけど……足りないかなぁ?」
「東雲の9個よりはマシだね。4個渡すから、所持数は20個にして。1日の使用数を10個に区切っておけば、アイテム管理もし易いでしょ?」
「そっかぁ〜! 石瑠君って、頭良いのね!」
「探索者の基礎中の基礎だよ。ほら、回復薬。そのまま収納して」
「うん! ありがと〜!」
「鳳の言葉では無いが――何が目的だ?」
「ん?」
「態々、競争相手に回復薬を配る理由だ。君にとって不利にしかならない行動だと思うが?」
「……回復薬の中に、何か入れてたりして?」
「何ッ!?」
俺は慌てて回復薬を受け取った芳川さんへと振り返る。直後、石瑠から笑い声が上がった。
「ハハッ、冗談さ。回復薬のボトルにはペットボトルに付いているのと同じ様なキャップが装着されている。開栓済みかどうかはそこで判断出来るから、中身が気になるなら自分の目で確かめてみると良いさ」
「貴様――ッ!」
揶揄われたという事実もそうだが、何よりも石瑠のその巫山戯た態度に怒りが湧く。
「その程度の事も知らない連中だ。慈悲深い僕が回復薬の一つや二つ、恵んでやりたいと思っても可笑しくはないだろう? 謂わばこれは君達への情けなワケ。分かる?」
「情けか。似合わぬ事をシャーシャーと。石瑠翔真。君はもっと自分本位な男だと思っていたのだがな……?」
皮肉を混ぜて、俺は奴へと言ってやる。
だが、石瑠はそれには乗ってこない。
「それと卜部、お前には僕のメアドを教えておいてやるよ。何かヤバい事があったら、すぐに連絡するんだね。暇だったら出てやるよ」
「はぁ!? 待て、何故俺が――!?」
「このPTなら、お前が一番冷静そうだろう? いいから黙って受け取りなよ」
「……」
差し出された
「……仮に俺達に危険があったとして、君にどうこう出来るとは思わないが――?」
「言うねぇ優等生? なら、気休め程度に考えときなよ。実際、連絡された時に僕が暇だって保証も無いんだからさ」
気休め、か。
「まぁ、良い」
それがどんなものかは分からないが、拒否する程のものでは無いだろう。俺の
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