第43話 ファミレス会議③ 集合


幽蘭亭地獄斎ゆうらんていじごくさいとかどうです? 1-Bの級長。陰陽術の召来式符を使う奴で、こっちもオールラウンダー。接近戦も熟せる術師で――」


『級長を決めるだと? 貴様等、勝手に――!』


「……えーっと、他に際立った奴は……1-Cの級長・通天閣歳三つうてんかくとしぞうとかは結構――」


『オーホッホッホ! 何なら貴方も参加してみては如何ですー!? 私としては、大・大・大歓迎ですわ〜〜!!』


「――プチッ」



 ――あっ、駄目だ。


 説明する度に、後ろの声で掻き消される。繰り返される騒音に、我道竜子が遂にキレた。



「ウルセェェェェ――ッ!! ぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃ、くっちゃべりやがって!! 黙って食えやゴラァァァァ――ッ!!」


『――――ッ!??』



 それは正に、竜の咆哮。


 天井の壁を突き破らんばかりの叫び声に、店内に居た客は思わず身震いをした。



「――こっち来ォい!!」


「ひぇぇ!? な、何でェェ――ッ!?」



 怒り治らん様子の我道竜子は、僕の首根っこを掴むと、そのまま片手で持ち上げながら後ろの席へと向かってしまう。まるで彼女のお気に入りな鞄状態。宙ぶらりんな姿勢のまま、僕は人生の世知辛さを痛感していた。


 でもって、やっぱり居たね。



「生徒会副会長!? それに――!?」


「や、やぁ……変な所で会ったね……?」


『――石瑠翔真!?』



 立ち並ぶ1-Dの面々を眺めながら、僕は吊られたままで挨拶をする。


 鳳紅羽に相葉総司。

 宇津巳早希に武者小路美華子。

 卜部正弦に芳川姫子、か……。


 居並ぶ面子は1-Dの主力じゃないか。コイツら、雁首揃えて何を騒いでんだ?


 ――って、冷静に考えてる場合じゃないか。


 今はこの"怒れる竜"を宥めなければ。



「あ、あのぅ先輩? 暴力はステイステイで。此処は皆が使うお店なんで、暴れたりとかは――いゃぴッ!? ――ふぐぉぉオッ!?」


「少し黙っとけ、三下ァ……」


「チョッギ……プリィィィィ――ッ!?」



 我道は徐に僕の"玉"を鷲掴みにすると、そのまま握り潰す様な力で指先を食い込ませていく。女子に触れられたという嬉しさは全く無い! 僕のデリケートゾーンがデンジャーゾーンに早変わり! やめて下さい、死んでしまいます!!



「テメェら、一年だな? 馬鹿が、店の中で騒いでんじゃねーよ! 他の客の事も考えろ!!」


『は、はい……』



 あれ!? 思ったよりも正論!?

 先輩、ちゃんと注意出来てるじゃん!!


 現在進行形で僕の"玉"を締め付けなければ、満点を上げていた所である。



「――で? テメェら一体、何を騒いでいやがった!? 私にも分かる様に説明しろッ!」


「そ、それは――」



 言い淀む卜部。彼の後ろから、空気を読まない"ぽややん"な芳川が前に出る。



「実は、1-Dの"級長"を決める為のお話をしていまして。皆さん真剣だったので、ついうっかり騒いでしまいました。……ごめんなさい」



 ぺこりと頭を下げる芳川。武者小路以外の全員が、その行動に慌ててしまう。



「いや、芳川さんは何も――!」


「悪いのは私達です! 先輩!」


「最初に騒いだのは私だし……!」


「ミイラ取りがミイラになったのは事実。裁かれるのは、この俺の方かと!」


「……」



 俺も私もと、次々と謝り出す生徒達を眺めながら、我道は腰に手を当て何かを考えている。



「……お前は謝んねーのか?」



 聞いた矛先は、武者小路に向けられていた。



「私は自身の行いを悔いてはおりませんもの。糾弾なさると言うのなら立ち向かうまで。それが我が武者小路流であり、当主・武者小路美華子なのですわ〜!」



 高笑いをしながら、そんな事を言い放つ武者小路。すげぇ度胸だが――大丈夫か?


 ……今際の際に、立ってるぞ?



「フン!!」


「アイエエエ!? ナンデェェ――ッ!?」



 我道は僕の首に両手を回すと、そのままヘッドロックを仕掛けて来た。たわわな巨乳が、僕の顔に――! あ、でも苦しい!? まるで万力の様な力だ!! 首が、骨が軋むァァ――ッ!!


 だ、誰か助けてー!?

 僕は懇願する様に、皆へと視線を向けた。



「翔真! まさか授業をサボって我道先輩と遊んでいたなんて……!」


「だから言ったでしょ、紅羽ちゃん! 石瑠翔真に庇う価値なんて無いんだよ!!」


「……しかし、二人は何時の間に仲良くなったんだ? 翔真の交友関係は底が知れないな……」



 ひぇぇ、誰も心配してくれなーいッ!?

 どころか、殺気を向けられる始末――!!


 不幸過ぎて、何も言えん!!



「級長とか何とか言ってましたよねー!? あ、あれはドゥナッタンディスカッ!?」



 死の気配から逃れる様に、僕は懸命に話の続きを促した。叶うならコレで気が逸れてくれ!



「級長か……お前ら、1-Dの生徒だろう? 候補になってる奴は誰だ?」



 我道が、皆に問い掛ける。


 待ってましたと言わんばかりに、御自慢の巨乳を張ったのは、金髪ドリルロールのお嬢様。



「それは当然、この私! 武者小路美華子ですわ〜〜!! オーホッホッホ!!」



 口に手を当て高笑いを繰り返す武者小路を冷めた目で見つめながら、我道は残った生徒へと視線をやった。



「で、他は?」


「此処にいる芳川さんが級長候補となります」


「卜部君、でも私は――」


「他に適任はいません。補佐は俺が完璧に熟し

ますので、芳川さんは級長を」


「……」



 胡散臭い目をしながら、二人のやりとりを眺める我道。芳川姫子を級長に推すのは、卜部正弦の独断の様だな? 芳川本人は級長の座には固執していない模様。



「つーぎ」


「えっと……最後は、俺になるのかな? 相葉総司。一応、級長候補になってます」


「あー……」



 相葉総司の自己紹介の後、候補者の三人を足先からテッペンまで値踏みする我道。見られる方は恐怖だろう。何せ、目の前にいるのは掛け値無しの猛獣だ。下手をすれば食われかねん。

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